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ヒト旅する魔王   作者: 森乃来真
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4.神話の地(1)

「じゃから何度も言っとるだろう。何度言えばお前さんは覚えるんじゃ。これだから感覚で生きとる奴は困る」


「このくそじじい。黙って聞いたりゃ調子に乗りやがって。てめぇの話がいつもダラダラと長ったらしいから聞く気にならねぇんだ。いつもいつもくだらねー講釈を長々と延々垂れ流しやがって」


 長い道中。数えることを放棄するほどに繰り返されたゴランとクルスのやり取りは、気がつけば朝起きて耳に入る鳥のさえずりのように他愛のないものになっていた。


 我ながらこの騒音を聞き流せる日がやってくるとは思いもしなかった。慣れてしまえば見た目が大きな子供同士の喧嘩。目くじらを立てるまでもない。


「次の街はどんなところなんだい?」


 セインに問いかけると待ってましたとばかりに目を輝かせて答える。


「フッフッフッ。よくぞ聞いてくれたねアシス。次の街は伝説の戦いが行われた場所でもあり、最初の魔王が打ち倒された地とも伝えられている。人類繁栄始まりの街【聖都アレクシス】だ」


「聖都アレクシス。……私が読んだ書物には見当たらなかった名前だね。君の言い方だと随分と歴史ある街の様だけどいつからその街はあるんだい?」


「いつ?正確な事はわからないけれど現存するこの国の都市の中では最古の分類ではあると思うけど。何?もしかしてアシスも伝説の戦いに興味ある?」


「その手の伝説話はそれこそ書物で多く読んだからどの話かは知らないけれど、魔王が倒されたって話なんだろ?私は気にしないがその手の話は相手を選んだ方がいいと思うよ?」


 何気なく放った言葉を聞くと、セインはハッとして顔を伏せこれまでの饒舌が嘘の様に静まり返った。


「言ったろ私は気にしないと。それに男の子はその手の逸話に惹かれるものだとよく師匠が言っていたよ」


「すまない。……ところで君がよく話すその師匠って一体どんな人?」


 どんな。私をよく小馬鹿にして生きる為にと頼んでもいないのに戦いを叩き込み、人の失敗を見ては笑い転げる。悠に数百年前の事なのに昨日のことの様に思い出しては沸々と怒りが込み上げる。


「私を苛立たせる事に長けた人だったよ」


「ハハッ。凄い人だったんだろうね」


「なぜそうなる?」


「感情を表に出さない君にそんな顔をさせられるからさ」


 不覚にも指摘されるまで自分がどんな顔をしているのか気づかなかった。幾年経っても記憶にこべりつくとはどれほど粘着気質なの人だろう。


 と言っても師匠以外との思い出なんてほとんどないに等しい。そう思えば数少ない他者と関わりを持った貴重な記憶とも言えるか。


「まぁある意味では凄いと言えなくもなかったよ。豊富な知識に加えて絶対的な強さを兼ね揃えていたからね」


「君ほどの強者が絶対的なんて言うぐらいなのだから相当なモノなんだろうね。ちなみに僕が君の師匠と戦ったとしたらどうなる?」


「……そうだな。仮に一人で戦ったとしても恐らく数分程度なら戦えるんじゃないかな。師匠が全力でなければだけどね」


「全力なら?」


「戦いが始まったと同時に終わるだろうね」


「それじゃあ、もしも僕たち4人とならどうだい?」


 いつまでも子供みたいな質問ばかり。と言いたいところではあったが興味津々に問いかけるセインを見ているとそう無碍に出来ない。


「まぁ良くて数撃与えられるってところかな。もちろん全力でないことが前提だけどね。全力なら触れることさえできないよ」


「それは凄い。だけどこんな僕でも当代勇者の1人としての誇りがあるだけに、確かな目を持つ君にそう言われると少し悔しいな。ちなみにアシスが戦ったとしたら?」


「瞬殺だろうね。元の力を持っていたとしても。持っていないとしても」


 誇張でも過大評価でもなく師匠の強さはそれこそ桁が違った。これからいくら鍛えようともセインも私もあの領域に辿り着くことは叶わない。そう断言できるほど私たちとは違った。


「はいはいはい。もう街に着くんだからいつまでもベラベラおしゃべりしない。私たちはこれでも勇者一行なのよ。周りの目を少しは気にしなさい。特にそこでいつまでも喧嘩してるゴランにクルスあんたたち。少しはアシスを見習ったらどうなの」


 レイネが手を大きく叩いて会話を終わらせたのは、ちょうど丘を登り切った時だった。眼下には城壁に囲まれた大都市が広がっている。都市の中央には天まで届きそうな大きな建物がそびえ立ち一際皆の目を惹きつける。


 大きな建物は太陽の光を乱反射させ輝いている様に見える。どうも私はその反射する光が嫌いらしい。何やら嫌悪感が胸の中を巡る。


「ハッーーー。あれが有名な終結の塔か。馬鹿にデカいな」


 背後から聞こえる声。振り返ると壁と見紛うほど大きな男が腰に手を当て建物に視線を送っていた。大きな黒マントを羽織が風に靡かれバサバサと泳いでいる。


 凛々しい顔立ちにガッシリとした身体。誰もが一目みて只者ではないと思うだろう。長く凝視していたからだろう。私の視線に気づいた男は建物に向けていた視線を私の方へと落とした。そして漆黒の瞳で私の目を真っ直ぐ見つめて口を開いた。


「すまん。うるさかったか?」


 先程までの凛々しい顔を申し訳なさそうな表情に変化させた男。


「そんなことないよ。声が聞こえたから振り返っただけさ。謝る必要なんてない」


「それならよかった。いやー、ワシってこの通り見た目がデカいだろ?それに比例して声も無駄にデカいって良く言われるんだが、どうも意識していてもまだデカいみたいでよく指摘されるんだ。それについ最近だって――……」


 男はこれまた先程とは打って変わって、豪快に笑う。そして聞いてもいない話を延々と続けている。


「えーっと。とにかく私は気にしていないからあなたも気にしなくていいってことだから」


「おー、すまんすまん。また長々と話しちまった。あんたも今からあの街に行くんだろ?もしも街で見かけたら声掛けてくれよな。一緒に飯でも食おうぜ。じゃあな」


 男は豪快な笑い声を上げながら一人街の方へと去って行く。よく分からない男ではあったが、悪意があるようにも見えなかった。男の後ろ姿を見送っているとサインが話しかけて来た。


「なんだか元気のいい人だったね。大きな身体に大きな声。それに――」


「私と同族。だったね」


「おっ。気づいていたんだ。やっぱり同族だとお互い分かるものなの?」


「どうだろう。何せ同族に会うこと自体が稀だからなんとも言えないけれど、何となく分かると言えば分かるのかな」


「曖昧な感じだね。まぁ感覚的なものってことなんだろうけど。それはさておきあの人、凄く強いよ」


「だろうね。少なくとも今の私では手も足も出ないだろうな。まぁ君は別だろうけど」


「ハハハッ。まぁそう簡単にはやられるつもりはないよ。だけど勝てるとは断言できないかな。何せみんなも警戒するレベルなんだから」


 レイネ、ゴラン、クルスの3人は揃って武器に手を添えた状態で男の去った方角に視線を送り続けていた。そして姿が見えなくなるとようやく3人は武器に添えた手を離した。


「フーッ。一体何者だありゃあ。こんな道端でバッタリと出会うような野郎じゃねぇぞ」


 力みを解いたクルスが呆れたように言うと、ゴランも「まったくじゃな」と同意し深く息を吐いた。その時またもやレイネが手を大きく叩いてみんなの注目を集めた。


「はいはい。とにかく早く街に行くわよ。もうすぐ日が暮れるんだから。それに早く私は体を洗いたいの、急いだ急いだ」


 こうしてレイネに背後から追われる形で私たちは足早に【聖都アレクシス】へと足を踏み入れた。

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