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5・とりあえず、うちに来る?



 街は静けさに包まれていた。貴族街をうろつくような破落戸や浮浪者などはおらず、ときおり馬車がゆっくりと道を通り過ぎていくくらいで、イザベラを咎める者は誰ひとり存在しなかった。


 ぼう、と橙の炎を揺らす街灯は、お世辞にも明るいとは言えず、暗色のショールをかけたイザベラの姿はちょうどいいくらいに闇に溶けている。その肩に乗ったマーティンが、行くべき道を知り、先導するかのように鼻先を持ち上げた。


 侯爵家は貴族街の二十五地区にある。なので二十六地区、二十七地区と、南下していく。


 動物を追いかけて不思議な世界に迷い込んでしまう話はよくあるが、それがねずみの場合、物語はどうなってしまうのだろうか。


 だがイザベラは物語の主人公ではないし、マーティンの向かう先は家だ。なにも不思議なことなど起きるはずがない。


 それなのに自分の足取りは軽く、空気すら澄んで感じられた。いつもは見上げない夜空には、思ったよりもたくさんの星があることを知った。


 マーティンを伯爵家に送り届けたら、イザベラはその足で貴族街を出るつもりだった。当面の資金はあるが、それでも、生活力のないイザベラが生きて行くには厳しい世界だろう。だけど先の見えない明日を想像するのは少し楽しい。たとえ明日、絶望したのだとしても。


 マーティンの指示に従って歩いていると、動物の勘なのか、誰ともすれ違うことがない。だから二十九地区の終わりあたりで、ふっと、マーティンがひげを揺らして身を起こしたとき、少なからず驚いた。


 行く手をじっと見つめるマーティンにつられて目をすがめると、前方からぼんやりと人影が見えて来る。


 シルエットの形や大きさから男性だろうと判断したが、この時間に出歩いているなど怪しさ満点だ。自分のことは棚に上げてイザベラは警戒したが、相手もそれは同じだったらしく、お互い距離を取ってすれ違う――はずだったのだが。


「ちゅう!」


 やあ! とあいさつするような気軽さで、マーティンがすれ違った相手にひと声鳴いた。イザベラも驚いたが、相手も相当驚いたのか、つんのめるようにして蹈鞴を踏みながら立ち止まった。そして振り返って、イザベラの肩に乗る白いねずみを目にしてぎょっとする。


「え? は? ……え? まさか、マーティン!?」


 薄暗くて顔はよく見えないが、声の感じから若い男性のようだ。疑問符を浮かべながらこちらへと近づいてくる。マーティンの声だけでマーティンと判断するということは、つまり。


(この方がロシェット伯爵……?)


「いや、違うよ?」


 戸惑いながら否定されたのでイザベラは肩を落としかけ、マーティンが乗っていたことを思い出して元に戻すと、そこでなにかが引っかかった。


(わたし、今……声を出していた……?)


 もしかしてと思って、あー、と言ってみたが、口から出たのは掠れた息だけだった。


 声はまだ戻っていない。それならばなぜ、彼はイザベラの心の声に答えることができたのだろう。しかし訊こうにも相変わらずイザベラの声は出ないし、彼は彼でマーティンに忙しい。


 未だ動揺を隠しきれない様子で、彼はマーティンに手のひらを差し出した。マーティンはひとしきり彼の手のひらの匂いを嗅いでから、知っている人だとしっかり判断してからそこにちょこんと載った。彼はその手を顔の高さまで持ち上げて目線を合わせる。


「きみ、なんで王都に?」


 マーティンは後ろ足ですくっと立ち上がると、ちゅう、とわけを説明するように深々とうなずく。最初から思っていたが、妙に仕草が人間っぽいねずみだ。


「ごめん、訊いておいてなんだけど、なにを言っているのか、さっぱりわからない。馬車にでも忍び込んで来たのか? みんな知っているのかい?」


 当然だが、はつかねずみからはまともな回答を得られず肩をすくめた彼が、ようやくマーティンからイザベラへと意識を移し、少し気まずげに苦笑した。どうやらねずみ相手に本気で話しかけているのを見られていたことが恥ずかしかったらしい。


 イザベラよりもずっと背が高く、男性らしい体つきをしているようだが、声音や物腰が穏やかなので威圧感がなく、まったくと言っていいほど恐怖は感じなかった。おかしいかもしれないが、見知らぬ人だからこそ安心できた。


「きみはもしかして、マーティンを家まで連れて行くつもりだった?」


 イザベラはこくりとうなずくことで意思を伝えた。言葉が使えない以上、仕草でしか、気持ちを伝える手段がない。


「そっか……。ありがとう。だけど貴族街とはいえ、こんな時間にひとりで出歩くのは危険だよ。ロシェット伯爵は親しい友人なんだ。マーティンのこと、このまま僕に預けてくれるかな?」


 もう一度うなずく。マーティンが信用しているようなのでイザベラに否やはない。寂しさはあるが。


「ありがとう。こちらから後日改めてお礼するから、今はお帰り」


 こうしてマーティンとの旅は唐突にあっけなく終わりを迎えた。


 ここから先はひとりきりなのだと思うと、あれだけ意気込んでいた勢いがみるみる萎んで怖気づく。


 例えば、今離れに戻ったとしても、きっと出歩いていたことさえ気づかれず咎められることすらなく終わるだろう。


 それこそ、なにごともなかったように。


 だけど、それだけはだめだ。


 せめて、結果的に連れ戻されたのだとしても、自分の意志で抵抗したという記録を残しておきたい。例え殴られたとしても、一度だけでも自分の人生を生きてみたい。


(わたしは壊れた人形じゃ、ない)


「ところできみは、どこの誰だろう? どこに送っていけばいいかな?」


 本当にどこまでも送ってくれそうな雰囲気にたじろぐ。


 具体的な目的地はまだなかった。元々行くあてなどどこにもない。一瞬記憶にもない母親のことを考えたが、すぐに無理だと振り払う。どこに住んでいるか、まったく見当もつかないのだ。


 それに父から生活の支援をしてもらっているのなら、イザベラが行ったところで感動の再会とはならないだろう。自分たちの生活のために差し出された生贄なのだ。厄介者でしかないイザベラなど迷惑がられて、父に連絡されて結局連れ戻されて終わりだ。


 じりじりとしながら考える。最近は考えることすら放棄していたせいか、うまく頭が回らない。


 ただひとつ言えることは――、


(戻りたくはない。……違う。戻らない)


 彼は困ったようにイザベラの返事を待っている。それでもなにも言えずにうつむきショールを握りしめていると、どれほどしてか、彼はふぅと小さく息を吐き出してから、茶目っ気たっぷりこう言った。



「とりあえず、うちに来る?」





 一般的に愚かだと言われる選択の連続を自分がしていることをどこか他人事に思いながら、イザベラはジーンと名乗った彼にエスコートされながら夜道を歩いた。


 彼があまりに軽い調子で言うものだから思わずうなずかされてしまったが、早まったのではないだろうか。はじめは固辞したのだが夜道は危ないからと、いつの間にか彼の腕に体まで支えられている。異性とこれほど密着することなどなかったイザベラでは対応しきれず、されるがままだ。


 どこに連れて行かれるのか。なにが目的か。最悪殺されるのでは。そんな恐怖は、彼の胸ポケットにすっぽり収まっているマーティンのせいで、なんだか考えるだけ無駄なように思えて今はすっかりとこの状況に流されている。


(動物好きの人に悪い人はいない。……たぶん)


 彼の意外と固い手は労りを感じるほど優しいものだ。イザベラが鈍いだけかもしれないが、下心らしいものは伝わって来なかった。きっとはたから見れば悪い男に家に連れ込まれようとしている少女に見えるのだろうが、時間が時間なので誰にも見咎められることもない。


「歩かせてごめんね。少し小さいけど、一応ここが我が家」


 彼の他愛ない話を聞きながらついたのは二十九地区の外れの方。一見森のような入り組んだ道の先に佇む薄暗い雰囲気の屋敷だった。彼は謙遜したが、小さくはない。もちろんイザベラの侯爵家に比べるまでもないが。


 敷地を囲う背の高い針葉樹や、行手を阻むように門扉を覆う茨がまるで難攻不落の要塞のようでおどろおどろしさに拍車をかけている。貴族街にはめずらしく、周囲を完全に拒絶した趣きだ。


 これは人の住む屋敷というよりかは……幽霊屋敷。


 格式ばかりにこだわる侯爵家や、お伽噺のような離れに馴染んでいたせいか、こういう屋敷もあるのだなと認識を改めた。


 玄関を入ってようやく、明かりの下ではっきりと見えた彼は、二十代半ばくらいの優しげな雰囲気の青年だった。よく見ると整った顔立ちをしているが、微笑み方なのだろう、近寄りがたさをまったく感じさせない独特の雰囲気を持っていた。まるで人好きする気さくな好青年を絵に描いたような人だ。


 上着とベストとパンツが同じ生地で仕立てられたスリーピースというすっきりとした服装をしていて、長身の彼にはよく似合っていた。


 彼が服と揃いの帽子を脱ぎ、赤銅色の髪についた癖を直していると、使用人だろうか、屋敷の奥から三十歳前後くらいの男性と女性が血相を変えて駆け寄ってきた。


「ジーン様!? なにがあったのですか!? 襲撃ですか!? お怪我は!?」


 ジーンは肩をすくめてから、おどけて腕を広げてみせる。


「なにもないって。ごらん、元気だろう? 今日はお客様がいるから、こっちに来ただけだ。本邸だと詮索好きな人が多いからね」


「そうでしたか……。ジーン様がご無事でなによりです」


「うん。ありがとう。それより、ほら、お客様」


 ほっと安堵した彼らは、イザベラの存在にはじめて気づいたというように、びしりと居住まいを正した。イザベラがこれまで接してきた人とは違う種類の、まるで訓練された軍人のような一糸乱れぬきびきびとした動きにやや圧倒される。


「お見苦しい姿をお見せして申し訳ありません。私はディノと申します。こちらは同僚のクレア。彼女は侍女の経験もございますので、お嬢様のお世話を担当をさせていただきます」


「クレアと申します。お召し替えから毒見まで、お気軽にお申しつけください」


(毒見……)


 物騒なことを平気で言った彼女は、薄茶色の髪をゆるくひとつにまとめた、言動に合わないおっとりとした雰囲気の女性だ。いかにも生真面目そうなディノとは、小さな琥珀のついたお揃いの指輪をしている。ふたりは恋人か夫婦なのかもしれない。


「うちで雇っているのはこのふたりだけだけど、ふたりともとても優秀だ。なにかあったらふたりに言うといい。クレア、彼女の休む部屋の用意を頼む」


「かしこまりました。お嬢様、こちらへどうぞ」


 イザベラは戸惑いながら促されるまま後に続く。


 最悪野宿する可能性もあった身としては、願ってもない展開だ。


 途中振り返って見たジーンは、おやすみ、と口を動かして軽く手を振っていた。


 ただの親切な人なのかどうかはまだ判断がつかない。


 そういえば、イザベラは自分が一言も発していないことに今さら気づき、困惑した。


 自分が話せないことすら失念するくらい、彼とは普通にコミュニケーションを取れていた。よく思い返してみると、彼からの質問は、はいといいえで答えられることばかりだったことに思い至る。


(わたしが話せないことに気づいているのかしら……?)


 彼ばかりが話して相槌を打っていたので、気づいていない可能性も多少残されてはいるが。


 わからないことはひとまず、すべて明日の自分へと押しつけることにした。





 クレアたちを見送ってから、ジーンは久しぶりに自室へと足を踏み入れた。不在でもきちんと掃除されているようで、窓が閉まっていても空気は澱んでいない。軽く息を吸って、大きく吐き出した。それは大仕事の後のため息によく似ていた。


 平静に見えて、実はそれなりに動揺していた。とんでもない拾いものをしてしまったのだから平然としている方がおかしいのだが。


 元凶へとちらりと目を向けると、ポケットからひょこりと顔を出したはつかねずみが、元から服に縫いつけられていましたというような顔で馴染んでいるのが見えて、やれやれと肩をすくめた。


 ねずみに罪はない。少々、人間の日常を引っ掻き回す程度の存在だ。まさか自分に白羽の矢が立つとは思っていなかったが。


「おや、ジーン様。そちらのねずみは、もしや?」


「ああ。クロードのところの、いたずらねずみだ」


 ポケットからつまみ出してテーブルに乗せると、マーティンは興味津々にあたりの匂いを嗅ぎ回る。逃げられては困るので、プレッツェルを一枚渡して気を引いておいた。


 しかし普段からいいものを食べているせいか毛艶がいい。可愛いリボンまでされて、まるでペットだ。このねずみを追い出したくてたまらないロシェット伯爵邸の使用人たちが見たら卒倒しそうだ。


 このはつかねずみ――マーティンは、友人であるクロード・ロシェット伯爵の領地の屋敷で大繁殖している半野生のはつかねずみ一族の長だ。日々使用人たちとねずみたちとの仁義なき戦いが繰り広げられている愉快な屋敷だが、ここしばらく訪問していなかったので、さっきマーティンを見かけたときは心底驚いた。人違いならぬ、ねずみ違いかと思ったくらいだ。


「賢いねずみだと聞いていましたが、一見普通のねずみですね。まぁ、人においても一見普通に見える方が危険なこともございますが」


「確かに」


 ジーンはディノに上着を預けながら、食べ物を前におとなしいマーティンを見下ろして少し笑う。友人宅に無事に引き渡すためにも、そして間違ってもこの屋敷で大繁殖させないためにも、今夜は個室という名の檻に泊まってもらわなくては。


「それより、彼女はどちらのお嬢様ですか?」


 されると思っていた至極真っ当な質問だが、これには少々説明に詰まる。


 夜道を歩いていた少女を保護しただけでやましさなどかけらもなかったのだが、どう説明しても弁明しているようで、白々しく聞こえないだろうかと変に焦る。


 ひとりがけのソファに身を預け、プレッツェルをどこから齧るべきかと真剣にくるくる回すマーティンに微笑んでから、諦めてディノへと視線を移した。


「さあ? どこの誰かはわからない。なんか、困っているようだったからね。保護しただけだよ」


「おや? ジーン様が素性もわからない人間を家に招き入れるなんて。明日、雨どころか槍でも降って来るのではないでしょうか」


「発想が物騒だなぁ」


 と言いつつも、槍が降ってもおかしくないくらいの異常行動を取っている自覚はあった。ねずみのせいで頭がどうにかなったとしか思えない。


 ジーンは幼い頃から、常に周りを警戒して生きてきた。暗殺されかけたことも両手の指では収まらないくらいだ。それなりにハードな子供時代を生き抜いてきた自負はある。


 ジーンを亡き者にしようと画策していた元凶が死んだ今でも、その警戒心が消えることはない。またいつどこでどんな勢力につけ狙われるかわからないからだ。


 処世術として演じていた人畜無害な好青年がすっかり板につき、人の懐に入るのはうまくなっても、自分が信用できる人間は未だに少ない。ここ、王都では特にその傾向が強く、家族を巻き込みたくない一心で実家でさえ帰るのを躊躇っていた時期もあったが、今は別の意味での帰りづらさがあった。


(あれだけ結婚はしないと言い張っておいて、女の子を家に連れ込むとか……はぁ)


 どう控えめに表現しても少女趣味の変態だ。少女と言うにはもう少し大人っぽく落ち着いた雰囲気の子だが、実年齢は十五、六歳くらいではないだろうか。この国の成人年齢ではあるが、ジーンは十五で成人は若すぎるのではないかと常々思っていた。


 ため息をついて前髪を掻き上げる。そのまま頭を抱えてしまいたい気分だ。


 警戒心の強いジーンが初対面の人間を、それも女性を家に誘ったのははじめてのことだ。そしてそれは間違いなく、危険な賭けでもあった。


 長年の経験からして、彼女が暗殺者の可能性は限りなく低いとは思っている。暗殺者と素人では体つきが異なる。一応彼女の体を支えながら筋肉の締まり具合を確かめたが、どちらかといえば平均的なこの年の人間よりも筋力が衰えているように感じられた。


 そう、まるで、ここしばらく寝たきりの生活でもしていたかのように。


 仮に暗殺者の可能性を排除したとしても、今度は別の問題が生じてくる。


 もし彼女が婚約者のいないごくごく普通の令嬢だった場合、ジーンがどれだけ保護したただけと訴えようと、彼女の家から責任を取れと責められることになるだろう。たとえなにもなかったのだとしても、世間はそう見做さない。


 見ず知らずの少女を助けたところでジーンにはなんの得もない。むしろリスクばかりが上乗せされる。


 しかし、得るものもなくリスクまで考慮した上で、見捨てられない理由があった。


 良心が彼に訴えかけたのだ。


「……なんとなく、ね。保護しないといけない気がして」


「そういえば、彼女。少し、リハビリ中の兵士と似た動きをしていましたね」


 さすがの観察眼だと舌を巻く。ジーンは肘掛けにもたれると、深い嘆息をもらした。もはやため息しか出ない。


「話が早くて助かる。腹部を庇うように上半身がほんのわずかに前傾姿勢。慎重な足運びをしながら、無意識に体をひねらないようにしていた。腹部になにかしらの手術を受けた後だろうね。そうやって傷口が開かないように気をつけているのなら、まだ術後日が浅いのかもしれない。それならあまり歩かせない方がいいと思って」


 それだけではない。おそらくだが、彼女は話すことができない。先天的なものではなく、後天的なものだろう。口を開いてなにかを言いかけやめる仕草が何度か見られた。うなずくか首を振るだけで答えられる質問だけを振るようにしていたのは意図的にだ。答えられないことにもどかしさや後ろめたさを感じないよう、気を遣った。


「そんなわけで、やむをえずここに連れて来たわけだが……」


 今でも、早まったかな、とは思わなくもない。無理やり実家の場所を聞き出して送り届けてもよかった。普段ならば絶対にそうした。リスク回避のために。


 なぜそうしなかったのかと問われたら、彼女があまりに危うい雰囲気をしていたからだとしか言いようがない。


 つまり勘だ。


 この子はたぶん、自分がここで見捨てたら死ぬだろうな。


 そんな予感がした。


「ここにはクレアがいるから万一のときに医者を呼ばずに対応できるし、ディノがいるから警備の面も不安はない。僕もしばらくはここにいるつもりだけど……ごめん。一応素性は調べてくれないか? ふたりには面倒をかけるけれども」


「面倒など。了解いたしました。ジーン様が心穏やかに快適にお過ごしになれることが我々の喜びでございます。……なので」


 ディノは流れるような動作でマーティンを手で掬うと、透かし彫りの入ったの蓋つき小物入れへと入れて、パタンと蓋をした。


 隙間から、プレッツェルを持ったまま、なにが起きたのかときょとんとした顔のマーティンが見える。


「ねずみ様にはのちほど、快適にお過ごしいただけるお部屋(ケージ)を用意いたしましょう」


「ご機嫌を損ねないように、穴あきチーズもたっぷりとね」


「仰せのままに」



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