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私はアイピ!魔法使い!  作者: 如月信二
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6


「ただいまー」


 玄関の扉を開け岩ピが挨拶をする。研究室から岩ママがでてきた。


「おかえり岩ピ。今日もお手伝いお願いね」


「は〜い」


 岩ピは元気に返事をした。


「今日の岩塩はどのくらい無くなったの?」


「うーん、ざっと360キログラムね。お客さんも上場よ」


 岩ピの質問に岩ママは返答をした。


「毎日消費量あがるね」


「それだけパパの仕事が順調ってことよ」


 岩ママはそう言うとコツンと岩ピを叩いた。少し鈍い音だったかもしれない。


 岩ピの父親は岩塩健康治療の第一人者だ。岩塩に熱とある秘蔵のコケを加えることで妖精の活力を上げる方法を見つけ出した。


 しかし岩パパがその薬をマッサージして直接身体に擦り込まないと効果がでなかったため自らマッサージ屋を開いた。


 連日客が押し寄せていることは言うまでもない。ただマッサージの値段を格安にしすぎてるため、裕福な暮らしをしているとは言えなかった。


 しかし岩ピはそんなお父さんが大好きで岩ママと一緒に研究室で岩塩の精製のお手伝いをしていた。


 これは岩ピの日課である。



「3、2、1、発射ザマス!」


「うぉぉぉー!!」


 シガレットは掛け声をかけると右足でペダルを踏んだ。直後カタパルトにスタンバイしてたタコピは空に向かって一直線に飛んだ。


「今回もよく飛びましたね」


 イカロスはサングラスを手で押し上げて言う。


「なんでタコピはこの授業が得意なんだ?」


 にゃんぴーは首を傾げて言う。


「また虹色タコピさんで落ちてくるのかな?わくわく」


 アイピは相変わらず暢気のんきだ。自分の成績などには気をとめない。


 そうこうしてるうちにタコピが空から落ちてきた。虹色に光輝く光体となって。 


「ドシーン!」


 大きな落下音とともにタコピは鏡を取り出した。光輝く自分の姿を見て満足そうだ。


「やった!今日も1番の輝きだろ!」


 タコピはシガレットに意見を求めた。


「ええ、良い飛距離ザマス。今日も100点ザマスよ」


「わはは、どうだイカロス!これが俺の実力だ!」


 息巻くタコピにイカロスは顔を背けながら、


「いちいち僕に主張する必要はないんじゃないかな?『ロケット祭り』の授業はタコピさんが飛び抜けているのは皆知っているんですから」


と答えた。


 今日の授業は「ロケット祭り」だ。このミステリアス王国の上空にはある一定の高さから虹色シートと呼ばれる透明の膜がある。その膜に触れると妖精はしばらく虹色に輝くことができる。


 効果はそれしかないのだが、上空に行けば行くほど虹色シートに含まれる虹色パウダーの密度が高くなるため、高く飛んだ妖精ほどより虹色に輝くことになる。これを利用してロケット推進力の授業をするのがロケット祭りだ。


 にゃんぴーが首を傾げていた点はこの授業は結構難易度が高いからだ。自分を発進するカタパルトはテコの原理や運動力学、妖精摩耗値ようせいまもうちの計算や、耐久力など色々な要素の混ざった工学である。


 それを頭は決して賢いとはいえないタコピがいつも1番の成績をだす。


 しかもタコピのカタパルトはカタパルトと呼んでよいものかわからないくらいイビツな形をしている。これで1番の推進力をだされた日にはマドレーヌでなくても「理論無視」のタコピに対して疑念が浮かぶ。


 1番きれいなカタパルトを作るのはうさぴょんだ。しかし成績は5、6位くらいにとどまっている。にゃんぴーは「う〜ん」と腕を組んだ。


「タコピ様の時代だー!」


 タコピは意気揚々と拳を掲げた。確かに暑苦しい。以前誰かが言っていた。タコピは遠くから眺めるだけで充分という言葉がしっくりくる。


「いえーい、タコピ様の時代です〜」


 アイピはタコピと一緒になって踊った。成績トップな者と最下位の者との共演だ。


「あれ、いつかなんとかしてよね?」


 にゃんぴーはタコピをなんとかすることをイカロスに求めた。半分諦め顔で。


「無理ですね。それはアイピさんから居眠りを奪うくらい難しいことです」


 イカロスはきっぱり断った。にゃんぴーは「確かに」と頷きながら自分のカタパルトの分解作業にはいった。



「ただいま」


 イカロスが玄関の扉を開けると暗闇の中から3本のクナイが飛んできた。彼はお鍋のフタを取り出し見事に受けきるとそれを背中側へと捨てた。


 右の壁から10本の槍が突き出してくるが、軟体動物の特性を活かし、身体をグネリと捻ってやり過ごした。


 前からは炎の水が押し寄せてくる。


「あれ?この家ってここまで耐熱効果あったかな?」


 イカロスは腕で頭をかきながら口からイカスミを発射し消化作業に入った。


 階段を登って行くと天井から火薬玉が無数に落ちてきた。彼はそのまま加速してやり過ごす。後方では爆発音が連続で鳴り響いたが気にせずに2階の自分の部屋へと入った。


「やっぱり友達は呼べない家だよな」


 彼はそう言うと本棚からお気にいりの小説を取り出して椅子に座り、ページをめくった。



「お母さん、私のロールパンがないです」


 アイピは部屋に入ると昨日作り置きしていたロールパンが無くなっていることに直ぐに気づき、マドレーヌへと詰め寄った。


「ああ、今日は急なお客さんが来たから出してしまったわ」


 マドレーヌが応えるとアイピはホワッとして、


「ま、大事なお客さんに大事なロールパンを。喜んでくれたですか?」


「ええ、美味しくて安らぐと答えてたわよ」


「やったー!」


 アイピは自分の作ったロールパンを美味しいと褒められて嬉しい気分で部屋へと帰って行った。


 マドレーヌはそれを見届けて、


「本当にダディの良いところ似たわね」


と、思わず声に出してしまったが、魔法詠唱に繋がることはなかった。



「行ってきまーす」


 アイピは学園に行くために家の外に出た。春の陽光が彼女を暖かく迎えた。


「今日はお空を飛びます」


 アイピはホウキに跨がり魔法を詠唱した。次第に体は軽くなり地面から30センチの高さまで浮き上がった。


「この浮遊感はたまらないものがありますね〜」


 アイピはにこにこして空中散歩をする。今日は遅刻確定だ。



「おはようです〜」


 アイピが教室に入るとシガレットは眉ひとつ動かさずに減点20を言い渡した。2時間遅刻したからだ。


 アイピは空中散歩の途中で居眠りをしてしまったのだ。念の為、ホウキに自動操縦の魔法を掛けていたがカバンの中にロールパンが増えただけで、ホウキはアイピを乗せたまま電信柱にぶつかり、そのまま1時間停止してたのだ。


 居眠りを満喫したアイピは急ぐことなくゆっくりと学園に向かったためこの時間となった。


「おはよう、お寝坊さん」


 にゃんぴーが声を掛けてきた。アイピは、


「朝はちゃんと起きましたよ〜ただ途中で居眠りしちゃった」


と笑って返した。ほのぼのとした笑顔だった。


「どこでも寝れる。その性格うらやましいよ」


 にゃんぴーも笑顔で応えて、今進んでる教科書のページ数を教えてくれた。


「くう〜、わからん!」


 今日の授業は時空間移動についてだが、回答者に選ばれたタコピには合わない授業のため、湯気を発しゆでタコになっていた。


 そのままタコピは頭がショートしたため、シガレットはうさぴょんに回答権を回した。うさぴょんは模範解答にふさわしい回答をしたため、教室の数人から称賛と感嘆のため息が漏れた。


 アイピはもう居眠りを始めていたため、何も知らないままだった。



 アイピとにゃんぴーは今日も一緒に帰った。いつも通りほのぼのとした会話が続くが、にゃんぴーは時折寂しげな顔を見せた。


 アイピはそれに気づくことはなく、別れ際にロールパンを3個お土産ににゃんぴーに渡し、笑顔で去っていった。



「ただいま〜」


 にゃんぴーは少し低い声で挨拶をした。キッチンの奥からブルーノが眼を輝かせてでてきた。


「にゃんぴーちゃんお帰り。今日の授業はどうだった?わかりにくいところはなかった?明日から家庭教師の先生にきてもらうことになったわよ。若くてイケメンネコだわ。どう、嬉しいでしょ?ママからのサプライズよ」


 ここまで一息で言うとにゃんぴーは眼を丸くした。


「家庭教師?なにそれ?私一言も聞いてないよ」


「あら、にゃんぴーちゃん面白いわね。ママも初めて言ったんだから当たり前じゃない」


 ブルーノは嬉しそうに言う。にゃんぴーは母親の自分勝手な押し付けに少し辟易へきえきしていた。


「ごめん、学園に忘れ物した。取りに戻る」


 そう言い残してにゃんぴーは外へとでた。母親とはタコピ以上に解り合えないことを知っているからだ。


 些細な抵抗だった。自分の心の準備が整うまでの。


 にゃんぴーはふらつく足で公園にたどり着いた。ベンチには先客がいたため、漕ぐわけでもないブランコに座った。


「なにしてんだろ。私……」


 にゃんぴーは深く息を吐き空を眺めた。日が沈みかかっている空は金色の茜色でどこまでも遠く澄んでいた。幾らかの雲はあったがその雲の隙間から差す陽光がなんとも言えない美しさで眼の奥、心の奥から溢れそうになるものがあった。


「あ、にゃんぴーお姉ちゃんだ!」


 突然元気なかん高い声がにゃんぴーを呼んだ。にゃんぴーはハッとして刹那せつなに目頭を拭い、声のするほうに向いた。


 その声の主はミミちゃんだった。


「あ、ミミちゃん。こんにちは」


 軽くお辞儀をしたにゃんぴーにミミちゃんは近づいてきてお礼を言った。


「この前は赤星をありがとう。キレイなペガサスさんができたよ!」


 ミミちゃんは満面の笑顔だった。にゃんぴーは少し胸が締め付けられた。


「そっか、ミミちゃんの家にはペガサス座があるのか。うらやましいな~」


と笑顔を返す。ミミちゃん少しきょとんとして首を振った。

 

「ミミのお家にはペガサスさんはいないよ。ペガサスさんはお母さんの病室にいるよ。お母さんが観たがっていたんだ」


と答えた。にゃんぴーは少しびっくりして、


「お母さんどこか悪いの?」


たずねた。ミミちゃんは、


「うん、お母さん身体弱いのにお仕事無理して倒れちゃったんだ。でもあれ、お姉ちゃんのお陰でペガサスさんと一緒で、今は元気だよ」


と答えた。にゃんぴーは何気となしにあげた赤星がそんなに役に立っていたことを知り、少し嬉しくなった。


「来年は赤星をたくさん捕まえてお姉ちゃんにプレゼントするね!」


「うん、ありがとう」


 ミミちゃんは隣のブランコに乗り笑顔を見せる。にゃんぴーも笑顔になりブランコを漕いだ。


 にゃんぴーは心の中で「なにがどうかだなんてよくわからないよね」と笑った。


 2人はしばらくブランコを漕いでいた。日が暮れる前に2人は別れた。



 アイピが夕食を終え部屋でくつろいでいると窓の外にほんのりと赤く輝く光が飛んできた。


「あ、にゃんぴーさんの通信ホタルだ」


 アイピはベッドから飛び降りて窓を開けた。通信ホタルはゆらゆら揺れながら部屋に入ってきた。窓を閉めると通信ホタルは「受信の樹」に止まり、にゃんぴーの声が響く。


「明日土曜日夜20時にシャイニングロードを皆で作ろう!場所はカルデラ湖で。よろしくな!」


と明るい声がした。アイピはそれを聞くとうきうきしてにやけ顔が止まらなくなった。


「にゃんぴーさんとシャイニングロード!?3年ぶりです。皆って学園のみんなかな?楽しみです〜」


 そう言って通信ホタルに返信を吹き込むと、窓の外に放ち、そのままベッドへとダイブした。


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