4
「タコピ君、ずぶぬれじゃないか」
タコピが教室に着くとイカロスが話しかけてきた。イカロスの肌はうるおいが増しているだけで涼しげな顔をしてた。
「おう、これは男の汗だ。雨の日の対決は燃えるぜ!誰であろうと俺の心の火はけせん!」
タコピは8本の足を全部床につけ、力を溜めるかのように膝を折った。
「誰もタコピ君には逆らわないよ」
イカロスはクールに自分の席に着いた。アイピとにゃんぴーも教室に入ってきた。
「ふう〜今日は5分も早くに着きました。マジックシールドは優秀です〜」
アイピの言葉ににゃんぴーは被せる。
「ん、私は普段と変わらないけど、ってアイピもそうじゃん!」
教室の飾り時計は8時20分を指している。アイピは遅刻しないときはいつもこのくらいの時間には教室に着いていた。
「あ、あれ〜、私の気持ちは早いんですけど?」
アイピは首を傾げて答えた。
「アイピちゃん気持ちの問題は大切だよ」
イカロスが後方からアイピを応援するように声を飛ばした。にゃんぴーは、
「それもそうだな」
と、納得して席に着いた。
「さ、今日もお勉強ザマス」
始業の鐘がなりシガレット先生が入ってきた。今日のタコピは自分の走りに満足して席に着いていた。
「今日は歴史の話をします。みんな教科書の98ページを開いてザマス」
シガレットの言葉に生徒10人全員がパラパラとページをめくる。そこには「ミステリアス王国の起源」と書かれたタイトルがあった。
「最初このガイヤの星が生まれたときに、私達妖精は存在してなかったザマス。水と空気、そして植物や鉱物はあったザマス。ある大昔の夏の夜に、大きな隕石がガイヤにぶつかりました。その隕石には妖精の欠片がたくさん付いていて、元々在った水や空気、植物や鉱物の成分とくっつき、光反応をして私達が生まれたとされてるザマス。それが今から三千年前になるので、今日は三千夜祭に当たるわけザマス!みんな縁日には行っても良いザマスがアトラン学園の生徒としてマナーある楽しみ方をするザマスよ」
シガレットがここまで話すと教室に歓喜の声があがった。
「三千夜祭で優秀するのはこの俺だー!」
言葉を間違え雄叫びを上げるタコピ。
「祭りは争い事じゃないよ」
落ち着いたイカロス。
「アイピ、楽しみだね」
嬉しそうなにゃんぴー。
「お祭りといえば『雲のロールパン』、あれはふわふわで甘くて美味しいです。私の魔法じゃ作れません」
マイペースなアイピ達がそこにはいた。
学校が終わりアイピ達はグルノア神殿の前に集まった。アイピは青い浴衣、にゃんぴーは赤い浴衣、タコピは黒の柔道着、イカロスは黒のスーツをめかしこんでいる。
「で!?なんでこの4人なの?」
にゃんぴーは少し不服そうに言う。
「お祭りです〜、雲のロールパンです〜」
アイピはうきうきが止まらない。
「にゃんぴーさんは僕も不服?」
空気を読むイカロスがにゃんぴーの言葉を拾った。しかし当の本人は毅然として少しも狼狽える様子もない。タコピがいることへの不満だと解りきっているからだ。
「4人!?良い数だな。魔王討伐には持ってこいの人数だ。さあ、行こうぜ!」
タコピはスクワットランで先陣を切る。にゃんぴーは呆れて、
「いつかあいつをへこませたいよね」
と、イカロスに同意を求めた。イカロスはクールに、
「それは面白そうだね」
とだけ答えた。
「アイピ。今日は星くず拾いをたくさんしようね。私の部屋にシシカバ流星群を飾りたいんだ」
にゃんぴーは頬を赤らめて言う。
「はい、星くず拾いもロールパンもたくさん食べましょう」
アイピはロールパンのことも忘れてはいない。アイピはもしかしたらいままでも自分の望む魔法を唱えていたのかも知れない。
宿題よりロールパンのことのほうがアイピにとって重要そうだ。
「タコテキ!タコテキはどこだー!?」
タコピは3人を置いて人混みの中に消えていった。イカロスはそれを見て、
「タコテキもイカテキもそこにあるのにね」
と右方向を指さして笑った。にゃんぴーは、
「ま、騒がしいのがいないのは好都合だよ。タコピがいると星くず達が逃げてしまう。今のうちに星くず拾いに行こうよ」
と声を掛け、アイピの背中を押した。アイピは、
「あ〜、雲のロールパンがあります。星くず拾いが先ですか?早く行かないとお目当ての星くずがいなくなるかもですが、ロールパンも食べたいです〜」
と少し涙目になりながら、にゃんぴーに背中を押されていた。イカロスは、
「アイピさん、雲のロールパンが売り切れることはまずありませんよ」
と軽くフォローした。
星くず拾い屋さんを出てきたにゃんぴーは終始笑顔だった。アイピとイカロスも手に入れた星くず達をカバンに入れて口元が緩んでいる。
「イカロス、凄いなー。あんなとり方で星くず拾いするのを始めて知ったよ。本当にありがとう。赤星3個は正直諦めかけていたけど揃えれた。これでシシカバ流星群ができるよ」
「僕は手足が10本あるから有利さ。ま、少し忍術の心得があるのも利得といえば利得かな」
イカロスはにゃんぴーと眼を合わせることなく答えた。アイピは嬉しそうに、
「これでロールパン座が5個お部屋に増えます〜」
と顔を赤らめた。
「うう、負けた。この俺が負けた」
アイピ達の前からタコピが現れてそれだけ言うと倒れ込んだ。
「え!?あんたがタコテキで負けたの?」
にゃんぴーは少し驚いた声を上げた。イカロスは興味有りげに耳をそばだてた。
「くまぴだ。くまぴが現れて、俺は敗北したんだ」
タコピはイカロスに手を差し伸べてほしそうに手を伸ばす。倒れ込んだままで。イカロスはそれを汲み取りながらスルーした。
「わからないな。くまぴがタコテキに強い要素が思いつかない」
イカロスの言葉にタコピは眼を見開いた。
「違う!腕ずもう大会だ。それにヤツがでてきたんだ!」
「あ、なるほど。じゃあ、行こっか?」
イカロスはタコピが負けたのが腕ずもうだと知り納得して、アイピとにゃんぴーに声をかける。
「そうだな。大した問題じゃないし先に行くか?」
と、にゃんぴーはアイピに合図を送った。にゃんぴーの指す方角には雲のロールパン屋さんが3店舗並んでいた。
「きゃ〜、いちご味の雲ロールがあります〜。私は食べたことがありません〜」
アイピはもう焦点が定まらない眼でふらふらと吸い寄せられるように店へと向かった。にゃんぴーとイカロスもそれに続く。
「友よ、友とはかくあるべきか?」
タコピはそれだけ言うと上げていた手をぐだっと降ろした。そのまま安らかな表情を作り寝息をたてだした。
「いちご味の雲ロール最高です〜。何個も食べれます〜」
そう言いながらアイピは次のロールパンへと手を伸ばす。これで丁度200個目になる。イカロスは少し呆れた声を上げた。
「アイピさん何個食べる予定なの?10個も食べたら満腹でしょ?」
雲のロールパンは半分が気体のためお腹にずっしりくる感覚はない。それならばたくさん食べれる道理にはなる。ただそうなると作る側が大変になるため「満腹補助剤」となる「クリオデの実」を混ぜているため、普通の妖精なら3個食べれば腹は満たされるはずだ。
ただこのクリオデの実がアイピには全く効かない。こうなることを知っていたにゃんぴーは星くず拾いに先に行っておく必要があったのだ。
「アイピは雲ロールなら500はいけるわよ。しばらく足止めね」
と食べるのに忙しいアイピの代わりに答えた。イカロスは「ふむ」と声にだし、今のアイピの食べっぷりを目の当たりにしてるために納得して空を眺めた。
「ふぅ〜、幸せです〜」
雲のいちごロール、マスカット、プレーン、塩味、サンゴ味と5種類のパンを合計623個食べたアイピは満足そうに声をあげた。隣で数をカウントしてたにゃんぴーは大きく伸びをした後に、
「もう少し回ろっか?」
と言った。アイピとイカロスは頷いた。
「悪魔払い」「積み木ピラミッド」「パッタリング」と廻るアイピ達に泣き声が届いた。
「えーん、揃えたかったよ〜」
振り向くと、うさぴょんが妹のミミをあやしていた。
「仕方ないじゃない。もう星くずは全部捕まっちゃったんだから……」
にゃんぴーがその声を聞いて前にでた。
「うさぴょん、どうしたの?」
「あ、にゃんぴー。実は……」
うさぴょんの話によると2人はペガサス座を作りたかったみたいだが材料となる赤星が1つしか集まらなかったらしい。ペガサス座には赤星2個と黄星10個、青白星が70個必要だ。
星くず拾いは年に一度のお祭りでしか販売は許可されてないため、集めるには後1年待たなければならない。
「なんだ、そんなことか」
にゃんぴーはそう言うと自分の鞄から赤星を3個取り出した。
「じゃん!あたしの今日の収穫。あたしは双子座流星群を作ろうと思うから赤星1つ余ってるんだ。ミミちゃんにあげる」
そういって膝を折り、ミミちゃんに視線を合わせて言った。
「え?いいの?」
うさぴょんは少し戸惑った。いくら余っているとはいえ赤星は貴重だ。学校で違うグループにいるにゃんぴーからそれをもらうことには少し抵抗がある。
「にゃんぴーさん、それは……」
アイピはびっくりして声をあげようとしたがにゃんぴーにサッと口元に手を被せられ制されてしまった。にゃんぴーはアイピを見てウインクした。
アイピはにゃんぴーは表情を見て空気を読んだ。アイピにとっては珍しい現象だ。
「ミミちゃんさん、にゃんぴーさんの気持ちを受け取ってあげてください。アイピからもお願いです」
と、優しく言った。泣き顔に近かったミミちゃんの顔がほころぶ。
「にゃんぴーさん、ありがとう!いつかお返しするね!」
ミミちゃんは元気に応えた。にゃんぴーは「ないない」と首を横にふりお返しの部分は否定した。
うさぴょんは何度も頭を下げてお礼を言い、ミミちゃんと一緒にその場を離れた。イカロスは一部始終を見守り、「うんうん」と頷いていた。
「タコピさん、いつまで寝てるのですか?」
イカロスは先ほど別れを告げたタコピに声をかけた。もう帰る時間だからだ。
「むにゃ、友よ。やはり帰ってきてくれたか?」
タコピは話の流れじょう。「寝続ける」をやり遂げていた。イカロスはそんなことはお構いなしに、
「友よ、とかまた何変なスイッチ入ってるんですか?いつもどおりイカロスで呼んでください。調子が狂います」
と答えた。タコピは突然立ち上がり、瞳に炎を宿した。
「イカロス!先ほどお前が手を差しのべてくれなかったから今まで寝てたのだ!お陰で腹ペコだ!」
「タコピさんお腹空いてるですか?ならこのいちご雲ロールをどうぞ〜」
アイピが鞄から5個のいちごの雲ロールを取り出しタコピに向けた。タコピの顔が一気に緩んだ。
「こ、これが妖精の優しさか〜」
タコピは泣きながら雲のロールパンを完食し、祭り後のトレーニングがあると足早にその場を後にした。
「アイピさん、凄いですね」
イカロスはタコピの面倒くさいスイッチをすぐさま解除したアイピに称賛の言葉を贈った。にゃんぴーが満足気に「帰ろう」と行ったので一行はグルノア神殿を後にした。