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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界あるある短編

端役は物語に唾を吐く

作者: 川崎悠

※胸糞注意!

※ただ残忍なだけ

※バッドエンド

「命を奪わないだけ、ありがたいと思えよ」


 そう言った男は、私の『顔』を切り付けた本人だった。


 痛みのあまり叫び声をあげそうになる。

 みっともなく泣き喚いて。

 苦痛にのたうち回って激痛を誤魔化すように。


 しがない一人の令嬢に過ぎない身なのだから、そうしたとしても仕方なかっただろう。

 たとえ、その姿を無様と嘲笑われたとしても。


 だけど、私はそうしなかった。

 『出来なかった』と言っていい。


 肉体に与えられた激痛を、心に与えられた情報が凌駕した。


「…………」


 顔を切られて、熱を帯びた激痛と共にドクドクと血が流れ落ちた。


 私に今、この傷を与えた男。

 残酷で残忍、無慈悲な暴君だった。

 いや、将来そうなる男と言うべきか。


 まだ彼の父である王は在位中。

 彼の国は、圧倒的な国力と領土を持つ大国だった。

 気に食わない真似をした女を、それも貴族を、剣で切り付けても許されるほどの立場。


 そういう暴君という属性を持った……。


 キャラクター。



(……この世界は)


 物語の中の世界だと私の記憶が告げる。

 女性向けに描かれたような物語の世界。


 気に食わないことがあれば、そうした者を殺し、一族ごと殺す。

 剣呑で野蛮。横暴で理不尽。

 それでいて……『主人公』となる女性だけは許し、傷つけない。そんな男。


 やがてヒロインに人の心を、優しさを教えられるキャラクター。


 君が言うならもう殺さないよ、と。

 彼にも事情があるんだ、悲しい事情が。

 そうまで人間不信になった事情が。

 ヒロインによって改心した後は、賢君となり、国を豊かにするような男。


 ヒロインは、最強で最凶な男を手に入れ、何者にも脅かされない幸せと愛を得て生きていく。

 すべてがヒロインに都合がいい物語。

 ヒロインを満たすために生まれた世界。


 だけど。


(……この男は生きていてはいけない存在だ)


 私の役割と言えば、男の残酷さや理不尽さを際立たせるための端役。

 男が、かつてこんな残忍な真似をしましたと、さらりと数行で流される設定の中に出てくる、モブですらない存在。


 『多くの人間を残酷に死に追いやった男』は、愛を知り、優しさを知り、変わるらしい。


 私は彼が犠牲にするその他大勢の誰か。


「…………」


 切られても悲鳴を上げず、のたうち回らず、さりとて気を失うわけでもない私を、男は多少は訝しい気持ちを抱いたのか。

 その表情から窺えた。



 ……私が切られた理由は、ほんの些細なことだ。

 男のために開かれた茶会。

 年頃の令嬢が集められ、男の関心を引くために。

 すべて徒労に終わる。


 男はこの中の女からは自分の運命を選ばない。

 気に入らぬ発言をした私を切り付け、残虐な人物像を『読者』と人々に突きつけて、慌てて彼から離れていく女たち。


 私は一生、顔に傷を抱え、暴君に切られた女として家族すら人々に遠ざけられて落ちぶれる宿命か。


 『主人公』様は、そんな男の理解者になる。

 彼の理屈、彼の事情、彼の悲しみに寄り添い。

 己の幸せは彼のそばにあることだから。

 まるで人間ではない。

 ただ一人の女にだけ都合のいい、魔王のような男という物語のせいか。



「……治癒(ヒーリング)

「……なに?」


 私は、顔を押さえていた手の平から魔力を注ぎ込み、自らの怪我を癒した。


 魔法。


 端役でしかない『私』が使えるはずのない力。

 前世の記憶を思い出したからこそ使える力。


 幸い魔力はある身体だった。

 それに身体になくても、自分の内側ではなく世界に流れる魔力を利用する方法もある。



「──死ね。害虫が」


 男に向けて宣告する。

 魔力を固めた刃を用いて、剣を持った男の腕ごと切り落とした。


「ぐぁっ……!?」

「きゃあああ!?」


 誰のための物語か。

 これでも、どこかに居る女にとっては最愛の者になる。

 さぞかし、その女の目から見た男は魅力的なのだろう。


 知ったことか。


「貴、様……っ!?」

「──黙れ。クズが」


 男の残った腕を切り落とした。


「ぎっ、あっ……」


 敵である者、気に入らぬ者、邪魔をした者、すべてを殺すことが許された男。


 挙句、のたまうのだろう。


 『男の治世だからこそ平和な国が出来る』と。

 ああ、その恩恵を享受できる者にとっては、勇ましき、有能な男になること。


 生憎と私は、そうではなかった。

 そして生かされただけで。

 殺されなかっただけで有り難く思うような殊勝な女でもなかった。



「──誰より、無様に、死ね」


 腕を切り落とされてもまだ私を睨み返す男。

 如何にも誇り高い。


 だが、その尊厳は不要だ。


 何故なら、男は私の顔を切り付けた。

 それだけで、この男の人権は要らなかった。


 私の魔法で男の服を焼いた。

 服だけだ。

 それは別に優しさではない。


 『辱める』ためにそうした。


 相手が女であれば、より残酷だっただろう。

 無様に裸にしてやろう。


 整えられた衣服を着たまま、格好のいい死に様になどさせてやるものか。


「ぐっ、くっ……!」

「お前には不要な『物』がまだあるな?」


 私が生み出した魔法で男の身体を浮かせた後、身動きできない周囲が見守る中、晒された男の下腹部にある『モノ』を切り落とした。


「っ……!」

「これで、クズのお前から生まれる子は、もうなくなったな?」


 大国唯一にして正当なる王子の男根を切り落としてやった。


 裸にして、それを切り落として。

 魔法で浮かせた身体と、切り落としたソレ。


「流石に意識が絶えたか? 誰がそれを許した?」


 痛みと失血で気を失った男の意識を、魔法で無理矢理に覚醒させる。


「ほら、落とし物だ。自分の物だろう? 咥えて、死ね。お前の死因は『窒息』だ。

 切り落とされたお前自身の男根を咥えてのな?」

「っ!!」


 口に切り落とした男の男根を突っ込んでやる。

 そして鼻を塞いでやる。


 この男に尊厳は要らなかった。

 この男に人権は要らなかった。


 何故なら私の顔を切ったから。



 残酷で無慈悲で残忍な、狂気に彩られた美形の『ヒーロー』。

 ただ一人の女のために存在し、すべての凶行が許されると約束された男。


 物語の中だから許された。

 そういう人物を好む女が居ても、それが『偽り(フィクション)』だから許容できた。


 だが、こうしてこの世界に生きる人間になった以上、その存在は許せない。



 圧倒的な力とカリスマを持って、永世の平和を作る王になるはずだった男。

 結果として、殺した人間よりも、より多くの人間を生かし、幸せにするはずだった男。



 【残酷な性格をした美しいヒーロー役】とやらは、これ以上なく惨めで無様な姿で死に絶えた。



「私の顔を切った報いだ。その程度で済ませてやっただけ、ありがたく思えよ」


 拷問までしなかったのは私の温情だ。

 両腕と男根を切り落とし、身を装飾するすべての衣服を焼き払って。


 死因は切り落とされた己の男根を咥え込んでの窒息死。


 その滑稽な死に様が、後に語り継がれるように石化の魔法を掛けてやろう。


 より多くの者の目に留まらせる。

 男のこれまでの功績や、罪も、すべてがその無様な死に方に塗り潰されるように。

 後世の者たちに残る、この男の記憶は、この死に姿だ。


 たったこれだけの処遇で済ませてやった。


 これから男の死によって世界は変わるだろう。

 犠牲者は、より増えるのだろう。

 その代わり、男が殺す人間は減った。

 男が残酷さを示すためだけに命を落とす者が減った。

 別の形で運命のように死ぬのかもしれないが。


 そうして、男の理解者面をするだけのヒロインの意味はなくなった。

 死体の山の上で構築されるラブロマンスは燃え尽きた。


 いい気味だ。



「……さて」


 前世の記憶を思い出した、物語の端役でしかない私は、男主人公を始末した。


 だから。


 次はヒロインを殺しに行こうか──


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― 新着の感想 ―
 残忍クズ野郎に制裁が加えられたのがすっきりします。
主人公にとっては、ハッピーエンド!クソ王子ザマア!ヒロインは、転生者でこの作品大嫌い!とかだったら、ワンチャン生き残れる? 酷い話も一人の為だけの数多の犠牲もフィクションだから!許される…まさに、その…
ヒロインにだけ優しい残虐クズ男ってのも好きなんですが それに否を突きつけるこういう作品も好き! ヒロインちゃんはなぁ… 残虐男に目を付けられちゃって、生き延びるために傾聴カウンセリングやって 残虐男…
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