【四文字目】 あかいみずのそこ
日本の夏といえば怪談。ということで、涼しくなるために今回はホラーテイストです。
怖いか怖くはないかは個人差がありますので、苦手な方はご注意ください。
赤いアカイ水の底
井戸の壊れたふたの隙間から
うっそりと浮かぶ月がみえる
枝のような骨が
折れて朽ちてゆく音がする
身体の肉はとうに
きれいに剥がれて散った
黒いかたまりになって融けて
穢れといっしょに
苔むしてゆくの
咲かせたのは情念の花
静かに穏やかに
過ぎ去ったものにしてしまえばよかったのに
世界の片隅で
そのまま朽ちることを拒んでしまった
ただようは幻のかげ
血に濡れた手のひらで
つきたてられた刃は冷たく沈む
手心はくわえなかったのか
とうに深く深くえぐられたのに
泣くちからも 叫ぶちからもなく
憎しみさえも遠くにかすみ
塗りかえられていった
熱のかわりの暗闇と静寂
残りのともしびが消える
はいずりながら落ちゆく先で
ひとりだと ひとりだったと思い知った
震える記憶をたどり
へりに手をかけ はいのぼる魂
微笑みは昏く昏く
真夜中の残滓
みだりに触れてはならない影
筵をはがしてはならない
目には見えずとも
もう 側にいるから
野暮なことはいいっこなし
歪んだ手を背後から伸ばしたら
夜明けまで離れない
来世で逢うなんて生ぬるい
輪廻を外れて
流浪に堕ち
煉獄の炎をまとった
六根清浄の那由多の果て
わたしと一緒に さあ
ヲチナサイ