川に想いを、灯籠を
暑い夏だ。タンクトップが肌に張り付いた。彼女は笑って言った。
「私、そろそろいかなきゃ」
「何処へ」
「愛媛の条土市ってところ」
「あぁ。よく、山で虫取りをしていたと言っていたな。今も山は残っているのか」
「うん。当時そのままで残ってるよ」
「そりゃ良かった」
「一応傘持っていこうかな」
「どうして。雨なんて降っていない。快晴じゃないか」
「ここのところずっと雨が降ってたからね。念の為」
「振らないよ。気をつけて行ってきてね」
「うん。お土産に何か持ってきてあげる」
「ありが」「おい」
私は振り向いた。友人が暗い顔で私を見ていた。
「なんだ」「なんだじゃない」
「心配しないでくれ。未だに気持ちの整理がつかないのさ」
彼女は死んだ。土砂崩れに巻き込まれて死んだ。
車内から、ぐちゃぐちゃになった饅頭が見つかったという。
「もう少しで灯籠流しがある」「うん」「そこでもう、別れを告げろ」「…」「そうでなきゃ駄目だ」
カーテンが風に吹かれて翻った。
「そうでなきゃ先に進めない」