09.贅沢な生活
私には専属のメイドが与えられた。
そんなの贅沢すぎますとレスタト様に断ったが、全く聞き入れてもらえず、そのままメイドを与えられた。
城の中にいるのは、全員レスタト様以外の上位種族だった。
最初5、6人のメイドがいたけれど、私の祈る場面を見て逃げ出す子も多かった。
結局残った専属メイドは一人だけ。
エルザという子は私と同い年くらいの少女だった。
他の人間と違うところは、目が三つあること。
額のところに第三の目がある。
普段は目はずっと閉じられている。
私はお風呂に入ってる中、エルザに色んなことを聞いた。
「ねぇ、エルザ。額の目が開かれた時はどうなるんですか?」
「敬語はおやめください。マリア様。そうですね……遠くのものがよく見えるようになります。いわゆる千里眼というものが使えるようになるのです」
千里眼。遠くの場所や出来事を見ることができる能力。
「どれくらい遠くのものが見えるの?」
「この国中くらいは見えますよ。頑張れば隣国までも見渡すことができます。また人の心の動きも読むことができますね」
「はぁー。すごい……」
千里眼といえばお姉ちゃんも持っていたはずだ。人造聖女の私は流石に持てなかったけれど……。
「この城の中にはたくさんの種族の人がいるね。レスタト様の側近には人狼のノアさんが。
……レスタト様は何の種族なの?」
「おや、気になりますか?」
「……そりゃあ……ちょっと。別に好意とかそういうのじゃないのよ? ただの興味で」
「好意がありますか? と聞いたわけではないのですが……ふふ。レスタト様は『吸血鬼』になりますね」
「あぁ……だから生き血を飲んでたんだ」
そう言えば最初にレスタト様は人間の生き血を飲んでいた。
「上位種族って色んな人がいるね。人間をパクリと食べちゃう人もいるの?」
「まぁ……種族によってはいますね。ただそこまで多くはないです」
なるほど。上位種族にとって何も知らなかった私は、最初、この屋敷に来たときに『食べないでください』と懇願した。
でも全員が人間を食べるわけじゃないのか。
そこはわかりあえていなかったところだ。
沢山の上位種族に出会えたけれど、みんな私のことを引いた目で見るか、温かい目で見守ってくれている。
贅沢にも美味しいご飯も用意してくれている。
たまにレスタト様と一緒にご飯を食べた時、彼は『美味いか?』と優しく尋ねてくれる。
私はいつも即座に『はい』と答えていた。
エルザ曰く、レスタト様はサラダや肉類などの食事を取ることは必要ないらしい。ただ一度、血を飲むだけでいいようなのだけれど……私と食事をとる時は、いつも私に合わせてご飯を食べてくれる。
塔の中での生活とは全く違っていた。
あそこでの食事は一日一食の硬いパンと水のみ。
でもここで与えられるのは、ふかふかのパンに、美味しいジュース。
こんなに美味しいものを与えられ続けたら、ダラけてしまう。
いつかまたあの塔に戻ったときに、私はこの食事を思い出してしまうだろう。
「レスタト様はなんでこんなに沢山与えてくれるんだろう……」
「それはマリア様が大切だからですよ」
エルザに即答された。
「……大切?」
「見ていればわかります。レスタト様が貴方を見る時の目は、とても優しくて、温かい。きっとレスタト様にとってマリア様は大切な人なのでしょうね」
「……そうね。マリアは……大切な人だわ」
私が成り代わっている『マリア』お姉ちゃん。
彼女は本物の聖女だ。
マリアは世界に愛されている。だからレスタト様にも愛されて当然なんだ。
レスタト様の優しくて温かい目は、本来ならマリアお姉ちゃんに与えられるものなんだ。
私はその権利を奪ってしまった。
きっとバレたら酷いことになるだろうな……。
――と思ったけれど、レスタト様は国の人間たちとは全く違う。
祈りを止めて、やめろと命令してきた。彼が私に傷を与えたことは一度もない。殴ったり蹴ったりはしないだろう。
「レスタト様は全員に優しいの?」
「……全員というくくりでは、なんとも言えません。あの方は魔王様ですから、時に非情になることもあります。……でも自分に従う者に、酷いことをするような人ではありませんよ」
エルザはそう言って、優しく微笑んだ。
「さぁ、長湯をしすぎたら風邪をひいてしまいます」
「えぇ。乾かすのは自分でやるから……」
「いえ。そこも私の任務です。以前長い髪をボサボサにして出てきたときには驚きました。ただでさえ長い髪なのですから、大切に扱わないと」
私の髪は生まれてから一度も切っていない。だからとても長い。
そんな長い髪を、エルザは丁寧に解いてくれる。オイルを付けて、艶を与えて……そして歩きやすいように編んでくれる。
「……こんな贅沢、してもいいのかしら」
「私はなんとも言えませんが。……レスタト様は貴方に優しい。与えてくれるのならば、素直に受け取っていればいいのですよ」
エルザはそう言って微笑んだ。
そうか。……甘えていいのか。
今までお姉ちゃんに甘えることしかできなかった。
でも、これからはお姉ちゃん以外の人に甘えていいのか。
それでも――
今後またあの生活に戻った時……
……きっと私は今の生活を思い返して絶望するだろう。
だから喜んじゃいけない。
私は決めたんだ。
……国のためにレスタト様を殺すのだと。
でも、こうやって優しい待遇を受けていると決心が鈍る。
逆だったら良かったのに。
塔の中で贅沢なご飯が出ればよかったのに。
ここでの生活では硬いパンのみならよかったのに。
――……迷ったらだめだ。
私はもう決めたのだから。




