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聖女は食べられませんっ!~人造聖女は魔王を騙して嫁になる~  作者: 六花さくら
◆第一章◆ 『本物』の聖女と、『偽物』聖女
3/10

02.聖女という存在価値

 興ざめだ――そう言って、魔王は部屋を出ていった。

 私はベッドに寝転んで、これまでのことを思い返した。


 まず、この国には、人の『王』がいた。

 そして、必ずどの時代にも聖女が存在していた。

 現在の『聖女』は私の双子の姉である、()()()だった。



 まず『聖女』の定義とは――


 それはこの国を魔族や魔者と呼ばれる種族から守るために、大きな結界を張る存在のことを言う。

 それと同時に癒やしの力を持ち、木々を生い茂らしたり、雨を降らせたりできる万能の人のことをそう称する、らしい。


 一つの時代に一人の聖女。

 それが当たり前だったのに――なんとも不幸なことにお姉様のおまけに双子の妹である私――リリアージュが産まれてきたのである。


 私という存在は、この国にとって邪魔でしかなかった。


 私のせいで、姉の聖なる力が失われたり、損なわれたりしてしまうかもしれない。

 力が分断されてしまうかもしれない。


 そう危惧された私は、幼い頃から塔に閉じ込められ、聖女になるための努力を重ね続けた。



 私の姉、マリアお姉様はとても素晴らしい人だった。


 貧しい民には救いの手を差し伸べ、毎日礼拝を欠かさない。

 お姉様の祈りでこの国は栄え、救われている。

 だから、お姉様はとてもとても格好いい人だったのだ。


 一方で、塔に幽閉されていた私は、毎日『儀式』をさせられて、余った時間で本を読んだりして過ごしていた。

 お姉様は()()()()()()()()()()のために、毎日毎日お菓子を運んできてくれていた。


 私は、そんなお姉様のことが大好きで大好きで――ずっと、憧れていた。

 私のような生きる価値のない、足手まといにも、ずっとずっと手を差し伸べてくれたお姉様。


――私は、貴方になりたかった。




 昔の夢を見た。


「いいですの? リリアージュ。貴方はワタクシの妹。だから胸を張って生きなさいな。何も誰も恐れることありません。貴方のことを侮蔑する者がいるなら、(わたくし)はそいつに右ストレートをお見舞いして、その頭を踏みつけて差し上げますわ。くふふふ」


 お姉様はこんな感じのお優しい人だった。

 姉が太陽なら、私も同じ太陽になりたかった。


 でも、残念ながらそれは叶わなかった。

 姉が太陽なら、私はロウソクの火。小さな小さな灯り。


 目覚めた時――朝になっていた。

 ベッドには私一人だった。

 あまりに快適なベッドで、ぐっすり眠ってしまっていた。


「あれ……ここって、本来は魔王のベッドじゃ……」

 一人で眠るには大きすぎるベッドから降りて、彼を探す。


「あ、いた」


 魔王はソファーの上で眠っていた。魔族は基本夜に行動すると言われている。

 だから今はちょうど魔王の就寝時刻なのだろう。


 カーテンは完全に日光を遮断している。

 私はちょっとだけカーテンを開けて外を見た。


 月が沈み、朝陽が登っていく。

 ……とても、とても綺麗な風景。


 上位種族に占領されたこの国でも、空は変わらず青色だ。

 だから希望を持てる。


 いつか、助けが来てくれると。



「んんっ……」


 魔王の声が聞こえた。日差しがちょっと入っちゃったのかしら。

 ついでだから起こしてしまおう。


「魔王様、そんなところで眠っていたら身体がガチガチになっちゃいますよ。

 せっかく大きなベッドがあるんだから、そこで寝たら――」


「……ベッドには、マリアがいるから……」

 魔王は寝言のように、呂律の回ってない声で言った。


 ……え。

 気を使ってくれていた?


 ちょっとびっくりした。

 だって、彼は上位種族の王様。彼にとって人間なんて猿のようなもののはずなのに。


 彼は私にベッドを譲ってくれた。

 そして、名前も覚えてくれていた。


「――っ!」

 がばっと魔王が起きる。

 血のような赤い目がじーっと私を睨みつけている。


「……あぁ、お前か」

「マリアと呼んでいただけないのですか?」

「……誰が呼ぶか」


 先程呼んでくれたけれど。やっぱり寝言だったんだろう。

 あんまり聞かれたくなかったんだろうか。


「起きたんなら丁度いいです。魔王様。どうぞどうぞ、ベッドへどうぞ。私が使っちゃっててごめんなさい。でも別に私は床でも眠れるので、蹴落としてくださっても構いませんでしたのに」


「ふぁ……誰が蹴落とすか。そこまで外道じゃない」


 外道じゃない人は人間の生き血なんて飲まないですけどね。

――という言葉をぐいっと飲み込む。


 魔王は私の腕を掴み、ずるずるとベッドへ向かった。

 そして、彼はベッドで寝転ぶと、そのまま眠ってしまった。


 私はベッドの上でぽつんと座ったまま……。


「え……なにすればいいんでしょう……」


 魔王に掴まれた腕は、離れない。離してくれない。

 このまま一緒に眠れということだろうか……。

 やっぱり魔王のことはよくわからない。


――というか、お腹が空いた!

 私のご飯、絶対に忘れ去られているだろうなぁ……と思いながら、私は魔王の美しい寝顔を見てため息をついた。

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