プロローグ
「わ、私は聖女なので、食べても美味しくありません~っ!」
私――リリアージュは叫んだ。
目の前には真っ赤なシートの黒い飾りのついた玉座があって、そこには――魔王がいた。
私は魔王への献上品。
綺麗な陶器の上に並べられた果実と同じ扱いをされていた。
「……といっておりますが、どう思います、魔王様」
角の生えた悪魔が、玉座に座る男に尋ねた。
「そもそも聖女がいれば、この国は守られているはずだ」
魔王――そう呼ばれた男は、きっぱりと言い放った。
まさに図星である。
この国は聖女の祈りによって守られていた。
けれどある日から、それが無くなり、こうして魔者や魔王が侵略してきてしまったのである。
そんな中、私は元々暮らしていた塔の中で、侵略されている国を見ながらぶるぶると震えていた。けれどとうとう悪魔に見つかり、捕まってしまい――いま現在ここにいる。
「けれど、ふむ。聖女の香りはする。間違いは言っていないだろう」
「おかしいですね」
「……あぁ、不自然だ」
魔王とその側近に、私は品定めされている。
彼らの見る目は、人を見る目ではない。
出荷される果実を見るように、事務的な目だった。
それは彼らにとっては当たり前のこと。
だって、彼らは上位種族。私達のような人間は、彼らにとっては下等生物なのだから。
「お前」
「……は、はい!」
私は突然呼ばれて、驚いた。
魔王の目は血のように真っ赤だった。
「名は?」
「――マ、マリア。『マリア・ルージュ・ダルク』と申します」
私は大法螺をふいた。本名は『リリアージュ・リュ・ダルク』だけど、あえて偽った。
本物の聖女の名を――私の双子の姉の名を。
「ふむ。確かにこの国の聖女の名だな。……聖女の容姿はピンクブロンドに、青と黄金のオッドアイと聞いたが――確かに、容姿もあっている」
そりゃそうです。
私と姉は一卵性双生児。見た目は一緒。
違うのは中身だけ。
姉が『本物』の聖女で。
私は聖女になれなかった屑――人造聖女。
「魔王様、どうか聖女としてお願いがあります」
「……ふむ。まず、聖女としての前提がおかしいが、きいてやらんこともない」
ぐぬ。
けれど聞いてくれるのならいいことだ。
「この国の王は、代々聖女を娶る義務がございます」
「まぁ、この国は滅びたのだが」
うぐっ。
さっきからツッコミが痛い。
けれど私は喋るのをやめない。
やめた瞬間――私の命など虫のように潰されてしまいそうだからだ。
「……ですから、どうか、私を、聖女マリア・ルージュ・ダルクをどうか、娶ってくださいませ」
「お前を娶って、何のメリットがある?」
「……わ、私は食べても美味しくおいしくありませんっ! この世界で聖女の存在は稀でございます。ですので、稀な聖女を手元に置いておけば――利用価値がどこかで出るのではないかと」
「お前の話は想像ばかりだな」
ふんっと、魔王は言った。
そして長い長い沈黙のあと――私はその間死んだと思っていたけれど――彼は言った。
「良いだろう。お前を嫁として迎える」
こうして私は魔王の懐に入ることを許されたのでありました。
……今更ですが怖くて泣きそうです。
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