第94話 俺、異世界でエリンの部屋にシスティを入れる
部屋に入るとすぐにリリアーヌが座布団を用意してくれた、ついさっきまでリスのように頬を膨らませていたのがウソのように機嫌が戻っていた。
こういうのって何て言うんだっけ・・・女心と秋の空・・・なんか微妙に意味合いが違う気もするが、まぁ何はともあれ機嫌が戻ってくれて良かった。
早速リリアーヌが用意してくれた座布団にあぐらをかいて座ると、エリンの様子を再度確認してみることにした。
彼女の顔色は樹海で倒れていた時とは比べものにならないほどに良くなっている。あの時はセルーンがいてくれて本当に助かった、俺だけだったら倒れた原因が魔力切れだということに気づけなかっただろう・・・まぁその心配をする前にオークエンペラーで全滅していたかもしれない。
俺がギルドに行き用事を済ませて宿屋まで帰って来るまでにかかった時間は1時間ほどだ、それを考えるとエリンが樹海で倒れてからの経過時間を考慮しても彼女が眠っていた時間も長くて1時半ってとこだろう。
ドアを閉め、俺の横にちょこんと座るリリアーヌにカテリーヌさんがいないことについて質問をしてみた。
「リリアーヌ、そういやカテリーヌさんの姿が見えないけど買い物にでも出かけているのか?」
「お母さんだったら、アスティナちゃんが帰って来るちょっと前にガラクさんのとこに行ったよ」
「そっかー、どおりで宿屋で見なかったわけだ」
ガラクさんのとこに行ったのなら魔物買取所に用事があるってことだな、あれかウルフ肉でも買いに行ったのかもしれない。
この世界でのウルフ肉は庶民にとって身近な食材になっている、そういうこともありこの宿屋でもウルフ肉を使った料理が多数ある、というか肉料理=ウルフ肉といっても過言ではないほどによく出てくる。
そういやウルフ肉であることを思い出した・・・それは今日頑張ったエリンにシャドーウルフを使ったご馳走を振る舞う約束をしていたことだ。
あとでゲオリオさんにシャドーウルフの肉を渡して、これで晩御飯を作ってくれるようにお願いしておこう。
俺は前の世界でもこの世界でも、料理を作ったことはない・・・そんなことしなくても普通に美味いものが食べられたし、わざわざ料理をすることも覚える必要もなかった。
さて、そろそろエリンのことも気にしてやらないとな・・・俺とリリアーヌとで会話をしているのをベッドの上からジーっと何か言いたげな様子でこっちを見ている・・・主に俺の方を。
「そういや、エリンはいつ頃起きたんだ?」
「アスティナが帰って来る30分前ぐらいかしら・・・たぶんそれぐらいよね、リリアーヌちゃん?」
「うん、そうだよ。宿屋の時間管理をやってる、わたしが間違えるはずないもん!」
リリアーヌはそう言うとえっへんというジェスチャーがしっくりくる動作をした。ただ少女が腰に手を当て仰け反るその仕草は偉そうというよりもとても微笑ましく思えた。
そんな話をしている最中、誰かがドアをトントンとノックする音が聞こえた。エリンはカテリーヌさんと思っているらしく「どうぞ、カテリーヌさん」と招き入れようとしているが俺とリリアーヌは違う人を思い描いている。
そもそもカテリーヌさんはノックなどせずにドアを開けてくる。元S級冒険者は伊達ではなく、あの人は部屋の中に入らずとも気配で状況確認が出来るような化け物・・・もとい本当にすごい人だ。
そういやゲオリオさんも同じことが出来るって前に師匠が言ってたな、リリアーヌも将来あんな風に気配で状況確認するような達人になるかもしれない・・・あれ、これ前にも同じこと考えていた気がする。
俺はリリアーヌがドアを開けるために立ち上がろうとしているのを制止させるように「俺が開けるから、リリアーヌは座っていてくれ」と言った。
リリアーヌは俺の言葉に従って、そのまま座ってくれた。リリアーヌの座り方・・・女の子座りというやつだが俺もいまはアスティナの身体なのでやろうと思えば、出来るのだがどうもまだ恥ずかしさなどが勝ってしまい未だ出来ずじまいだ・・・というかあぐらが一番しっくりくる。
俺はドアを開けながら「システィ、入ってくれ」と彼女を部屋に入るように促した。
エリンはどちら様ですかという顔をしながら、こっちを見ている。リリアーヌは一度会っていることもあり、普通に「システィお姉ちゃん、おかえりなさい!」とビックリするほどに懐いている、いや一回会っただけでこれほど懐かれるとか、さすが俺のメイドさん。
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