第82話 俺、異世界でセンチネルの部屋に行く
部屋を出る前にリリアーヌから「アスティナちゃん、アスティナちゃん、あの綺麗なお姉ちゃんは誰?」と興味津々で聞かれたので、リリアーヌに彼女が専属メイドであることを伝えた。システィもその事を了承するかのようにリリアーヌに自ら紹介をしてくれた。
「アスティナお嬢様のメイドのシスティと申します。リリアーヌ様、よろしくお願いいたします」
「・・・・・・よろ、よろろ、よろしくお願いいたします。システィお姉ちゃん」
リリアーヌは少し緊張しながらもそう返事をすると・・・すぐに俺の方を見るなり「アスティナお嬢様、アスティナお嬢様」と口に出して言いたいだけだろうと言わんばかりにはしゃぎながら言い始めた。
それは俺がこの宿屋を出るまで続いた・・・。あと宿屋を出る時にカテリーヌさんにもエリンのことを頼んでおいた。
冒険者ギルドに向かって歩いていると、いつもより町のみんなに注目されているような気がした。
この町にも多少馴染んだこともあって、普段なら見られていることよりも話しかけてくる方が多いのだが、なぜか今回は話しかけてこないで一定の距離を取って様子を見ているような・・・。
よくよく考えてみると俺とエリンの組み合わせはもう見慣れているのかもしれないが、今回は俺とシスティの組み合わせ・・・しかも片方はメイド服姿でしかも常に俺の一歩後ろをついてきているというスタイル。
深くは考えないようにしながら、歩き続けやっと冒険者ギルドにたどり着いた。
なぜか依頼報告を冒険者ギルドにしに行くと、ほぼ毎回のようにセンチネルが2階から俺が帰って来るのをニヤニヤしながら見ているのだが、今回はやつの姿が見当たらない。
ギルドマスターの仕事をしているのか、それともセレーンさんと一緒にセルーンの治療をしているのか・・・。
受付窓口で依頼報告して場合によっては魔物買取所のガラクさんに連絡してもらい魔物を売りさばきに行くのだが、今回はギルドマスターであるセンチネルからの直々の依頼だ。
セルーンの事も気になるし、それにセンチネルに直接報告しに行った方が良いか・・・とはいってもほぼほぼセルーンが話してくれてそうだけどな。
システィに2階に行く事を伝えると俺はギルドマスターの部屋に早速向かうことにした。
ギルドマスターの部屋の前まで来た俺は「センチネルいるか~?」と友達の家に来たかのようなゆるい感じでドアのトントンッ!っと2回ノックした。
すると部屋の中から「あー、やっと来たね。入って、入って!!」とセンチネルの声が聞こえた。
ゆっくりとドアを開け、部屋に入るとそこにはソファーで横になっているセルーンと彼女を膝枕をしているセレーンさんの姿が見えた。
てっきり、セルーン姉妹が座っているソファーの反対側に部屋の主であるセンチネルが座っているのかと思っていたが、その彼はイスに座って目の前にある机に大量の書類を広げながら、なにかを探しているようだった。
センチネルはなんか忙しそうだし、とりあえずはセレーン姉妹と話でもして待つことにした、俺が反対側のソファーに座ると同時にシスティは俺の後ろに移動すると、初めてこの部屋に入った時に見たセレーンさんのようにスッと立ち、俺の横には座ろうとはしなかった。
従者という立場である以上仕方がないのかもしれないが、夢の中であれほどアスティナと仲良さそうにしていたのを見ていたので、その対応が少し寂しいような悲しいような感じがした。
ソファーに座り、ふと入ってきた方を見るとドアが閉まっていた、ドアを閉めた記憶が一切ない、どうやらシスティが閉めておいてくれたらしい。俺は後ろを振り返り、彼女の顔を見ながら「システィ、ありがとう」と感謝の言葉を述べた。
システィは軽く目を閉じ、頭を下げるとまたスッと立って動かなくなった。
何というかやっぱ寂しいなと思いながら正面を向きなおすと、さっきまで膝枕をされていたはずのセルーンが普通に座って、右手でカップを持って紅茶を飲んでいた。
ふと、テーブルに目をやると自分の前にも紅茶が入ったカップが二つ置かれていた、一つは俺でもう一つシスティの分だろう。
俺はカップを手に取ると口をつけ一口飲むとすぐにカップをテーブルに置き、セルーンに傷の具合について聞いてみた。
「セルーンお姉ちゃん、傷はまだ痛むか・・・キュアしかないけどそれでいいなら、どんどんかけるからさ、言ってくれよな」
「大丈夫よ、アスティナちゃん。あなたのおかげでほら見て、もうカップを持つことだって出来るんだから!」
「いや・・・気づいてはいたけどさ、そんなにすぐに動かして大丈夫なのかよ・・・セレーンさんからも何か言ってやってくれ」
彼女は子供のように「大丈夫!大丈夫!!」と右腕をぐるぐると回して、もう完治したことをアピールしている。しかし、その右腕にはしっかりと縦線が残っていた。
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