第79話 俺、異世界で町に帰る支度をする
俺はセルーンにボロボロになった仮面を手渡した。彼女は左手で仮面を受け取ると良く頑張ったと褒めているのかのように優しいタッチで3回ほど撫でると、レジャーシートの時と同じようにストレージにしまった。もちろん今回も一瞬だったので、どこにしまったのかは分かりませんでした。
「セルーンお姉ちゃん、あの時は助けてくれて・・・ありがとうございました!」
「どういたしまして、ギリギリだったけど助けられて良かったわ」
「あぁ、本当に助かった・・・だけどさ、あの蹴り結構痛かったぜ・・・ちょっとクラクラしたし」
「それを言うなら、わたしなんて右腕パックリいってたわよ?」
「それ・・・言われたら・・・こっちはなにも言い返せねぇ」
ナタで斬られた右腕のことを言われると、ぐうの音も出ない。俺が負けを認めるとセルーンはわしゃわしゃと俺の頭を撫でてきた、俺が「やめろよ」と言うと、彼女は左手で右腕に軽く触れると「あ~、いたい・・・みぎうでがとてもいたいわぁ」と見事なまでの棒読みを披露してきた。
その演技力のなさに俺は盛大に笑ってしまった、彼女はお構いなしにさらに棒読みで話し続ける。
最後は彼女も俺に引っ張られるように一緒に笑うと「やっぱりアスティナちゃんには笑顔が一番似合うわ♪」と俺を見ながら言ってくれた。
傷が塞がっただけで、斬られた箇所が一目ですぐ分かるほどに縦線が右腕に刻まれている、本当はまだ痛みすら引いていないのだろう。それでも俺を心配させまいとしてくれているセルーンに俺はただただ感謝するしかなかった。
まだ眠っているエリンを町まで連れて帰るため、いつものフライおんぶ作戦・・・通称、飛行タクシーで帰ることにした。
フライも使い慣れたこともあり、いまでは手と足を使って出力を制御することにより、3次元の動きが出来るようにまで成長した。システィに手伝ってもらい、俺の背にエリンが覆いかぶさるように乗せると次に空中で万が一落ちないようにいつもの麻ローブで胴体をぐるっと固定した。
まだ動くことが出来ないセルーンについてはシスティに運んでもらうことにした。俺と同じようにおんぶするのかと思っていたのだが、うちのメイドさんはお姫様抱っこを選んでいた。
さすがのセルーンも少し恥ずかしかったのか、出血により血が足りず真っ青だった顔が少しだけ赤くなっていた。
カメラがあれば、そんなレアなセルーンを撮れたのに・・・実に惜しいことをしたと思ったが、いまは照れているセルーンを脳内保存するためにジーッと見続ける。
俺の熱い視線に気づいたのか、どこからか亀裂の入った仮面を取り出すと、俺の視線を遮るかのように被り始めた。
セルーンに出発してもいいかと確認すると、彼女は仮面を被ったまま無言で頷いた。
「それじゃ、町に帰ろうぜ!システィ、セルーンお姉ちゃんのことよろしく頼む。出来るだけ安全運転でな」
「はい、お嬢様。出来るだけ安全運転で移動します」
「・・・・・・あぁ、任せた。それじゃ俺は飛んで帰るから、町の入り口で集合ということで」
そう言うと俺はドローでフライを引き、すぐに唱えた。両足から徐々に風を操りながら出力を上げていく、そして一気に加速をして樹海の木々をよけながら、上空を目指して進んで行った。
遮るものが無くなり、太陽の光がだんだん眩しくなっていくのを感じていると、待ちに待った瞬間はすぐに訪れた。
樹海を抜けたのだ、いまは真下に先ほどまでいた樹海ミストが見える。そこそこ上空にいるはずなのに、それでも俺たちが帰る方向、反対側はまだまだ広大で終わりが見えないほどだった。
「樹海ですら、こんなに広いってことは世界はさらに広大ってことだもんな。これなら不死族もきっとどこかにいるはずだ・・・そうだよな、アスティナ」
独り言に対して「ありがとう・・・」と聞こえた気がした俺はエリンが起きたのかと思ったが、彼女はまだスヤスヤと寝息をたてて眠っている。
「気のせいか・・・さて、それじゃ出発するか」
俺は合流地点である町の入り口を目指して、移動を始めるのであった。
「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら
是非ともブックマーク、評価よろしくお願いいたします。




