第78話 俺、異世界でオークキング討伐その6
それから俺はセルーンの傷が本当に治癒しているか確認するために、うつ伏せから仰向けにするためにひっくり返そうとしたが・・・ビックリするほどに動かない、これはセルーンが重いとかのレベルではなく極端にアスティナが非力だった、そういえばアッシュの店でも何も装備出来なかった気がする。
そこで俺の代わりにシスティに抱き起してもらうことにした。彼女は「はい、お嬢様」と返事をすると、素人目にも分かるほど見事な手際で抱きかかえて、俺が見やすいように向きを変えてくれた。
やっとセルーンの顔を見れてほっとした、気を失ってはいるが呼吸もちゃんとしている。ただ付けていたはずの仮面が無くなっていた。
仮面は後回しでいいか・・・まずは傷口を探して、そこを重点的に回復しないとだな。
すぐに斬られた箇所を見つけた、右腕で防御をしようとしたのか一目でそこだと分かった。出血は完全に止まってはいるがまだ傷が塞がりきっていないこともあり、生々しい部分が見えている。
俺はさらにキュアをかけるべく、ショップから30枚ほど買い漁ると全部取り出して左手に持った。
今度は斬られた右腕に手を向けながら、その傷が完治するイメージを描きながらキュアをかけていった・・・そして6枚目に差し掛かろうとしたとき、セルーンのまぶたがゆっくりと開くと俺の方を見て「おはよう、アスティナちゃん」といつもの感じで挨拶をしてきた。
そんな彼女に俺は「セルーンお姉ちゃんが寝ている間に全部、終わっちまったぜ」と少しウルウルしながら、返すのであった。
意識を取り戻したセルーンは「わたしはもう大丈夫だから、エリンのところに行ってあげて」と左腕でシッシッ!と犬をあしらうような仕草をした。
傷自体は4枚目辺りで塞がりはしたが・・・いつ開くか分からないこともあり、多少の不安はあったが彼女が大丈夫と言ったことを信じて、手に持ったカードを地面に置いて、エリンの元に向かおうとした時システィからエリンもこっちに運んでこようかと提案された。
俺は即その提案を受け入れ「あぁ、頼む!」と大きく首を縦に振り、承諾したことを示すと次に正面を向いた時にはもう目の前にはエリンを抱きかかえ、こちらをジッと見つめているシスティがいた・・・。
システィに抱きかかえられている彼女を全体的に確認したが、どこにも外傷はなくセルーンの助言通り、魔力不足によって倒れていただけのようで安心した。こんなこともあろうかと、討伐依頼を繰り返していたときに全ての魔石を売却せずに数個確保していた。
前にガラクから魔石には魔力を溜める性質があるのを教えてもらっていたこともあり、それから暇なときにちょっとずつではあるが魔石に魔力を溜めていた。
その魔石をストレージから取り出すと、早速エリンに魔石を通じて俺の魔力を受け渡そうと思っていたのだが・・・そもそもどうやって魔力を渡せばいいんだ。
それ以前に他人に魔力を受け渡すことって可能なだろうか・・・と悩んでいると横になっているセルーンが方法を教えてくれた。
「片手で魔石を持って、空いたもう片方でどこでもいいからエリンに触れて、あとはいつも通りブーツに魔力を通す感じで流れをつくるだけよ」
「セルーンお姉ちゃん、ありがとうな。それじゃ、早速やってみるか!」
俺は左手に魔石を持ち、右手でエリンの右腕を軽く掴むといつもよりも少し遅い流れをイメージしながら、魔力を通した。
上手くいっているのかは分からないが取り出した時よりも魔石の色が少し暗くなっているような気がする。これで本当に大丈夫なのかと不安に思っているとセルーンの方から「心配ないわ、ちゃんと出来ているわよ」と声が聞こえた。
魔石は魔力を溜めていけばいくほど、どんどん明るくなるというか血行が良くなる・・・これも違うような・・・とりあえずなんか輝いていくのだが魔物から取り出した直後の魔石は血が固まったような赤黒い色というか・・・これもあれだな・・・とりあえずなんか暗い赤色だった。
セルーンの言うように成功したようで、溜めていた魔力が空になったのか左手にある魔石の色が取り出した直後のようになっていた。
俺は魔石をストレージに収容すると、セルーンの傷に向かってまたキュアをかけようとカードを拾い上げていると、彼女の方からまずはセンチネルにオークキングを倒したことを報告しに町に帰るべきだと言われた。
もう少し回復してからでも問題ないのではと思ったが一番重症な彼女の意思を尊重して、ここから離れることにした。
町に戻る前にオークキングだったものを回収しておかないと、上位種ということはこいつの素材も武器も高く売れるかもしれない、これだけボコボコにされたんだし、慰謝料とか治療費ほかにもまぁ色々支払ってもらうべく、全てもらっていくことにした。
俺は真っ二つになったオークキングをストレージに収容する前に、最後に近くで顔を拝んでやろうと近づくとなぜか半分ほどに短くなったナタともう一つ大事なモノが落ちていた。
それはセルーンの仮面だった、しかしその仮面は以前の物とは見た目が変わっていた・・・それは縦に亀裂が入り、ギリギリ繋がっている状態だった。それを見たときにセルーンの右腕の傷がまだあれですんでいたことに気が付いた、オークキングのナタの全長はオークと同じ身長ほどある。
オークキングの力で全長250センチの刃物を振り落とされれば、いまのオークキングのように俺たちがなっていることは簡単に考えられる。しかし、そうならなかったのはこの仮面がナタを防いでくれたからだろう・・・。だけど、ナタはどうして折られていたのだろうか。
不思議に思った俺はナタを観察してみると・・・折れたナタの中心に半円で5ミリほど欠けている箇所を見つけた。
どうやらエリンの一撃を受けたことによって、オークキングのナタはもう折れる寸前だったのだろう・・・そして最後に仮面を斬ろうとした時に耐え切れずに折れたようだ。
「エリン、お前のあの一撃があったからセルーンを救えた・・・ありがとうな、相棒」
自分にだけ聞こえるように小さく口に出すと、仮面以外をストレージに収容して彼女たちの元に戻った。
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