第77話 俺、異世界でオークキング討伐その5
力を使い果たし倒れているエリン・・・それと俺の庇って血を流し倒れているセルーンの姿を見てから・・・俺の中で何か分からないがどす黒いものが少しずつ溜まっていっている。
俺が・・・俺が動けずに足を引っ張ったばかりに・・・セルーンが・・・俺はやつがあの豚が許せない・・・だがそれ以上に自分が見てることしか出来ない・・・自分が許せない・・・・・・。
どんどん心の中にどす黒い何かが溜まり続け・・・いまにも溢れそうになっている・・・そして幻聴かなのかどうか分からないがずっと、ずっと頭の中である声が聞こえている・・・。
その声は俺にこう囁いてくるのだ・・・。
「・・・呼べ・・・我を呼べ・・・・・・あの豚が憎いのだろう・・・叫べ・・・血狂いの乙女・・・と」
この声を俺はどこかで一度、聞いたことがある気がするが思い出せない。
まぁどうでもいいか、あの豚を処分してくれるのなら・・・・・・。
俺はかの言葉に従うように肺に空気を入れた・・・あとは【血狂いの乙女】を言うだけだ・・・これで全てが終わる。
「血狂いのお・・・」
あと2文字【とめ】を言うとしたときだった・・・「お嬢様・・・アスティナお嬢様」と誰かが俺のことを呼んでいる声が聞こえた気がした。
アスティナお嬢様・・・なんだっけ、どっかで言われた気がする、あぁ夢の中でシスティだっけか・・・あのメイドさんが言っていたな。
その声は俺のどす黒い気持ちを抑えるように徐々にハッキリと聞こえ始め・・・「アスティナお嬢様・・・今度は今度こそ、お守りいたします」という凛とした声が聞こえたとき、あれほど嫌な気持ちだったのがスッと晴れた。そして懐かしさと同時に俺の目から涙が零れた。
どうして泣いているのか俺にも分からなかったが、なぜかあの声がとても懐かしく思えた。
オークキングは虫の息となっているセルーンお姉ちゃんを無視して近づいてくる。優先順位は相も変わらず俺のようで、ガリガリ、ガリガリとナタを引きずりながら、不気味な笑みを浮かべつつ、こちらにゆっくりと歩いてくる。
さっきまでの俺ならば、恐怖で身動きが取れないままだったかもしれない・・・だけどいまは彼女の・・・システィの声が聞こえたことにより、オークキングに対しての恐怖心が完全に消えていた。
オークキングがとうとう俺の目の前まで来ると、勝者にように笑みを浮かべ「ぐふ、ぐふふ・・・」と俺が潰した左目を指差して挑発している。
そんなオークキングを見ながら、俺は「来てくれ・・・システィ」とポツリと呟いた。
なぜだが分からないがアスティナを守護する者のように名前を呼べば、あのメイドさんが助けに来てくれそうな気がした。
肩まで伸びた錫色の髪、スラリと伸びた手足に褐色の肌、服装はもちろんメイド服、夢で見たあのメイドさんがオークキングと俺の間を割り込むように一瞬で目の前に現れた。
「アスティナお嬢様、あとは私めにお任せください。すぐに終わらせますので・・・」
システィは俺の方を振り向くこともなくそう告げると、左手を地面に向けて伸ばし「来なさい・・・フルンティング」と呟く。
すると地面から漆黒の大剣が徐々に姿を現す・・・それはアスティナを守護する者が持っていた黒い大剣をさらに黒く染め上げたような大剣だった。
彼女はそれを手に取ると左手だけで2メートルはあるであろう大剣を軽々と振り回し、調子を確認すると「さて、お嬢様に危害を加えましたね・・・貴方の命で償いなさい」と冷たく言い放つと同時にブオン!!っと、突風が吹いた。次の瞬間オークキングの上半身と下半身が真っ二つに分かれていた・・・。
オークキングも斬られたことに気づかなかったのか、あの笑みを浮かべたまま事切れていた。
俺には彼女がいつ剣を振ったのかが一切見えなかったが、たぶんあの音のときに斬ったのだろう・・・。
俺とエリンとセルーンの3人で戦っても勝てなかった、あのオークキングを一撃・・・。
システィの強さも気になったが・・・それよりも早急にセルーンを助けないといけない。
俺は急いでセルーンの元に向かった、血まみれで倒れているセルーンを見て正気でいられるわけもなく、どこを斬られ血を流しているなど、探す余裕など無い俺はただひたすらにドローでキュアを取り出してはセルーンに向かって唱えた、それをデッキケースに入れた10枚全てを使い切るまで続けた。
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