第76話 俺、異世界でオークキング討伐その4
ストレージにオーク50体全てを収容し終わり、最後にオークキングを収容しようと対象に取ったのだがなぜか出来なかった。それから何度か挑戦してみたがやはり一度も成功しなかった。
このとき俺はとても嫌な予感がした、それは考えたくないもない答えだ・・・ストレージに収容できるのは生き物以外なら何でも収容できる・・・そう生き物以外なら・・・。
それはストレージにオークキングが収容できない時点でまだこの豚の王様が生きているということになるのではないか。セルーンとエリンはオークキングに興味津々なのか無防備に近づこうとしている、俺は彼女たちに駆け寄りながら叫んだ。
「ふたりともそこから!やつから離れろ!!そいつはまだ死んでいない!!」
俺の言葉に反応したエリンはすぐにオークキングから距離を取る、セルーンは俺が言う前に気づいていたのか、もうすでに臨戦態勢に入っていた。
ドンッ!っと地面を叩くような音が聞こえた・・・その音の正体は右手で体重を支えながら起き上がろうとしているオークキングだった。
いまに思えば、ゆっくりとした動作で立ち上がろうとするオークキングを遠距離で攻撃すれば良かったのかもしれないが、そのときの俺はそんなことを1ミリも考えることが出来ないほどにオークキングの気迫に押され、身動きが取れなかった・・・。
ここで経験の差が出るのだろう、エリンはすかさず弓を引き、一瞬で10連射を射る、セルーンは特訓のときには見せたことがない本気モードで殴りかかっている・・・がオークキングは矢が刺さっても殴られても一切気にしている様子がない。
片目を潰され、額と目から血をダラダラと垂らしながらオークキングは立ち上がる、セルーンとエリンに眼中にないらしく、ギロッ!っと俺だけを見続けている。
この感じはセルーンやセレーンさん・・・それにエリンとかの殺気や威圧なんてレベルじゃない・・・本当に、本気で俺を殺そうとしている、そんな目だ。
セルーンから繰り出される拳や脚による連撃がドガッ!バギィ!と激しい音を出しながらオークキングにヒットしている、エリンの矢もグサッ!と音が連続で聞こえ続けるほどに刺さり続けているのにも関わらず・・・巨大なナタを拾い上げると俺に向かってゆっくりと歩き始めた。
距離としてはまだ10メートルほど離れてはいるが・・・1歩1歩、ゆっくりとだがこっちに歩いて近づいてくる。
ガリガリ、ガリガリ・・・・・・と巨大なナタを引きずりながら・・・徐々に・・・こっちに向かってくる。
手も足も恐怖で震えている状態でさらに腰も抜けて立つことすら出来ない・・・そんな状況でも俺にはまだ魔法がある。
俺は震える手で「ドロー」と唱え、引き抜く動作をする。
いつもなら手元にカードが出てくるはずなのに・・・何度も何度も何度も何度も・・・何度も繰り返しても、カードが手元に出現することはなかった。俺はその現実を受け入れたくないのか発狂気味に叫んだ。
「なんで、なんで出ないんだ!ちゃんといつも通りの動作をしている・・・なのになぜだ!!・・・なんでだよ・・・頼むよ・・・」
このときの俺はドローを発動するために必要な条件の一つである【イメージすること】が完全に欠けていた。
そんなことにすら気づかないほどに俺はオークキングに怯え、恐怖していたのだろう・・・。
完全に戦意を失くした俺を見て、エリンはいままでに見たことが無いほどの殺意に満ちた表情で聖弓ユグドラシルの弓弦がギギギギギッ!!と悲鳴を上げているような音が聞こえる限界まで引いている。
「わたしの・・・わたしのアスティナに近寄るなぁぁぁ!!」
エリンの叫びが樹海に響くと同時に矢が放たれた・・・ゴオォォォッ!!と爆音とともに放たれた矢は一直線でオークキングの胴体に向かって飛んでいく。
これで・・・これでこの恐怖からやっと解放されると安心していた・・・しかし、聞こえてきた音は期待していたグサッ!!という矢が刺さる音ではなくキーンッ!!という金属音だった。
エリンが全力で放った矢・・・聖弓ユグドラシルの能力の1つである威力増加を使って、放たれた矢はオークキングのナタによって防がれていた。
「ごめん・・・アスティナ・・・」
全身全霊で矢を放ったエリンはその言葉を最後に魔力を使い切ったのか、木にもたれたまま動かなくなった。
先ほどまでオークキングに攻撃していたセルーンは攻撃を中断すると、すぐに倒れているエリンの元に駆け寄って意識確認をしてくれた。
「セルーンお姉ちゃん、エリンは・・・エリンは生きているよな!!」
「えぇ、大丈夫よ。寝ているだけだわ・・・限界まで魔力を使うとね、身体にも負担がかかるの・・・」
俺はエリンが生きていることに安堵して、いまの状況が非常にマズイことを忘れていた・・・ガリガリ、ガリガリという音が目の前にまで迫っていることに気づくのが遅れてしまった。
「アスティナちゃん!!」
とセルーンの声が聞こえた瞬間、ドンッ!と俺は彼女に蹴られたのか後ろに吹っ飛んだ。受け身も取れずにゴロゴロと転がった。俺は体の痛み耐えつつ、何が起こったのか確認するために吹っ飛ばされた方角を見た。
そこには自分の血で赤く染まったセルーンがうつ伏せで倒れていた。
「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら
是非ともブックマーク、評価よろしくお願いいたします。




