第66話 俺、異世界で水筒にハーブティーを入れてもらう
それから俺とエリンは入店しては冒険に必要であろう日常品やアイテムなどを購入し、ストレージに収容するという流れを各店でセルーンが帰って来る予定の1時間前までそれを繰り返した。
色んな店で買い物をしたがほとんどの客は基本的にはギルドカードで決算していて、硬貨をほぼ見ることがなかった。最初に商品を購入した店がアッシュのところだったこともあって、ギルドカードでの決算になかなか慣れなかった・・・。
こちらの世界でも元の世界でもこれほどの爆買いはしたことがなかったが・・・存外悪いものでもなかった。
ただ・・・あとでストレージを見た時に・・・これ要るか?というモノが結構あったことに気づくのはまた後日の話・・・。
買い物を十分に楽しんだのかエリンはずっと嬉しそうに俺の横を歩いている。
「それじゃ買い物をすませたことだし、晩飯を食べに帰ろうぜ!」
「そうね、まだちょっと晩御飯としては早めだけど、このあとセルーンに会いに行かないといけないものね」
「まぁそういうことだ」
俺はエリンの言葉を聞いて、はじめはなにも感じてはいなかったが・・・よくよく考えてみると彼女は「セルーンに会いに行かないといけないものね」と言っていた・・・なぜかその言葉に彼女自身も含まれているように思え・・・ついボソっと口に出してしまった。
「・・・まさかとは思うがこれもついてくる気か・・・いや、分かっていたはずだろ・・・俺」
「アスティナ、何か言った?」
「いいやー、それよりもさっさと宿屋に帰ろうぜ。結構買い物でカロリーを消費したのか腹減ったわ」
俺がエリンに追及されないようにすぐに話を切ると宿屋を目指して歩き始めた。あとで動くことも考えて腹八分目で抑えておかないとな・・・毎回うますぎてつい食べ過ぎてしまうからな。
宿屋に到着するといつもの明るい声で「おかえり!」と聞こえてきた。俺は彼女に「リリアーヌ、ただいまー!」と返すとそのまま席に着き晩御飯を注文した。メニューは昼食と同じようにウルフ肉のステーキではあるのだが昼飯はレモンステーキで今回はハーブを使用した香草ステーキというのを選んだ。
それと今回購入した水筒をリリアーヌに手渡しながら俺は「これにハーブティーを入れてくれないか、いつでも飲めるようにしたくてさ!」と言うとリリアーヌは前に同じことを頼まれたことがあるらしく「うん、アスティナちゃんが買ってくれたハーブで淹れてきてあげる!」と快諾してくれた。
言うまでもなく晩御飯も絶品であり、レモンも香草もどちらも甲乙つけがたいほどのクオリティだったが好みで言えば俺は昼に食べたレモンステーキの方が好きかもしれない、エリンは逆で香草ステーキの方が好きだと言っていた。
まだもう少し食べられそうだなと思いメニュー表を見ていると・・・その様子を見たエリンから「そんなに頼んで本当に大丈夫なの?」と聞かれた。腹八分目にしておこうと思っていたはずなのに危うくまた昨日と同じように一歩も動けない状態になるところだった・・・。
メニュー表を閉じて、最後の一切れを食べ終わると少し物足りなさを感じながらも「ごちそうさまでした・・・」と手を合わせ食事を終えた。
リリアーヌに代金を支払うと先ほど頼んでいたハーブティー入りの水筒をキッチンから持って来てくれた。ハーブティー代を支払おうと値段を聞くとリリアーヌは首を横に振り次に「アスティナちゃん、お持ち帰りの場合は最初は無料なの。次からはもらうけどね」と親指と人差し指で輪っかを作りながら言ってきた。
世界が違っても初回無料はあるんだなと思いながら、彼女から水筒を受け取った。ふとここの宿屋は全て現金でやり取りしているなと思い、外に出る前にリリアーヌに聞いてみた。
「なぁリリアーヌ、色んな店を見て回って気づいたんだけど、どこもかしこもギルドカードで決算してたけど、ここは毎回現金だよな?」
「アスティナちゃん、それはここが宿屋だからだよ。えーとね、この町には冒険者になるために来る人が多いんだよ、だから現金にしてるの」
「あー、そういうことか。まだどのギルドにも登録していないってことは・・・ギルドカードすら持っていないってことだもんな」
俺の答えを聞いたリリアーヌは満足そうに笑うと最後に一言俺にだけ聞こえるように小さい声で「あとね、お父さんもお母さんも硬貨じゃないとダメなんだ」と話してくれた。そのときアッシュもリリアーヌの両親と同じ現金主義なのかも・・・と思った。
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