第30話 俺、異世界で部屋の様子を確認する
「師匠・・・なんですか・・・あれは?」
「僕に聞くなよ。いまは君の方が彼女について詳しいだろ・・・」
「あれって・・・やっぱ偽者と分かっててずっと見てるんですかね?」
「そうだと思うよ・・・。ただあれほど騙されている人を見るのは初めてだね。あの魔法使えないことで有名なんだよ」
「デコイが使えない魔法・・・嘘ですよね・・・・・・師匠?」
金貨20枚で買った魔法が使えない部類にはいっていることを知り、絶望している俺を見て師匠はデコイとついでにハイドのそれぞれのメリットとデメリットを教えてくれた。
まずはデコイのメリットは自身の分身をその場に作り出し、他人を騙すことができる。デメリットは顔に生気が一切なく、またまばたきもしないので正面や近くだと即バレすることと、簡単なことしかできないので顔が見えていなくてもデコイの効果を知っている人からすれば、遠くからでもすぐに分かるとのことだった。
それと分身を維持するために常時MPを消費しなければいけないのが使えない魔法としての地位をさらに上げているらしい。
次にハイドのメリットは自身に魔力のまとわせることにより、他人から視認されなくなる。デメリットとしてはまず移動制限により徒歩でしか移動ができないこと、視認されないだけで足音や声などが無音になるわけではないこと。
それと師匠やエリンのように魔力の流れが見える人や気配察知能力が高い人には普通に視えているとのことだ。
「まぁ簡単に説明をすることこんな感じだね」
「デコイを発動したとき後ろからしか見てなかったんで知らなかったのですが・・・、顔ってそうなってるんですか・・・。それにハイド・・・足音とか消えないのか・・・それに声も・・・あっ、だからあいつあのときこっちを見たのか?だけど・・・使い方によっては・・・・・・やっぱり使えないことはなさそうだな」
「僕の知り合いにはアサシンとかいないからね。そういう人がいれば効果的な使い方を教えてくれるかもしれないよ」
「・・・・・・アサシン・・・ですか」
アサシンという言葉を聞いた俺はある人を思い浮かべた。その人は俺の蹴りを軽々と受け止めたり、急に視界から消えたと思えば俺の真横にいたりなど戦闘能力もだがそれ以上に一瞬で移動したり消えたりする能力がアサシンらしいと思えた。
それに一瞬で移動したり消えたりする能力がなぜかハイドに通ずるようにも思えたからだった。ただ・・・いまはそのことよりもまずはエリンをどうするかを考えるべきか。
「師匠ありがとうございました。それでエリンどうしましょう?」
「・・・そうだね。とりあえずドアを半開きにしてデコイを消してみようか!」
「・・・・・・!?あっ、はい・・・師匠!・・・・・・あの・・・師匠・・・デコイってどうやって消すんですか?」
「君、知らないでこれ使ったのかい・・・。魔力をモノに通すイメージはわかるよね?今度はそれを止めるイメージをすれば消えるよ」
「ブーツと同じような感覚でいけばいいってことか」
師匠の考えを理解した俺はゆっくりとドアノブを回し、部屋が覗けるようにドアを少し開けながら”デコイ”に通っている魔力を遮断した。
「師匠もなかなか面白いことを考えますよね」
「いやいや、すぐに僕の考えを理解した君も人のこといえないよ?」
「俺ひとりだったら、こんなこと思いつきもしなかったです」
「僕も同じさ」
意気投合したところで俺たちは部屋の様子を見ることに専念した。エリンは先ほどまで分身が座っていたベッドを眺め続けていて、消えたことにまだ気づいていないようだ。それから10秒ほど経過したところで、急に彼女の体がビクッっと震えたと思えばキョロキョロと周りを見始めた。
その後、ベッド周辺を探し始めた。掛け布団をめくると次はベッドの下を確認し、最後にはマクラまで持ち上げたりしていた。それが終わると彼女は次にタンスの中を調べ始めるのであった。彼女には魔力の流れが視えているはずなのにまだ分身を探している。
「・・・・・・師匠、ふと思ったんですが・・・このあと俺怒られません?」
「・・・・・・怒られるだろうね・・・大丈夫・・・そのときは僕も一緒だから」
「あっ・・・はい」
「ただ・・・いまは楽しもう!」
「そうですね、師匠!」
様子を覗かれていることに彼女が気づき、2人揃って正座させられるまでの間、俺たちは笑いをこらえながら見続けるのであった。
「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら
是非ともブックマーク、評価よろしくお願いいたします。




