第28話 俺、異世界で殺気を感じる
俺は彼女の殺気を振りほどくかのように彼女の顔めがけて回し蹴りを放った。それを彼女はかわすことすらせずに片手で軽々と受け止めた。アスティナの体格ではそれほど強い蹴りができないのはわかってはいたがそれでもブーツの能力を加算すれば、大人1人ぐらいは軽々蹴り飛ばすぐらいの威力はあると思っていた・・・。
「威力も速さもあるし、それに的確に顔を狙ってくるあたり・・・実にいい蹴りだよ♪」
「それはどうも・・・。ただそれを片手で防ぎながらいわれても嬉しくねぇよ」
「う~ん、でもこれじゃないな~。この程度であんなことできるはずないもの・・・ねぇ!アスティナ・・・あれはどうやったの・・・?」
「・・・・・・・あー、もう!今度はなんの話だよ?」
手合わせ中だというのに彼女は俺との戦闘よりもどうやら俺との会話の方を重要視しているようだった。そのくせ最初に感じたあの殺気はまだ続いていて、どうやればあんな殺気を出しながら平然と会話ができるのか不思議で仕方がなかった。そんな状況のなかで俺はまた背筋が凍り付くことになる。
「ねぇ、アスティナ。どうやってあのオークの集落を全滅させたの?」
「・・・・・・・・なんのことだ・・・・・、冒険者が倒してくれたんじゃないのか?」
「冒険者が救出に向かったときにはもうオークはいなかったのよ」
「じゃー、他に誰かが先に倒してくれたんじゃないか・・・・・・?」
「アスティナ・・・あなた自分でやったっていま証言してるけど・・・気づいてる?オークが集落を放棄したという情報しか冒険者には流していないのよ。逃げたのではなく倒したといった時点でもう自分が倒したといってるのよ?」
俺はそのことを聞いたとき誘導尋問されていたことに気づいた。その様子を見て彼女はオークをどう倒したかを見せて欲しいといってきた。
見せたくないならそれでもいいが、もし見せてくれたら冒険者ギルドとしてそれ相応の報酬を用意してくれるとのことだった。
「ただ見せるだけで報酬がもらえるってのはどうも怪しいな・・・、理由を聞かせてもらえるか?」
「理由は簡単ね、わたしが見てみたいのがまず一つ!次にうちのギルマスがあなたのことを気に入っちゃったから!」
「マジか・・・たったそれだけの理由って、はは!あはははは!!俺がいうのもあれだがあんたたちも大概だな。気に入ったよ、いまから見せてやるよ!それにセルーンおねぇさんの頼みだしな!!」
「やっぱりバレてたか~!あー、それと人がいないのはうちのギルドの恒例行事みたいなものだから」
彼女は仮面を外すと靴屋で会ったときのように笑顔で俺に話しかけてくれた。それと同時に先ほどまで感じていた殺気が消えていた。
冒険者ギルドでは将来有望な人材をこんなやり方で勧誘するのが昔からのスタイルであると彼女から説明されたのだが俺にはそれが冗談か本気か全く分からなかった。
彼女に見せる能力は血狂いの乙女ではなくアスティナを守護する者にすることにした。血狂いの乙女は俺の意思に関係なく敵意がある相手と認識すると殺戮が開始してしまうため迂闊には使えない。
通りに人がいないのは、ただみんな冒険者ギルドのお達しで部屋に閉じこもってるだけだというのは先ほどセルーンからの説明でわかっている。それにあれ使うと俺自身もいろいろと大変なのでアスティナを守護する者が一番無難だと思った。
「セルーンおねぇさん準備はいいか?いまから呼ぶからな~」
「いいよー!アスティナちゃん、なにか召喚するの?」
「まぁそういうこと、来い!アスティナを守護する者!!」
1週間ぶりに俺はこの能力を使った。すると前回と同じように頭のない黒い鎧を着た騎士が召喚された。呼び出した途端、彼だか彼女は俺にピッタリと引っ付き離れようとしなかった。昔子供の頃に飼っていた犬を思い出してしまった。
「これがオークの集落を全滅できた理由。見た目以上に素早いんだぜ、俺の守護者は!」
「ああ・・・、これならオーク程度軽々全滅させれるだろうね。わたし全力で挑んでも勝てる気がしないもの」
「こいつそんなにスゴイのか?見た目は確かに怖いけど、なかなかいいやつなんだぜ?なぁ守護者」
そういいながら、守護者の鎧をコンコンとノックすると樹海のときのように嬉しそう飛び跳ねた。セルーンはその様子を見てもいまだに警戒をしているようだった。
彼女をそれほどまでに警戒させるアスティナを守護する者をペットのように扱っている俺はもうちょい守護者に敬意を示すべきなのかと思ってしまった。
「これでもういいかー?あんまり出しっぱなしにはしたくないんだけど」
「それもそうね。このまま召喚した状態だと町もパニックになるかもしれないわ・・・」
「それほどなのか・・・?うーん、ごめんな俺の守護者・・・。町に迷惑をかけるわけにはいかないから・・・さ。また、すぐに呼び出してやるから・・・な?」
俺がそういうと守護者は渋々ながら、前回と同じように魔法陣と共に消えていった。残り時間はまだ10分以上あったのだがこれでまた24時間経つまで召喚できないのだと思うと少し勿体ないことをしたと思ってしまった。
「じゃー、わたしはギルマスに報告しに行ってくるわ。あー、それとこの紹介状あげる♪」
「セルーンさんこれはなに?」
「これを持って、明日にでも冒険者ギルドに行けば分かるよ!それとわたしのことはさん付けじゃなくて、お姉ちゃんって呼んでほしいなぁ」
「・・・あー、わかったよ。セルーンお姉ちゃん・・・・。これでいいか?」
「ありがと。そんな素直なとこも好きよ♪」
セルーンはそういうと次の瞬間、目の前から消えていた。俺はセルーンから貰った紹介状をストレージにしまうとすぐにまた宿屋に向かって走り出すのであった。
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