第218話 俺、異世界でエイサンに弁当を作ってもらう
「もう朝よ、そろそろ起きなさい。今日は朝からカスミの相手をするんでしょ?」
エリンの声が聞こえる・・・・・・起きないといけないのは分かっているが体が動かない・・・それに目の前も真っ暗で何も見えないのにそのことで一切不安に感じることもなく、それどころか一生この状態が続けばいいとさえ思えてしまう・・・この状態。
俺はこれを知っている、というか一日おきにこの状態に毎回なっている・・・なのにまだ馴染めていない。
この至福の時間を作り出している元凶とエリンに俺が目を覚ましたことを知らせるために朝の挨拶をしようとするが・・・例のまくらを顔に押し付けられているため、声を出そうとしてもそのまくらに遮られ、もごもごするだけでちゃんと発声することできない。
これ何回目だよ・・・いい加減学習しろよ・・・俺。
いつも通り抱き枕よろしくと言わんばかりに抱き着かれているため、腕も満足に動かすことが出来ないが手首よりも先は動かすことが出来る。
俺は手をバタバタ動かし、システィに起きたことを伝える。
するとすぐにギュッと抱き着かれて身動きひとつ出来なかった状態から解放されたと同時に「アスティ、よく眠れましたか?」と優しい姉の声が聞こえた。
解放されたからといってまだ俺はまくらに顔を埋めている状態だったこともあり、返事をする前にまずは体をそらしてシスティの顔がハッキリ認識できる距離になるまで離れた後、彼女に向かって「おはよう、システィ」と挨拶をする。
着替えを済ませ装備の確認をしているエリンに寝転がったままの姿勢で首だけ動かして「おはよう、エリン」と挨拶を済ませる。
エリンからは「おはよう、甘えんぼのアスティナちゃん」と軽くいじられたけどな。
その後エリンとシスティのいつものやり取りがありつつ、外出準備を整え終える。
みんなで朝食を食べに行くため早速食堂に向かおうとドアに手を伸ばした時だった。
システィから突然声をかけられる。
「お嬢様、少しの間エリンをお貸しいただいてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、別に構わないけど。それじゃエリン、俺はカスミさんが起きているか見に行ってくるよ」
俺はそう言い残して部屋を出た。
カスミの部屋まで来た俺は早速ドアをノックしてみるがこれといった反応がなく、どうやらもう先に昨日の場所に出発しているようだ。
一応念のために本当にカスミが部屋を出たのかエイサンに確認を取っておくか。
俺は階段を降りて食堂に向かい、朝食の準備をしているエイサンに挨拶がてら聞いてみた。
「エイサン、おはよう!あのさ、ちょっと聞いていいか~、カスミさんってもう出て行った?」
「あー、おはようさん。あの人なら、今から10分前ぐらい前にいつもの場所に修行しに行ったぜ」
「そっか、分かった」
「それで朝食はいつものメニューでいいかい?」
「今日は・・・やめておくよ。食べたいのはやまやまだけど、カスミさんを待たせるわけにもいかないしなぁ」
「あー、昨日一緒に帰って来たのはそういう事か。まだ多少は時間あるんだろ?朝食として弁当作ってやるから待ってな!」
エイサンは俺の返答を聞くこともなく俺たちの分とカスミの分を合わせた4人分の弁当を作り始める。
俺は一心不乱に弁当を作り始めるエイサンの後ろ姿に対して頭を下げ「ありがとうな、エイサン」と彼に感謝の言葉をかける。
エイサンは振り向くこともなく「自分がしたいからやってるだけさ、感謝される言われはねぇよ」と口に出していたが、俺はエイサンが感謝され喜んでいるのを見逃さなかった・・・彼の耳がピコピコと前後に揺れていたから。
前に彼を鑑定したことがある。
宿屋の主人~エイサン~、筋肉ムキムキに鋭い目つきのおやっさん。
確かに筋骨隆々で目つきも鋭い、それはもう元S級冒険者であるリリアーヌのお父さんのゲオリオさんと張り合えるレベル。
この世界での宿屋の主人はみんながみんなこういう人ばかりなのか。
そんなエイサンだが、彼はゲオリオさんと違い純白の毛に覆われた尻尾と兎耳が付いている。
ここで数週間生活した結果、その相反する容姿が何とも愛らしく感じるようになっていた・・・いや、元から好きな方だったか・・・。
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