第215話 俺、異世界でシスティと夢の中で交流するその4
あれからどれほど時間が経過しただろう・・・夢の中だというのに日が落ち、あたりはすっかり暗くなっていた。
システィとの二人三脚での練習により、完璧とまではまだいかないにしろ部位ごとの強化に全身強化、それと魔力を纏わせた状態を解除する方法も最初にやった対象を殴って強制解除するのではなく、魔力を体内で巡回することによって少しずつ分散させるというやり方も覚えた。
この新しく覚えたやつが正しい方法のようで、攻撃して解除する方法は攻撃手段として使用することもあるが・・・間違った解除方法だそうだ。
俺が魔力を右手に纏って、魔力が安定していると考えていたものはコップに液体をギリギリまで注ぎ込んだ状態のもの、それはつまり表面張力で零れずに安定しているように見えていただけ・・・この状態で1ミリも体を動かさないのであれば、確かに安定はしているといえるかもしれない。
実際のところはかなり不安定で危ない状態だったということなんだけど・・・。
魔力を流すときの河川のイメージと魔力を纏うときのコップのイメージ、これらを別々にした方がすんなりと頭に入った。
高威力な一撃という意味ではこの使用用途も悪くないだろう・・・他の強化を全て捨て、この一撃にかけるという意味ではその選択肢も存外悪くない。
ただこれが間違った使い方だというのにはもちろん理由がある。
それは自分にもこの一撃の反動が返って来るからだ・・・システィに攻撃したときはここが夢の中だからか、拳を痛めた感じはしなかった。
コップから液体が零れるだけならば、濡れた個所を拭き取ればいいだけ・・・しかし、自分の許容量を超える魔力が溢れるということはそんな簡単な話ではないらしい・・・体がそれに耐え切れず内部から破壊される。
皮膚や血管、筋肉などが断裂したり損傷する程度で済むのならまだ良いのだが、場合によっては部位を切断しなければならないほどの重症・・・最悪の場合それが原因で死に至ることもあるらしい。
この話を聞いたとき、いま眠っている俺の体は本当に大丈夫なのかとかなり心配した、それはドレスを着ていないから・・・寝間着で寝ているためドレスのよる回復の恩恵を得ることが一切できない。
前にオークの矢が腹に刺さり貫通したことがあった・・・それで死にかけたことがあったがその傷でさえあのドレスは傷一つ残さず完璧に治癒した。
だから・・・あのドレスを着てさえいれば、このことでそれほど気にする必要もないのだが・・・だからといって常にあのドレスを四六時中着ているのもなにか違う気がする。
アスティナの体は安全なのかシスティに尋ねると、ごく普通に「問題ありません、だってこれは夢ですから」と淡々と返答された。
俺は「だよな、夢だもんな」とただシスティが言ったことを繰り返す。
結果的には夢だからという魔法の言葉を信じるほかないという実に曖昧なものではあったが、システィが言うからには本当に大丈夫なんだろうなと楽観的に受け入れるほかなかった。
ブラッシェント流格闘術の基礎を学んだ俺はシスティにこの次の練習は何をするのか質問する。
「とりあえず魔力を纏って動き回れるようにはなったけど、次はどんな練習をするんだ?」
「次も何もこれで終わりですよ」
「・・・・・・終わり?魔力を纏っただけで?俺はまだ護身術・・・えっとブラッシェント流格闘術だっけか?それまだ教えてもらってないんだけど・・・」
「そう言われましても、ブラッシェント流格闘術は魔力を纏った状態で戦う方法というだけで型のようなものは存在しないです・・・たぶん」
システィは少し困惑した様子でそう切り替えしてきた。
俺はシスティからそんな言葉が出て来るとは微塵も思っていなかったこともあり、つい無意識に聞き返してしまった。
「たぶん?」
「あまり言いたくはないんだけど・・・私め、ブラッシェント流格闘術は最初しかやってなくて・・・ね、だから・・・」
「・・・・・・つまりあれかな、魔力を体に纏う訓練しかやったことがないと?」
問い詰められたシスティは俺から目を背け気まずそうに答える。
「そぉ・・・なるわね」
「そっか、そうなるのかぁ・・・・・・あれ?ってことはシスティの剣術は我流なのか??」
「アスティを護衛するために一応はブラッシェント流近衛剣術を学びましたが、これもついでと言いますか・・・何と言いますか・・・フルンティングと相性が悪いのよね・・・あの剣術」
システィが言うにはブラッシェント流近衛剣術はレイピアやエストックなど細身の剣身の片手剣を用いて刺突を主とする剣術らしく、システィが使うような大剣ではブラッシェント流近衛剣術もフルンティングも本領発揮できず、相性最悪だということだ。
ちょっとだけブラッシェント流近衛剣術というものに興味が出た俺は実にしょうもない質問をシスティにした。
「ってことは、突きが主体の剣ならシスティもその近衛剣術・・・できるのか?」
「えぇ・・・覚えないとアスティの傍にいられなかったのでやろうと思えばできるわ。でも、私めは刺すよりも斬る方が好きなのよね、真っ二つにしないと倒した気がしないもの」
「そう・・・いうものですか・・・」
「そういうものよ」
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