第198話 俺、異世界で依頼主カスミに出会う
シーレイから教えてもらった場所は首都オオエイドから南東に少し下った森というほどには生い茂ってはいないが他人の視界から逃れるのには丁度良い隠れ場のような場所だった。
とはいっても逆にそこだけ木々が生えているため首都オオエイドに向かう人たちからすれば、余計に怪しく見えたりする・・・俺もそのひとりだし。
その隠れ場は中心に小さな湖があり、それを隠すように木々が周囲を囲っている感じだった。
シーレイの助言どおり、確かにそこに今回の依頼主は居た。
エリンやシスティよりも背が高く・・・ぱっと見でも170センチぐらいはありそうだ、それに線の細い華奢な体型が合わさることによって、それ以上ありそうにも見える。
後ろを向いているため顔を見ることはできないが、肩が多少隠れるぐらいまで伸びた青みがかった綺麗な黒髪を青いリボンで一つにまとめている。
獣人族は身体の一部が動物を模した見た目をしていることが多い、その中でも高確率で身体に現れる箇所は耳と尻尾。
今回の依頼主も同様で髪と同じ色の犬耳とふわふわモコモコな尻尾が生えている。
あの尻尾・・・めっちゃ撫でたい・・・触りたい・・・モフモフしたい・・・。
服装はグレーの着物に足袋、草履とウイリアムとよく似ている。
まぁこの大陸で刀を腰に携えている冒険者は大体みんなこのスタイルなんだけどな。
素振りといっていいのか分からないが・・・流派の構えだろうか、背筋をピンと伸ばした状態で一気に振り下ろし、手首を返して次は振り上げる一連の動作をしていた。
シュッ!シュッ!・・・シュッ!シュッ!・・・シュッ!シュッ!・・・・・・カチン。
三回ほどその動作が続いたときだった・・・ゆっくりと刀を鞘に戻すと俺らの方を振り返り「某に何か?」と声をかけてきた。
振り返ったことにより依頼主の顔を見ることができた。
瞳は淡い青色の瞳・・・青色と緑色を合わせて薄めたような何とも言えない綺麗な瞳。
色白で中性的な顔立ちの・・・どっちだろう・・・はじめて会ったときのセンチネルと同じぐらい性別が分からない。
ただ一つ言えることは・・・男性だったら美少年、女性だったら美少女・・・どちらを選んだとしても確実にそうなるほどの綺麗な顔立ちだった。
「あー、ここにカスミさんがいるって聞いたんだけど・・・」
「カスミは某ですが・・・もしかして、某の依頼を受けてくれた方ですか!!」
「ってことは、あんたがカスミさんか。俺の名前はアスティナで彼女の名前はエリン。カスミさんの考えどおり、あんたの依頼を受けてここに来たんだ!よろしくな!」
「さっきアスティナが紹介したけど、もう一度言うわね。わたしはエリン、職業は見てのとおりアーチャーよ。よろしくねカスミ!」
「お二方、某の依頼を受けて下さり誠に・・・誠に感謝する・・・あと少しで三か月目に突入するところだった・・・さすがに某もそろそろ諦めて依頼を破棄するべきか悩んでいたんだ・・・・・・おっと、失礼・・・某の名はカスミです。この度は某の依頼を受けてくださり、ありがとうございます!!」
依頼を受けてくれたことが余程嬉しかったようでカスミさんは何度も何度も頭を下げて感謝してくれた・・・途中から俺たちも頭を下げて、どちらが先におじぎをやめるかという不毛なチキンレースがはじまった。
・・・・・・先に声を上げたのは俺だった・・・・・・。
「カスミさん・・・そろそろこのお辞儀のやり合いやめません・・・貴重な時間を無駄にしてる」
「・・・はっ!?某としたことが・・・では早速お願いしてもよろしいだろうか」
「えっと、その前に確認なんだけど依頼内容はカスミさんの訓練に付き合えばいいんだよな?」
「それで間違いないです。エリン殿は弓使いとのことなので・・・そういえば、アスティナ殿の職業を聞いておりませんでした。ただその足さばきを見る限り・・・アスティナ殿は近距離戦に多少の心得があるのでは?」
「あー、二週間ほどかじった程度だけど・・・ある人から直々に実践訓練は受けたよ。あと言い忘れていたけど、俺の職業はカードコレクターだ」
「かーどこれくたー・・・はて・・・聞いたことがありません。ですが、その身のこなし・・・やはり某の職業サムライと何か近しいものを感じますね!!」
カスミからの返答に対して俺の頭の中ではその言葉の意味が理解できずにひたすらにハテナマークが大量飛び交う。
絶賛???状態ではあるがカスミを鑑定することができるか試してみた・・・結果としては残念ながら鑑定することはできなかった。
「訓練開始する前に聞いていいか・・・三日間ってのは依頼書に書かれていたから分かるんだけど、一日どれぐらいやる予定なんだ?」
「それはもちろん某が疲れて動けなくなるまでですが」
「・・・・・・うん?ごめん・・・俺の聞き間違いかな・・・なんか動けなくなるまでやり続けるって聞こえたんだけど?」
「アスティナどのぉ・・・ちゃんと聞こえているじゃないですかぁ。それでは時間も惜しいのではじめてもよろしいでしょうか」
その刹那・・・カスミの雰囲気が一変する・・・この感じは・・・あれだセルーンが仮面をかぶったときのやつに似ている・・・なるほど、この依頼主も同じ人種ってことかぁ・・・そっかー。
はいはいって何でもかんでも安請け合いをするんじゃなかったと・・・俺はいますごく・・・ものすごく後悔している。
それに鑑定の結果・・・カスミが腰に携えているあの刀の正式名称なんだけど・・・【妖刀ムラマサ】って書かれてるんだよなぁ・・・。
妖刀ムラマサ・・・刀身に特殊な加工がなされていて、どれほど切ったとしても刃こぼれすることがなく、また液体も一滴すら付着しない。
あっ・・・バトルブーツを履いてたら・・・そら、近接戦が主体って思うか・・・それに俺、魔法が使えるって一言も言わなかったし・・・。
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