第181話 俺、異世界で師匠の魔法を初めて見る
リスタとガーランが守衛をしている南門を通り抜ける。
通り抜ける際に彼らにも世界を見て回るため、当面の間ミストから離れることを告げる。
リスタは「土産話を楽しみにしているよ♪」と何も心配していない様子で俺たちのことを見送ってくれた。
ガーランはというと・・・こちらもいつも通りの感じで無言でただ頷くだけだった。
ルンルン気分で先頭を歩く師匠にそのままついて行く。
南門から出発したので、俺はてっきり樹海ミストでデスサイズの練習をするものだと思っていたが、師匠は樹海の入り口をガン無視して道沿いを直進する。
このままずっと南を目指して歩いていけば、貿易港町オセロンに着くなぁ・・・そういや港町ってことだし、新鮮な魚を使った料理とかあるんじゃないか・・・刺身とかあるといいんだけど、さすがに生魚を食べる文化はないか・・・。
デスサイズよりもオセロンの料理に感心が移り替わろうとしていたとき、先頭の師匠は急に90度向きを変えて西に移動し始めた。
俺とエリンは急に方向転換する師匠の行動が分からずに顔を見合わせ、鏡写しのように首を傾げる。
迷いなく歩き続ける師匠に俺は声をかけた。
「あのぅ・・・師匠、樹海に行くのならいつもの入り口からでも良かったんじゃないかと思うのですが?」
「あー、そう言えば君をここに連れてきたことなかったね。君は初めてだけどエリンは何度か連れてきているから・・・その顔・・・エリンもしかして忘れているのかい?」
俺にこの先案内する場所について説明しようと振り返った師匠は・・・真剣な眼差しで必死に思い出そうとしているエリンを見て非常に残念そうにため息を吐く。
正面を向いた師匠はさらに歩みを進めドンドン樹海に近づいていく、彼女に遅れないように俺たちも歩みを進める。
そのまま樹海を真横から突っ切るようにさらに進んで行くこと・・・10分。
先頭を行く師匠の歩く速度が徐々にゆっくりとなって・・・最後には歩みを止める。
俺たちも同じようにその場で止まると次に師匠が出すであろう指示を待つ。
師匠はその場で反転して「それじゃ解除するよ」と俺とエリンに告げる。
勢いよく反転したことによりワンピースの裾がフワッと広がる・・・何がとは言わないがあとちょっと重力に歯向かってさえくれれば、幸福なものが見えたかもしれない。
何歳になってもついそういうチャンスがあると見ようとしてしまうのは・・・男の悲しい性ってやつか。
そんなしょうもない理由で俯いてることなど微塵も知らない師匠は「歩き疲れたかい?あと少しで着くから頑張ってくれ、弟子君」と励ましてくれていた。
また反転し正面を向いた師匠は杖を前方に振りかざし詠唱を始めた。
あの女神から貰った異世界言語能力でさえ完全に聞き取ることができない・・・。
ガバガバ翻訳のため・・・何を言っているのかいまいち理解できないが、隠れるとか隠すとかそのあたりのことを言っているような気がする。
魔法書に書かれている文字が読めないのと同じパターンかもしれない、生活する上で困らない読み書きはできるがそれ以外は無理ってことか。
魔法を発動するのに詠唱が必要とか前にセンチネルが言っていたけど、それがこれか。
俺はカードをコストとすることで無詠唱で魔法が発動できるんだっけか・・・無詠唱に慣れてしまっていて、実際にこの目で見るまで気にしてなかったな。
とりあえず今言えることはただ一つ・・・詠唱している師匠マジでカッコイイ。
詠唱を終え発動条件を満たした師匠は一呼吸をおいてから魔法を発動する。
「コンシールメント!!」
その声と共に先ほどまで目の前は森が生い茂るいつもの樹海だった場所にコテージが出現する。
コテージを中心にして20メートル四方は樹海だというのに肝心の樹が一本もなく、障害物もない空間が広がっていた。
師匠は目の前に現れた謎の空間に足を踏み入れる。
その姿を見た俺とエリンは多少ビビりながらも師匠のあとを追う。
俺とエリンが入ったことを確認した師匠は今度は詠唱せずに「コンシールメント」と唱える。
周囲を見渡しても眼前には樹海が広がっているし、特にこれといった変化があったようには見えない。
そんな弟子の様子を見かねた師匠は「あの辺りを見てみるといいさ」と木漏れ日が当たっている箇所を指差す。
師匠の指差す方向に目をやると・・・遮るものが無いはずなのに木漏れ日が不自然に屈折していた。
近づきさらに良く見てみると・・・透明な板、アクリル板のようなものが樹海とこの空間を遮るように設置されていた。
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