第180話 俺、異世界でミストの皆に旅立つことを伝えるその2
それからレイラン、ガラクさん、ヤマブキさんのところに行って挨拶をすませた俺たちは次に冒険者ギルドに向かった。
受付窓口にいるヒマリさんに一声かけたとこでセンチネルの部屋・・・ギルドマスターの部屋に進みノックをする。
部屋に入ると大量の書類に目を通しているセンチネルとサボっていないか監視しながらもソファーに座って自分の仕事をしているセレーンの姿が見えた。
セレーンさんは俺たちにお茶を出そうとしてくれたがそれは丁重に断ることにした、あの人が淹れてくれたお茶も美味いんだよな・・・あれ飲んだら、絶対またソファーに座って入り浸ってしまう。
センチネルがちゃんと仕事をしていることに驚きつつも俺は【オークエンペラー】の報酬で世界旅行に行くことになったとふたりに告げるとそそくさと立ち去る。
そして最後に我らの家・・・ゲオリオさん一家が営む宿屋にたどり着くとすぐにリリアーヌが「おかえり」と出迎えてくれた。
キッチンでまだ昼前だというのに晩御飯の下ごしらえを開始しているゲオリオさんとカテリーヌさんに世界旅行に行くことを伝えるため彼らに近づく。
カウンター席越しに少しの間ミストから離れることを告げる。
世界旅行から帰ってきたときもここに泊まりたいから、そのまま部屋を借りた状態にしておいて欲しいとお願いするとカテリーヌさんは快諾してくれた。
俺がカテリーヌさんに二つ返事で快諾してくれた理由を尋ねると、彼女はセンチネルから数か月分を前金として受け取っていると答えてくれた。
ついさっきまで会っていたのにそんなこと一言も言わなかったな、あの野郎・・・覚えてろよ、目玉が飛び出るほど驚愕するようなお土産を持って帰ってきてやるからな。
俺たちが当分の間帰ってこないことに寂しそうにしながらもリリアーヌはいつもの元気な看板娘として最後は見送ってくれた。
リリアーヌにはまた追加でお菓子を大量に渡しておいた。
タンスの中に仕舞っている寝間着など着替えはそのまま部屋に置いていくことにした。
着替えはエリンとの買い物で大量に仕入れているため、部屋のものをわざわざ持って行く必要がない。
あとは自分たちが帰る場所はここだと心に刻み込むためだ、帰る場所・・・戻れる場所があるとそれだけで頑張れる。
挨拶回りを終えた俺たちはその足で師匠が待つ本屋に向かう。
本屋にたどり着いた俺は扉の取っ手を掴むと開けると同時に「ただいま戻りました!!」と師匠に帰宅したことを報告する。
エリンも俺に続いて「イクストリア~、帰ったわよぉ~~!!」と前にいる俺の鼓膜を破壊する気ですか・・・と思える声量で帰宅の報告をしていた。
いつも寝間着でゴロゴロしている私室から返事が返って来るかと思っていたが・・・本棚で死角になっている位置から声が聞こえた。
「あー、おかえりふたりとも。それじゃ早速デスサイズを試しに行こうじゃないか!!」
そう言って本屋の隅から出てきた師匠の姿に俺もエリンも動揺を隠せなかった・・・。
なんとなく声の時点でいつもと感じが違うなと思っていたが・・・あの師匠が・・・いつも寝間着姿でゴロゴロしているあの師匠が・・・自ら着替えていた。
髪もボサボサではなくちゃんとクシでとかしている・・・それに服装も師匠の一張羅のワンピースを着ている。
師匠が着る服は全て黒一色で統一しているのだが、それでも服によって濃淡は存在する。
その中で最も色が深く濃い漆黒のワンピースが師匠のお気に入り、この一着だけは脱ぎっぱなしで放置してある他の服とは違い飾るようにハンガーにかけてある。
一度だけそのことが気になった俺は質問したことがあった。
師匠は気だるそうに「あ~、僕の師匠が卒業祝いとしてくれたものさ」と話してくれたことがあった。
鑑定結果としては店売りではないらしく非売品のようで値段は判明しなかったが、師匠の杖のように最上級とかでもなく、もちろん神級というわけでもないようだ。
イクストリアという教え子のためだけに師匠の師匠が自らの手でこのワンピースを作ったのかもしれない、初めてこのワンピース着ている師匠の姿を見たが・・・今まで色んなワンピースを着ているのを見ているが、その中でも群を抜いて似合っていた。
やる気がみなぎっている師匠は立てかけていた杖を掴むと師匠の変化に戸惑い棒立ちになった俺たちの腕をグイグイ引っ張り、外に連れ出すのであった。
腕を引っ張られながら・・・俺はあることを思い出していた。
そういや・・・師匠も興味や関心があるものには全力だったな・・・俺やエリン、システィ全員その餌食になったことがあるのをすっかり忘れていたわ。
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