第179話 俺、異世界でミストの皆に旅立つことを伝えるその1
また身体がグニャっと時空ごと歪むような感覚を体験した直後、聞き覚えのある声と共にバサバサと本が崩れる音が聞こえた。
目を閉じたままテレポートを唱えていた俺はゆっくりと目を開け、周囲の様子を確認する。
まず最初に安堵したことはちゃんとエリンも一緒にテレポートで瞬間移動できたことだ。
目を開ける前からエリンと手をつないでいる感触があったので、大丈夫だとは思っていたが実際にこの目で確認するのとでは安心感が天と地ほど差があった。
ただエリンはこのテレポート特有のグニャっとするあの何とも言い難い感覚に酔ったらしく、空いている左手で口を押さえて吐き気に耐えているようだ。
回復しなさそうなら、あとでリカバリーでも唱えてあげるか・・・吐き気ほどまではないが俺も少し気持ち悪くはなっていたりする。
まだ二回目だし・・・数をこなせばそのうち慣れるかもしれないしな・・・たぶん。
さてさて・・・この見慣れた風景は師匠の本屋で間違いない・・・ただ気のせいだろうと全力で無視をしようと思っていたが・・・俺や師匠の身長ぐらいまで積み重ねてあったはずの本があちらこちらにばら撒かれているのが視界に入ってしまった。
そしてその本屋の店主は私室から顔を出してこっちを見ている・・・最初は驚いた表情だったが・・・それが徐々に眉が上がり険しい表情に変化していく。
それからというもの師匠の怒りが静まるまでの間、整理整頓や王都のお土産などを渡したり、ありとあらゆることをし続けた。
エリンはというと師匠の部屋で完全にダウン状態となり、師匠の布団に寝転がっていた。
途中でエリンにリカバリーを唱えていれば、彼女の手も借りることができたのだが・・・その時間すら師匠は許してくれそうになかった。
前以上に整理整頓が行き届いた本屋になったところで、やっといつもの怠惰な師匠に戻ってくれた。
う~む、まぁ俺が原因ではあるかもしれないけどさ・・・最初からこれぐらい整理してあった感を出すのはちょっと違くないですか・・・師匠。
っと、そこでダウンしているエリンにリカバリーをかけてあげないと・・・あれから10分以上は経っているがまだしんどそうだ。
急いで寝転がっているエリンの枕元に近づいた俺はデッキからリカバリーをドローする。
テレポートによる酔いはアルコールなどの二日酔いではなく、きっと乗り物酔いとかと同じタイプのはず・・・ならばここに手を当てて唱えた方が効果が期待できるはず。
乗り物酔いは三半規管や耳石器などから入る情報と実際に目で見た情報との差異によって生じたり、予想できないような不規則な動きによって生じてしまう。
確かそんな感じであっていたはず・・・まぁ試してみればすぐに分かる。
俺はエリンの両耳に触れながらリカバリーを唱える。
するとすぐに効果があったようでさっきまで青ざめていたエリンの顔がどんどん明るくなっていった。
テレポートで移動する前の元気なエリンに戻ったところで俺は師匠に世界を見て回るため、このミストから当面の間離れることを伝えた。
話の内容はオークキングを討伐した報酬として世界旅行をプレゼントされたことにしておいた。
まぁ大筋は間違ってはいない・・・強いて言えならば実際はオークキングではなく【オークエンペラー】だということ、それと七つの大罪関連のことを一切話していない。
最後にミストでお世話になった人たちにも挨拶してくることを師匠に告げるとその足で目的遂行のため移動を開始した。
もちろん本屋を出る前にデスサイズの練習の件も頼んでおいた。
まずはセルーンの靴屋に向かうことにした。
靴屋の前まで来たところで俺たちに気づいたセルーンは予想以上に早く王都から帰ってきたことに驚いていた。
彼女にも師匠に話した内容と同じことを伝えると俺が予想していた通り・・・ミシミシと身体が軋む音が聞こえるほどに彼女は泣きながら抱きしめてきた。
システィほどではないにしろ・・・ドレスが無ければまた死んでいただろうなと思いながら彼女が飽きるまでやらせておくことにした。
まぁ途中でセレーンの声色に似せたエリンの一声により、抱き着くのをやめるのだが・・・その代償というか彼女にとってはご褒美だったのか分からないが、恍惚の表情で停止しているセルーンの置物が誕生していた。
なんか・・・前にもこんなことあったような気がする。
置物になったセルーンと別れた俺たちは次にアッシュに会うため彼・・・彼女の武器屋を目指す。
武器屋に着くとすぐにアッシュが出迎えてくれた。
アッシュにも同じ内容を話すとともにデッキケースのおかげで勝つことができたことを伝え感謝の言葉を述べるとすぐにその場をあとにした。
セルーンのようにこれで最後、今生の別れと言わんばかりにやられるのもあれだがアッシュのようにまたなってぐらいに淡白なのも少し寂しいと思ってしまう、面倒くさい俺が心の隅に存在していた。
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