第170話 俺、異世界で姉の深い愛で天に召されそうになる
システィに背後から抱き着かれているため、俺は身動きが取れない。
あの世までのカウントダウンの鐘がそろそろ鳴り始めようとしている。
えっと・・・何というかHPが残り半分を切りました・・・。
もうあのふたりは使い物にならん・・・ソレイユとアルトに助けてもらうしかない。
俺はすぐに仰向け状態から復活したソレイユとアルトの方に顔を向けて助けを求めた。
「アルト!ソレイユ!!ちょっとシスティを俺から剥がしてくれないか!!このままだと死因がこれになっちまう!!」
最初はソレイユも冗談だろという顔で右手を俺の方に向けてパタパタと団扇を仰ぐような仕草をしていたが、俺の顔が思った以上に真剣なことに気づいたのか・・・途中で声のトーンが変化していた。
「アスティナちゃんったら、そんなこと言って嬉しいくせぃ・・・・・・えっと・・・これはマジのやつね・・・アルト!!」
「おう!余に任せろ!!」
ソレイユから声をかけられたアルトはすぐにこっちに来てくれるとシスティを俺から引き剥がすため、彼女の両腕を掴み広げようとするが・・・アルトだけではやはり厳しいようでシスティはビクともしない・・・。
あっ・・・残りHP400切ったわ・・・。
それからすぐにソレイユも加勢して手伝ってはくれているが・・・全然取れそうにない。
なにか・・・なにか他に方法は無いか・・・何か方法は・・・・・・。
頭の中で打開できる術を必死に模索する。
アイテムで・・・・・・ダメだな、ポーションとかじゃ意味がないそれに取り出すこともできないから・・・ストレージに収容しているものは全て使えない。
そうなると・・・あとはデッキケースに入れてある魔法に頼るしかないか・・・なにかなにか無かったか・・・なにか。
デッキケースにどんな魔法を入れていたのかを目を閉じて一枚一枚思い出す。
ヒール系、リカバリー、ウォッシュ、サーチ、各属性の攻撃魔法・・・ハイド、デコイ、サイレント、デスサイズ・・・・・・あっ、これでもしかしたら抜け出せるかもしれない。
レイヴンから貰った魔法書によって覚えたあの魔法・・・テレポート。
レイヴンの本屋で何かあったときのために前もってデッキケースに入れていたことが功を奏した。
悠長に考えている暇はあまりなさそうだ。
試す前にいきなり生命をかけた実践になるとは・・・あっ、HP300切った・・・。
両腕は背後からギュウウと抱き着かれているため動かせないが、手首と指は動かすことはできる。
俺はスナップを効かせた右手でテレポートをドローする。
そしてエリンが座っている場所の近くに置いてある犬っぽいクッションを目印にして、テレポートを発動する。
レイヴンの説明では頭に思い浮かべてから発動とか言ってたが、目視している場所に移動するだけならば・・・たぶんそこまでしなくても大丈夫だろう。
「テレポーーート!!」
自分の身体がぐにゃっと歪むような違和感を感じたと思った刹那・・・俺は目印にしていた犬っぽいクッションを踏んでいた。
俺という支えが無くなったシスティはガクッと前のめりになっている・・・システィを俺から剥がすため助けてくれていたふたりも同じようにシスティに引っ張られている。
俺は天井を見上げ左手で額を拭う・・・特に汗はかいていないが、ピンチを切り抜けられたことに自分自身が安堵するため自然と行った行動なのかもしれない。
残り300を切っていたHPもすぐに回復し始めて、もう400を超えようとしている・・・さすは神級ドレスだな、たった数秒で100以上回復するなんて。
そして・・・とりあえずエリンとアルトジュニアにげんこつをしておいた。
ふたりは反論することもなくそれを受け入れる。
「アルト、ソレイユありがとうな!!それといきなり魔法を使ってすまなかった」
「それほど切羽詰まっておったのだろう、余とソレイユのことは気にするな」
「さすがにお姉ちゃんの愛情で殺されるアスティナちゃんとか見たくないしね、そんなもの映画だけで十分だわ」
「ソレイユ・・・なにその怖い映画・・・。でも助けようとしてくれたのは本当に嬉しかった、ありがとうなふたりとも!!」
さて・・・あの何もない空間をハグしている姉をどうしたものか・・・。
あの声でまた正気に戻す・・・ダメだ、個人的には最高だったが代償が大きすぎる。
それに俺がまた迂闊に彼女に近づけばまた捕まってしまいそうだしな・・・。
次の手をどうするか考えているとライユちゃんがこっちにトコトコと俺がプレゼントした絵本を持って歩いてきているのが見えた。
その姿を見た俺はある妙案を思いつく。
ナイスだライユちゃん、その絵本で注意を惹くことにしよう。
「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら
是非ともブックマーク、評価よろしくお願いいたします。




