第161話 俺、異世界で戦闘不能の兵士のことを思い出す
俺とアルト、カークランドの3人で取り決めた内容を語り合っては盛り上がっている。
そんな中、つい先ほどまで隣で落書きをしていたはずのエリンの右手がピタリと止まっていることに俺は気づいた。
そしておもむろに停止しているエリンの顔見ようとして、ノートの方に向けていた頭を上げて視界を正面に向ける。
・・・・・・彼女と目が合った。
エリンは身体は動かさずにシスティの真似をしているかのように首だけをこっちに90度向けていた。
咄嗟の出来事に俺はつい声が裏返ってしまった。
「ひゃい!?・・・うん・・・えっと、エリンよ。まばたきぐらいしてくれないかね・・・久々にジャパニーズホラー的な恐怖を感じたわ・・・」
「あ~、ごめんね、アスティナ。・・・というか、あなたが急におかしなことをアルトにお願いするから、こうなったんでしょ!!」
「はて・・・おかしなことなど俺は一言も言っていないと思うが?」
「いやいやいやいや・・・アスティナ言ってたじゃない。俺たち3人の世界旅行代を負担する気はあるかって・・・あれまさか本気じゃないわよね?」
「あー、それのことか!もちろん本気だ・・・逆に聞くがエリン、こんな冗談を国王と宰相の前で言えるか?」
「冗談でも本気でも言えないわよ、こんなこと!!これって国費で世界旅行に行くってことでしょ?」
エリンの質問に俺は頭の後ろに両手を回して、首を前後に揺らしながら「そうなるなぁ」と軽く返答する。
俺らのやり取りを横で見ていたアルトは本日何回目か分からないほどまた笑いこけている。
王妃のソレイユはかなりのゲラではあったが・・・国王のアルトもなかなか負けず劣らず良い勝負をしている。
アルトにつられて同じように腹を抱えて笑うカークランド。
まさか本当に旅行するだけだと思っているのかと、冷めた目でエリンを無言で見つめるシスティ。
さて・・・それじゃエリンにこの世界旅行の真の目的について話すとするか。
エリンに目的を伝えるために口を開いたそのときだった・・・目にも留まらぬ速さでシスティが俺の口元を手で押さえ、しゃべれないように塞いできた。
俺はなにが起こったのか一瞬分からなかったが・・・それから数秒が経過したときだった。
謁見の間に通じる唯一の扉をドンドンと叩く音と国王を心配する声が聞こえた。
アルトは外から聞こえる声に答えるため、扉の方に向かい自らの手で開けていく・・・俺はその光景に唖然とした。
なぜなら・・・守衛の人が毎回全力で開けていた扉をアルトは力をいれる素振りもなく平然と開けていたからだ。
そして扉が開き切るとアルトの目の前で心配する臣下たちに無事な姿を見せて、優しく臣下たちに声をかける。
「余はこの通り無事だ。皆に要らぬ心配をかけたようだな・・・、何が起こったかはまたあとで話そう。今はまだ余も整理がついておらんのでな・・・すまぬな」
それを聞いてほっと胸をなでおろす臣下たちの中でひとりだけ、質問をしてくる者がいた・・・それはレクメングルに毎回無理難題を押し付けられていたテイルその人だった。
「国王・・・レクメングル様のお姿が見えないのですが?」
「レクメングルか・・・そのことについてもあとで話そう・・・」
「・・・・・・・・・はい、国王。それではまた後ほど伺います。・・・あともう一つよろしいでしょうか?」
「申してみよ、テイル」
「あの・・・ですね・・・そこの通路に倒れている兵士はなんでしょうか?」
「・・・・・・兵士・・・?」
テイルが何を言っているのか分からないアルトは謁見の間を出ると彼が指差す方向に顔を向ける。
そして・・・その兵士とやらを見たアルトはその場で硬直し動かなくなった。
そういや・・・システィが戦闘不能にした兵士って気づいたときにはこの謁見の間から消えていたなぁ・・・。
まさかと思った俺はギギギギと錆びた玩具のように首を少しずつ動かしてシスティの方を見る。
すると彼女は笑顔で俺が聞こうとしていた答えを口に出す。
「お嬢様の邪魔になると思いましたので、あちらに投げ捨てておきました」
俺はその答えに対して目をパチクリしながら「そっかぁ・・・」としか言えなかった。
「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら
是非ともブックマーク、評価よろしくお願いいたします。
 




