第154話 俺、異世界で先遣隊として国王を送る
謁見の間から離れること数メートル・・・ここからでは内部の状況までは分からないが、ブォンと空を切り裂く音・・・そして・・・ザクっと肉を切り裂く音が連続して鳴り響く。
システィの実力ならば、一撃で終わるはずなのにその音が一向に止まる気配がない。
システィの邪魔になるからとあの場から離れたが・・・さすがに状況が変化していないことに少々不安が募る。
彼女なら・・・システィなら、大丈夫・・・問題ないと心の中で何度も唱える。
システィのことが心配なのが顔に出ていたのか、エリンが唐突に話しかけてきた。
「システィなら大丈夫よ!彼女よりも強い人をわたし見たことないもの。わたしはまだ認めていないけど、自称姉さんなんでしょ?だったら、アスティナが一番信じてあげないとダメじゃない?」
「はは・・あはははは・・・そりゃそうだ、エリンありがとうな!つうか・・・俺そんなに顔に出てたか?」
「それはそれは・・・もうシスティには見せられないほど不安そうな顔してたわよ。その顔絶対に彼女に見せたらダメだからね、分かった!!」
「・・・・・・あぁ、分かったよ相棒」
このときの俺はてっきりそんな不安な顔でシスティを迎えるのではなく、笑顔で迎え入れようという彼女の提案だと思っていたのだが俺の思いはすぐに打ち崩れる・・・なぜなら・・・エリンの口角が上がっているのを見てしまったからだ。
これは自分だけ楽しもうというそういう類のやつなだけだった。
謁見の間から先ほどまで聞こえていた斬撃音が聞こえなくなっていた。
決着がついたのか内部の様子を確認しに謁見の間に向かいたいところだが、いますぐ向かっても大丈夫なのだろうか。
もしかしたらまだ完全に倒し切っていないかもしれない・・・そんな状況で俺たちが行けば彼女の足手まといになるだけだ。
行くべきか行かざるべきか・・・悩んでいると真横から彼女の声が聞こえた。
「お嬢様・・・お待たせいたしました。再生能力が高く処分するのに少々時間がかかりました」
「うぉっと!!いきなり横から話しかけるなよ・・・ビックリするだろ」
「・・・それは失礼いたしました。それで・・・お嬢様見に行かれますか?私めとしてはあまりお勧めいたしませんが・・・」
「・・・・・・一応見に行くけど・・・そんなにすごいことになってるの?」
「はい、各部位を斬るだけでは死ななかったので、再生できないように細かくする必要がありましたので・・・」
システィは言葉を濁した。
もうそれを聞いた時点でオークエンペラーだったものはすでに原型を留めていないのだろう。
胴体が分離しているどころの騒ぎではないのだろう・・・だって、システィは細かくって言ってたからな、それってあれだろ・・・もうミンチにしましたって、言ってるのと同じじゃないか。
俺はため息をつくと・・・重い足取りで謁見の間に向かう。
アルトとカークランド、エリンも俺と同じ足取りであとをついてくるのであった。
そして・・・いざ謁見の間まで目と鼻の先、あとは開いている扉に向かって一歩踏み込んで左折するだけで内部どうなっているのかが分かる。
分かる、分かるのだが・・・戦闘に参加していない俺たちはそのあと一歩がなかなか踏み出せずにいた。
あのシスティがわざわざ言葉に濁すほどの惨状がどれほどのものなのか想像すらできない。
・・・・・・よし、こういうときこそ我らが国王に先頭を行ってもらうとしよう。
王城の主なんだし・・・それに責任取るって言ってたしな・・・任せよう。
「・・・・・・アルト、ちょっと様子見てきてくんない?」
「・・・・・・・・・余が?」
「うん・・・余が」
「あっはっはっはっは・・・・・・・アスティナは本当に冗談が上手いな!!」
「・・・・・・冗談じゃなくて、これマジのやつな?それにアルト・・・俺たちに言ったよな、全責任を取るってさ?」
「・・・・・・・・・過去に戻ってそんな約束をした余を思いっきりぶん殴りたい・・・・・・はぁ・・・分かった、余が直々に見てこよう!!」
俺たちは誰よりも率先して謁見の間に向かう国王の勇ましい姿を見送るのであった。
「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら
是非ともブックマーク、評価よろしくお願いいたします。
 




