第153話 俺、異世界で大臣がゼリーになるのを傍観する
声の主を確認するため周囲を見渡すが声が聞こえる前と人数は増えていない。
それにエリン、アルト、カークランドにはこの声が聞こえていないようだ。
アルトとカークランドは全滅した兵士を横目に唯一の出口である扉側に移動している。
まだどこから奇襲が来るか分からない現状・・・システィにはもう少し彼らの護衛をしておいてもらおう。
アルトとカークランド両名が謁見の間から外に出ようとしたとき、システィが俺に声をかけてきた。
「お嬢様・・・あの声は私めとお嬢様にしか聞こえていないようです」
「やつがどこから話しかけてきているか分かるか?」
「いえ、残念ながら分かりませんでした・・・ただあの声になぜか殺意が芽生えました」
「おぅ・・・そうか。確かにあの上から目線の物言いにはちょっとだけイラっとはしたな」
俺とシスティだけに声が聞こえているということはもしかしたらこの声の持ち主もイレギュラーな存在の可能性がある。
それにやつは【古の力】という単語をわざわざ使った・・・それはつまりこの能力について何か知っているということだ。
この能力が使用できるのは『クインテット・ワールド』の中でもアスティナを含めてごく少数のリーダーカードだけだったはずだ。
それを知っているということはやつは過去に不死族と会ったことがある。
それはつまり・・・過去にアスティナとも会っている可能性が高い・・・ならば絶対にやつから情報を聞き出さないといけない。
それが結果として500年前に起こった出来事の真相に至る道にもなるはずだ。
だが・・・どこにいるかさえ分からない相手にどうやって話しかければいいのやら・・・。
眷属の魔眼を発動したにも関わらず、答えることもせずただただ棒立ちで人形のように動かなかったレクメングルが急に全身震えだして絶叫する。
「アヒャヒャヒャヒャ!!凄まじい!!これならばコレナラバ負けることは無い!!ありがとうございますぅぅぅぅ!!プライド様あぁぁぁぁぁぁ!!ガ・・・ガキャ・・・ガガガガガガガガガガガガガガ」
その言葉を最後にレクメングルの身体がドロリと・・・どんどん溶けていく・・・そして・・・液体と固体の中間・・・ゼリーと呼ぶのが最も適している形状になった。
それはレクメングルという人物がこの世から消滅したことを意味する。
俺たちは彼が溶ける様子をただただ見ることしかできなかった・・・。
やつは溶ける前に【プライド様】と言っていたな・・・プライド・・・プライド・・・傲慢か・・・あー、レクメングルにはピッタリだな。
さて・・・この惨状の説明はアルトに任せよう・・・あいつ全責任を取るって言ってたしな・・・すまんな、アルト。
後処理について考えていた俺は元レクメングルだったものがゆっくりと移動していることに全く気づかなかった。
そう・・・それがオークエンペラーの亡骸に向かって移動をしたことに・・・・・・。
先ほどまでエリンに自分がいなくなってから何があったのかを事細かく聞いていたシスティだったが、急に声を張り上げて俺の前に立つ。
「お嬢様!!お下がりください!!」
「えっ、えっ!なんだ!どうした!!」
「申し訳ございません・・・私めがもっと早く気づけば良かったのですが・・・あの液体、私めが斬った豚と融合しようとしています!!」
「・・・・・・うん・・・マジか!?それってもしかして結構マズい?」
「私めがひとりで戦うのならば、余裕で屠れますがあの生物ふたりとお嬢様、エリンを守りながらとなると少々厳しいかもしれません」
「・・・よし、分かった。そういうことだから、エリン、アルト、カークランドさんいますぐここから離れるぞ!!システィの邪魔になる!!」
俺たちはすぐに走り出してその場を離れる。
そしてアラームを聞きつけた兵士たちがこっちに来るのを見つけるとアルトはすぐさま謁見の間に誰も近づけないように命令するのであった。
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