第14話 俺、異世界でお風呂に入る
俺はあのまま腕を掴まれた状態で引っ張られ、ついに女湯の入り口前まで連れて来られた。いまの俺はアスティナであるため、堂々と女湯に入ることは出来る。だが、それを免罪符にして本当に入っていいのか。
そんなことを悩んでいる俺のことを知る由もない彼女はそのまま俺を引っ張って女湯に入っていくのであった。
さっきまであれほど免罪符がどうとかいってた俺の心は、脱衣所に入った瞬間吹き飛んでいったのである。目の保養もそうだが、木製の鍵付きロッカーや体重計、瓶の牛乳など古き良き日本の銭湯の光景が見えたからだ。
そんな状況の俺を見てチャンスだと彼女は思ったのだろう。
「アスティナ~、万歳してみて~?次は右足を上げて、今度は左足ね~、よく出来ました!」
「うん・・・、あー、エリンここは銭湯ではないんだよな?」
「セントウがなにかわからないけど、みんなは大衆浴場といってるわ」
「へぇ、そう呼んでるんだなぁ。それはそうと、念願の風呂だあぁぁぁ!!」
「はいはい、良かったわね。この鍵に付いてるひもをこんな風にかけておくのよ?」
「へぇ、首にかけるのか・・・手首とかじゃないんだな」
そのとき俺の眼はある箇所で釘付けになってしまった。俺の身長にあわせるようにしゃがみながら、教えてくれたのだがそれがちょうど彼女の谷間を上から拝める構図になっていたからである。
「アスティナ聞いてる?こうやるのよ、わかった?」
「わわ、わかった、わかった!それじゃー、早速服を脱いで・・・」
「あれ・・・?俺いつ服脱いだの・・・・・・」
「あなたが銭湯がどうとかいってたときだけど?」
俺はずっと全裸でエリンに教えてもらっていたのか。そもそも鍵を首にかけるとこまでいっても気づかない俺もどうなのだ・・・。
「はぁ、いいもの見れたからいいか。というか、俺が裸ってことはアスティナが裸ってことだよな・・・!この辺に鏡は・・・鏡はないのか!別に変な意味はないぞ、ただ興味本位でちょっとだけ見てみたいだけなんだ・・・!」
「はいはい、お風呂が嬉しいのは分かるけど少しはしゃぎすぎよ?」
「・・・あっ、ごめん。そうだな。他の人にも迷惑だよな」
俺は脱衣所にいる人たちに会釈をした。なぜかみんな孫を見るかのような温かい目でこちらを見てくるのであった。その人たちに勧められるかのように俺は引き戸を開けた。正面には大きな浴槽があり、さらにシャワーや石鹸、シャンプー、リンスといったものまで完備されていた。
「うそだろ・・・、シャワーまであるのか。ファンタジーな世界観どこにいったよ!」
「はいはい、はしゃがないの!アスティナそこのイスに座って、体を洗ってあげる」
「それがすんだら、お風呂に入りましょうね」
「・・・わかった」
「どうしたのアスティナいつもより大人しいけど?」
女湯だからって、みんな堂々とし過ぎだろ・・・、見てるこっちが恥ずかしくなるわ・・・だがついつい見てしまう・・・。自分でも俺はなにをいっているのだろうかと考えていると背中に柔らかいものが当たった。
その瞬間俺の神経は全て背中にいくのであった。この感触は・・・あれかエリンのあれか・・・あれなのか・・・。
「はい!これで終わり、もうお風呂に入ってもいいわよ!」
「・・・アスティナなんでちょっと悲しそうなのよ。念願のお風呂なんでしょ?」
「・・・・・いや至福の時間というのは、一瞬で過ぎ去っていくんだなって思ってさ」
「はぁ・・・よくわからないけど、さっさと入るわよ」
浴槽を目の前にすると、俺は自分が思ってた以上に浸かりたくてうずうずしていることに気づいた。日本人には風呂という概念が魂に刻まれているのだろう。
「はぁぁぁぁぁぁ、ふぅ・・・最高だ!俺はこのときのためにいままで生きてきた・・・はぁぁぁ」
「ふふふ、なにいってんのよ?それにしても、本当に気持ちよさそうね」
「そりゃ、日本人に風呂は必須だからな!」
「ニホンジン・・・?アスティナって、たまによく分からない言葉を使うよね?」
「えっ・・・、あー、なんだろうな?失くした記憶に関係あるのかも・・・?」
「もしそうなら、いい傾向ね。あなたの記憶が戻るかもしれないってことでしょ!」
彼女の言葉に俺が嬉しそうに頷くと、同じように喜んでくれたがなぜかどこか寂しそうにも見えた。
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