第145話 俺、異世界で国王アルトに謁見する
「冒険者アスティナ様、冒険者エリン様ご到着にございます!!」
兵士はそう叫び扉を開けていく・・・その煌びやかなで巨大な扉は外見通り分厚く兵士が取ってを持ち、力強く手前に引いていくたびにギィィと鈍い音が響き渡る。
毎回こんな大変な思いをして開閉しているのかと思った俺は・・・少し兵士に同情をした。
そして徐々に謁見の間の全貌が見えてきた。
正面奥には先ほどまで話していたアルトがマントを羽織り王冠をして玉座に鎮座している。
レイヴンの本屋ほどではないにしろ、天井も高く先ほどの兵士の声が反響していたのも頷ける。
そして広場には俺の真っ赤なドレスほどではないにしろ、とても綺麗に染色された赤い絨毯が敷かれている。
その絨毯の両脇にはこの国の臣下であろう方々が整列していた。
扉が開き切ったところで、テイルが俺の隣にふらっと移動したかと思えば「一番手前にいる兵士のところまで歩きます」と次の行動を助言してくれた。
それを聞いた俺はエリンよりも先に移動を開始した、たぶん聞こえていないであろう彼女が俺を見て真似できるようにするためだ。
俺の動作を見たエリンは俺とテイルに真横になるように横目でチラチラと確認しながら歩いている。
背後では先ほどの兵士が扉を閉めているのだろうか、またギィィと音が聞こえている。
手前にいる兵士の位置まで移動すると、次に例の挨拶をするようにテイルがボソっと俺にだけ聞こえるように呟く。
それを聞いた俺は両手で左右の端っこを軽く掴みドレスを広げてから頭を下げる。
横目で次に俺がする行動を確認していたエリンもすぐにテイルに教わった通りに右手を心臓の位置で固定して、左手は後ろに回してから頭を下げていた。
エリン・・・お前、肘を90度に曲げることを緊張のあまり忘れているじゃないか・・・だがこの状況でタイミングでそれを伝えることはできない。
3秒ほど経つとテイルが「もう頭を上げても大丈夫です」と教えてくれた。
俺が頭を上げてドレスから手を離したのを確認したエリンも同じように頭を上げた。
最後にテイルは「それでは私が言ったことお忘れなきよう・・・」と言い残すと彼は臣下が並んでいる列に加わっていった。
俺たちの一連の動作が終わったことを確認したアルトが口を開く。
「テイルよ、ご苦労であった。そして冒険者アスティナ、冒険者エリン此度は余の願いに応じてくれたこと感謝する」
このあといつもの流れだと俺が軽口で返事をするところなのだが・・・テイルから絶対にするなと注意されていたので何も言わず我慢した。
「さて・・・そのまま本題に移りたいところではあるが、報告では三人だと聞いておったがアスティナよ、もうひとりはどうしたのだ?」
「はい・・・システィはそのどうしても抜けられない用事がございまして、そのため本日はわたくしとエリンのふたりだけで伺いました」
そもそもすでにシスティが来ていないことはアルトは知っているし、こんな会話も必要ないのかもしれないがその情報を知らない臣下たちはそうはいかない。
理由付けをして来れませんでしたということを伝えておかないとあとあと面倒くさいことになるのだろう・・・アルトもその事を知っているからこそ、二度手間ではあるがやるしかないのだろう。
全員ではないにしろ一部の臣下たちは三人揃って来ないのはどういうことだと愚痴っている。
「そうか・・・残念ではあるが致し方ないな。では、話を続けようか・・・かの報告通りそなたたちが【オークエンペラー】を討伐したというのは誠か?」
「はい、国王様。わたくしたち三人でオークエンペラーを討伐いたしました。証人としてはセルーン様がいらっしゃいます」
「センチネルが虚偽報告をするはずもないが、余もそこの臣下たちもどうにもまだ信じることができずにおってな・・・なにかそれを証明できるものはあるか?」
「はい、証拠ならございます・・・ただこの絨毯を汚してしまいますがそれでも構いませんでしょうか?」
「ふむ・・・良いぞ。余に見せてくれ」
「かしこまりました。では・・・」
絨毯を汚してもいいと許可された俺は胴体が半分に切り分けられたオークエンペラーの亡骸をここに置いてやろうかとも思ったが、あれを実体化した瞬間に大量の血が絨毯に染み込んでいくのが容易に想像できたため、さすがにやめておくことにした。
まずはオークエンペラーが被っていた王冠を取り出して、様子をみることにした。
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