第143話 俺、異世界でテイルから国の成り立ちを聞く
それから部屋を出た俺たちはいま謁見の間に向かうため、また迷路のように入り組んだ王城内部を歩いている。
前方には案内してくれているテイルの姿が見える。
謁見の間に行く場合も子供部屋にたどり着いた時と同じように大量のメイドによって作られた強制レーンを通らされるのかと少し不安になったが、そんなことは一切なくテイルひとりだけで俺たちを案内してくれている。
先頭を歩いているテイルに部屋を出る前に彼が言っていたことについて説明を求めた。
「なぁテイル、子供部屋からもそこそこ離れたことだし・・・そろそろ説明してもらってもいいか?」
「はい・・・そうですね。部屋を出る時にそうお約束いたしましたし・・・ふぅ・・・それではご説明させていただきます」
国王に話す時でさえ、テイルはそこまで緊張していなかったのに、SSS級とは言っても所詮は冒険者である俺たちふたりに説明をするだけなのにわざわざ呼吸を整えたりしなければいけないほど・・・話しづらいことなのだろうか。
歩く速度を少し落としたテイルはちょいちょい後ろを振り返りながら、国王や臣下の権限について身振り手振りを加えて説明をしてくれた。
彼が話してくれた内容について俺の中で大まかに分けて三つに分類することができた。
まず、一つ目は国王はこのアルトグラム王国のトップであることに違いはないが・・・どちらかというと象徴としての役割が多いこと。
最後に決断するのは国王で間違いはないが国王の元に事案が届き、決断をしなければいけない状況になった時にはもう臣下たちが決めたことをそのまま承認するだけだという。
ただそのまま承認するだけではただの置物になってしまうからという理由だけで・・・国王も臣下もそれぞれ最低限の言葉のやり取りはしているようだ。
今回俺たちを王都に呼ぶことも大臣や宰相など一部の臣下は招待状を送る前からすでに知っていたらしい・・・ただテイル自身はそのことについては知らされてなかったようで、俺たちの案内をするように言われた時はかなり困っていたと暴露していた。
テイルに謁見前になぜ子供部屋で彼らと会って話す時間を用意できたのか質問すると、彼は「案内役ですから、多少の無理は効きます」と返答した。
その言葉を聞いたとき臣下であってもテイルは王族のことをモノとして見ていないことに少しだけ安堵した。
二つ目は過去に一度本当にどうしようもない暴君が生まれ国が滅びかけたことにより、憲法で権力を分散させたこと。
アルトグラム王国ができたのは500年前の五大陸を巻き込んだ戦争が終戦してから、徐々に人が集まりそれが村になり町になり都市になり、そして今に至る。
アルトグラム王国の前にも国はあったが、その国の王族は戦争で全て亡くなってしまったらしく、新しく建国するとなったときに常に前線で戦い敵を殲滅し、仲間を窮地を救い、みんなを鼓舞してきた青年アルトを王としたのがこのアルトグラム王国のはじまりだそうだ。
そういうこともあり、彼が持っていた盾が門や防壁など各場所に国のシンボルとして描かれているのだろう。
で話は戻るが、それから200年ほど経った頃に将来暴君と呼ばれるアルトが生まれる。
幼少期はまだ暴君になる片鱗など一切見せていなかったが・・・国王であった父が急死して、彼が王位を継いだあたりから様子が変わってくる。
彼は王城に無断で女性を連れ込んだり、ガラの悪い冒険者くずれのような人物を自分の私兵として雇ったり、それを注意した臣下を独断でクビにし、場合によっては処刑すらしていた・・・そしてその亡骸を見せしめのように王城に吊るしていたこともあるらしい。
母親が甘やかしすぎたこと・・・尊敬していた父親が急死したことなど・・・彼自身にも最初からそういう資質があったのかもしれないが、彼を叱ってくれる唯一の人物であった父親が亡くなったことが彼を暴君への道に進ませた一番の要因だろう。
まぁそれからはよくある展開のやつで反乱が起きて、暴君アルトは糾弾され、一生死ぬまで自身の部屋から外に出ることも誰かと会うことも許されなかったそうだ、そして弟が継いで国王になり、いまもその血族が続いているとのことだ。
暴君になるまで放置してしまった臣下や近親は今後そんなことが絶対に起こらないようにするために知恵を絞って、いまのスタイルになったそうだ。
そして最後はアルトグラム王国の礎を築いたレクメングル大臣の一族が関係している。
レクメングルの一族とアルトグラム王国は切っても切れない関係性にある。
なぜなら人材を集め国を作り、さらに支払った出資金は建国にかかった費用の半分以上を占めている。
レクメングルのご先祖は戦争しているあらゆる国に武器を販売して巨額の利益を出していた・・・それはもうよそからは【死の商人】と呼ばれるほどだ。
最初は話を聞いていたときの感想としては裏で牛耳ることができる国が持ちたかったのかとも思っていたが、詳しく彼の説明を聞くと血塗られたお金でも人の役に立つのならばと、そしてアルトという人物に惚れて自身の全財産を無償で建国費用として渡し、彼は権力を手にすることもなく、ひっそりと暮らし余生を過ごしたらしい。
その結果、アルトグラム王国としてもその国の代表である国王もあまり強くは言えなくなっているということだろう。
初代はそうだったかもしれないが・・・いまや王国の中枢に常にレクメングルの一族が存在している。
まぁ勝手に資産を使われた初代の家族はたまったもんじゃないだろうし・・・それに子孫たちもみんながみんな甘い蜜をすするためだけにその地位にいたわけじゃないのかもしれないが・・・やめだやめ・・・直接会って見て話してから自身で判断すると決めたはずなのにまたブレてるわ・・・俺。
「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら
是非ともブックマーク、評価よろしくお願いいたします。




