第140話 俺、異世界でライユちゃんを泣かせてしまう
みんなが笑っていたこともあり、特に気にしてなかったがエリンからの質問によって、ゆびきりはこの世界に存在しないことを知った。
「ねぇアスティナ、わたしその儀式はじめて見たんだけど、それもあなたの故郷では有名なやつなの?」
「・・・・・あー、そうだな。たぶんみんなやってたんじゃないかな・・・」
「ふ~ん、そうなのね。それであの歌ってどういう意味があるの?」
「あれはな、約束を破ったら、拳で1万回殴る!さらにウソまでついたら、裁縫針を1000本呑ませるって言ってるんだ。面白いだろ?」
「えっ・・・アスティナ、ウソでしょ?本当にあなたの故郷ではみんなそれやってたの?」
もしかしたらとは思っていたが・・・どうやら俺の相棒はゆびきりが本当に儀式として存在していると思っているらしく、怯えた表情で俺が次になにを言うのかを待っている。
もしやと思いアルト一家の顔をそれぞれ確認していくと・・・アルトは笑いをこらえているのか頬がピクピクと動いている、ソレイユは俺よりも怯えているエリンを見てニヤニヤしている、アルトジュニアは眉一つ動かさずにエリンと同じように俺の返答を待っている。
あの夫婦はゆびきりがどういうものなのかを知っているがあえて黙っているようだ。
そして最後に我らが天使であるライユちゃんなのだが・・・少女はぷるぷると震えながら、顔を埋めて俺にギュッと抱き着いていた・・・そんな彼女の行動が俺の精神を盛大に削っていく・・・。
俺はすぐにライユちゃんを覆うようにハグをしてすぐにそれが子供の遊びであることを白状した。
「ライユちゃん!子供同士が冗談でやる遊びだから、実際にはそんなことしないよ!ごめんな、ライユちゃん、ごめんよぉぉぉ!!」
「はぁ・・・子供の遊びだったのね。冗談で本当に良かったわ、あんな儀式が盛んに行われている国とか怖すぎよ・・・・・・」
「余も冗談だとは分かっていたとも、さっきのは・・・そう演技をしていただけだしな、見事余の演技に騙されたな、アスティナ!」
「あっはっはっはっは!!あれほど上手く皆を騙せていたアスティナもライユには形無しか」
みんながそれぞれ言いたいことを言い終えると、ギュッと抱き着いていたライユちゃんが顔を上げてこっちを見た・・・先ほどまで泣いていたのだろう、まだ少し目がうるうるしていた。
そんな少女に二度と自分がいる時に怖い話をしないように説教されたが、なんというかこの怒っている顔も実に可愛らしい。
「アスティナお姉ちゃん、もうこわいお話したらダメだからね!ちゃんと聞いてるの!お話したらダメなんだからね!!」
「はい、分かりました。ライユちゃんがいるときは絶対にしないように約束するよ」
「じゃー、許してあげる!」
少女はそう言って俺にゆびきりをするように促してきた・・・あれほど自分が怖がっていたはずのものを俺とやらせようとするあたり、ライユちゃんもなかなか油断ならぬ相手かもしれない・・・。
さっきまでニヤニヤしながらエリンのことを見ていたソレイユだったが、ターゲットがエリンから俺に変更したのか、急にこっち近づいてくると、両手で俺の手を覆い隠すように握り、真っすぐと俺の目を見ながら突拍子もないことを口に出してきた。
「アスティナちゃん・・・あなた、息子のアルトと婚約しない?」
「・・・・・・うん?ごめん俺の聞き間違いかな?なんかアルトジュニアと婚約がどうとかって聞こえた気がするが・・・」
「ちゃんと聞こえてるじゃない!それにアルトもアスティナちゃんなら、大歓迎みたいだし?」
「おいおいおいおいおい!お前の母さんおかしなこと言ってるぞ・・・お前からも何か言ってやれ!!」
なぜか急に婚約の話になった俺は助けを求めるべくアルトジュニアに反論するように促すが・・・またよそを向いて黙り込んでいる。
せっかく仲良くなれたと思った途端、また元通りになってしまったことに少しガッカリしている俺に彼女は違うベクトルから追撃してくる。
「ねぇ・・・ライユ、アスティナちゃんがお家に来てくれたら、嬉しい?」
「うれしい!ライユ、アスティナお姉ちゃんと一緒に遊びたい!!」
「く・・・ソレイユ・・・ちょっとそれはあまりにも卑怯じゃないか」
「冗談よ、冗談・・・でも婚約のことは70パーセントぐらいは本気だったり?それにアスティナちゃんとはもっとお話してみたいしね・・・ゆびきりとか色々とね」
「・・・・・・はぁ、なるほどやっぱりちゃんと理解して使っていたんだな、ソレイユは」
「ふふふ、それはアスティナちゃんもでしょ?」
俺とソレイユがそこそこ重要な会話をしている中、ライユちゃんの頭の中では一緒に遊びたいから、いまはもう一緒に遊ぶになっているらしく、終始俺をぬいぐるみが置かれている方角に連れて行こうと誘惑していた。
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