第137話 俺、異世界で呼び捨ての練習をするエリンを見る
「はい、完成!エリンちゃん、もう動いてもいいわよ」
「・・・あっ、はい!王妃様、あの、その・・・ありがとうございました」
ソレイユに髪をといでもらったエリンは自分がしてもらったことがどれほど恐れ多いことかを再認識してしまったのか、やっと緊張もほぐれて普段通りに戻ったのにまた硬直し始めている。
ソレイユもそのことに気づいているのか、緊張をほぐすため・・・もしくはただ単にちょっかいを出しただけかもしれないが、彼女の正面に移動すると額めがけてバチコーン!っと勢いよくデコピンを繰り出した。
その打撃音はなかなか凄まじく・・・それは男友達が悪ふざけでやるレベルのそれだった。
友達ならばまだ許されるであろうが、ちょっとした知り合い程度ならば喧嘩になるな・・・これが血の気の多い冒険者とかだったら、演習場で一騎打ちにご招待されるな、さすがにそれ以上はギルドマスターであるセンチネルやセルーン姉妹が目を光らせているから、殺し合いとかになることはないがそれでも恨みは買いそうな気がする。
ソレイユからデコピンをされたエリンは涙目になりながら、両手でやられた部位を抑え先ほどとはまた違う意味で硬直している。
そんな状態のエリンに対してデコピンをした当の本人であるソレイユはエリンの両肩にそっと手を添え話しかけた。
「ごめんね、エリンちゃん・・・私はこういう感じでしか言いたいことを表現できないのよね。でもこうでもしないとエリンちゃん、せっかく私たちとの距離が縮まったのにまた離れちゃいそうだったから・・・」
「王妃様がそこまでわたしたちのことを親身に思ってくれているのは嬉しいのですが、わたしにはまだアスティナのように接することは難しいです・・・」
「そうねぇ・・・・・・それじゃまずは私たちのことを呼び捨てにしてみるところからはじめましょう!うん、それがいいわ!そうしましょう!!」
「・・・・・・王妃様??」
王妃ソレイユから突拍子もない発言を聞いたエリンの頭の中にはきっとハテナが大量に増殖していることだろう。
彼女の夫でもある国王アルトの方に目を向けると彼も俺の方を見て、いつものことだと言わんばかりにゆっくりと左右に首を振り、次に両目を閉じて今度は上下に軽く首を振って、俺に同意を求めるような行動をしている。
そのアルトの意見に同意をするため、俺も彼と同じように両目を閉じて何度か軽く頷いた。
「エリンちゃん、さぁ私の名前を言ってみて?」
「はい、分かりました・・・ふぅ・・・・・・ソレイユ様」
「う~ん・・・70点ね!エリンちゃん、様がちょっと邪魔ね。次はソ・レ・イ・ユと呼び捨てで呼んでみて」
「はい・・・・・・ソ・・・ソレ・・・ソレイユさん」
「う~ん・・・90点ね!エリンちゃん、さん付けもいらないわよ。次はちゃんとソ・レ・イ・ユって呼んでね」
「ふぁい・・・はい・・・ふぅ・・・・・・ソレイユ」
エリンから呼び捨てされた王妃ソレイユは満面の笑みを浮かべ「はい、な~にエリンちゃん!!」と返事をしている。
それからエリンはソレイユに自分たちのことを名前で呼ぶことに慣れさせるため、練習として国王や子供たちの名前を言わされ続けることになる。
「ソレイユ、アルト、アルトジュニア、ライユちゃん・・・・・・はぁはぁ・・・もうこれでいいでしょ・・・ソレイユ」
「うん!バッチリよ、エリンちゃん。いい感じに硬さも取れたし、やっとこれで楽しくお話ができるわね!!」
「・・・・・・あ~、そうだったわ・・・なんかわけの分からない練習をさせられてスッカリそのことを忘れていたわ」
「え~~~~、エリンちゃん!忘れてたの・・・それひどくない?」
「いやいやいやいや、ソレイユあのね・・・王族と会うということだけでも、それはもう本当にすごいことなのよ。直接会話するとか普通ありえないし・・・」
「あ~、それもそうね、私そういうことに疎くて・・・夫や子供からも距離感がおかしいってよく言われるのよね。そんなにおかしいのかしら私?」
ソレイユの行動に毎回振り回されているアルトは深くため息をつく、そしてなぜかエリンもアルトに同意するかのように同じようにため息をつくのであった。
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