第136話 俺、異世界で映えるいう単語を聞く
アルト一家の自己紹介が完了すると、次は交代で俺たちが自己紹介をすることにした。
俺とエリンのことは俺たちを子供部屋に案内してくれたテイルやセンチネルからある程度のことは知っているとは思うが、礼儀として俺たち自身で言葉に出しておくべきだと思った。
エリンはまだまだ緊張がほぐれる気配がないため、俺から先に彼らに自己紹介をする。
その間に少しでも彼女の緊張がほぐれればいいのだが、隣に座っているエリンの顔をチラッと見てみる・・・彼女の目線自体は前方に座っているアルトたちを見てはいるが、焦点が合っていないのかどこか他者を不安に感じさせるような見かたをしている。
「今度は俺たちの番だな、まずは俺が先に自己紹介するぜ!俺の名前はアスティナ、冒険者をしている、みんなよろしくな!!」
自分でもビックリするほどにすさまじく簡単な自己紹介になった、エリンが平常心になるまで時間をかせごうと思っていたのだが・・・もう俺はこれ以上追加する要素が思いつかない。
俺の自己紹介が終わったことにより、次はエリンの番なのだが彼女はまだどこか遠くを見ている。
さすがにこのまま放置するわけにもいかないと思った俺は子供部屋に入ったときに、テイルが俺たちのことを紹介してくれたときのように今度は俺がエリンのことを紹介することにした。
「彼女はエリンといって俺と同じ冒険者であり、同時に俺の相棒である。ちょっと抜けているとこもあるがいいやつだから、仲良くしてあげてくれ!」
そう彼らに紹介すると、俺はエリンの頭をわしゃわしゃと撫でた。
その行動が功を奏したのか、人形のように身動き一つせず固まっていた彼女は俺の手を振り払うと同時に緊張がほぐれたのかいつもの表情豊かな彼女に戻った。
「アスティナァ~!あ~、髪がグシャグシャじゃないのぉ・・・せっかく綺麗にセットしてきたのに台無しじゃない」
「あはは、ははははは!!ごめん、ごめん、悪かったって・・・でもさ、そのおかげで緊張がほぐれただろ?」
「まぁ・・・それはそうだけど・・・・・・はっ!!はじめまして、フォレストエルフのエリンです。どうぞよろしくお願いします!!」
急に冷静になったエリンはアルト一家に自身で自己紹介をし始めた。
俺たちのふわっとした自己紹介が済んだところで、すぐに王妃ソレイユからお話という名の質問攻めが来るものだと心構えをしていたが、彼女はスッとその場を立つとふたつ並んでいる机の方に向かい、そこに置かれていたクシを手に取るとこっちに戻ってきた。
そのクシはピンクで塗装されていて、持ち手の部分にはデフォルメされたクマが描かれていた。
おもむろにエリンの背後に移動したソレイユは俺の手によってグシャグシャになったエリンの髪を慣れた手つきでといでいる。
ソレイユからそんなことをされるとは思っていなかった彼女は自分がなにをされているのか理解が追い付かず困惑している。
そんなエリンにソレイユはゆっくりと穏やかな声色で彼女に話しかけている。
「エリンちゃん、おとなしくしててね。いま綺麗にしてあげますからね」
「はい・・・ありがとうございま・・・って、王妃様!大丈夫です!自分で、自分でできますから!!あの、あの、あの・・・」
「エリンちゃん、動かないの!・・・・・・それにしてもあなたもアスティナちゃんも本当に綺麗な髪ねぇ、それにそれぞれシルバーとゴールドだし、ふたりが一緒にいるだけで何というか映えるわね!!」
「はい!王妃様ありがとうございます。・・・・・・・・・バエル?」
隣で彼女たちの会話を聞いていた俺はソレイユが口に出した【映える】という単語が気になった。
ソレイユがどういう意味で【映える】と言ったのかまでは分からないが、もしその単語の意味が俺の知っている言葉通りの意味であるのならば・・・もしかしたら彼女も俺と同じようにあっちの世界のことを知っている可能性がある。
それはつまり転生か転移・・・どちらにせよ、その可能性が少しでもあるのなら彼女に聞く以外に選択肢はないかもしれない。
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