第127話 俺、異世界で本屋の店主レイヴンに出会う
ドアを開け、物置小屋に足を踏み込んだ俺は視界に入った光景を受け入れられず、口をあんぐりと開きその場で停止してしまった。
俺のあとに続いて入ってきたエリンも俺と同じような状態に陥っていた。
システィはいつも通り冷静沈着な様子で俺が開けたドアをゆっくりと音が出ないように閉めていた。
正確な寸法までは分からないが、横は3メートルほど奥行きが2メートルで高さも2メートルほどの物置小屋に入ったはず・・・そのはずなのに中の空間は高さ8メートルぐらいはあるんじゃないかというほどに天井が高いだけでなく、さらにとても大きな天窓まで完備していた。
その窓からは綺麗な澄んだ青空が見えているし、鳥が羽ばたいて飛行している。
左右を見渡すと、高さ5メートル横3メートルはあるであろう巨大な本棚が列を作る様にズラリと隙間なく配置されている。
移動用にスペースも設けられているのだがそれも2メートルも間隔が空いていて、すれ違う際に邪魔にならないように十分にスペースを確保している。
それらが10~20・・・ほど設けられている、全ての本棚にもギッシリと本が収納されていた。
10,000冊はざらにあるんじゃないだろうか・・・と頭の中で考えているとどこからか女性らしき声が空間全体に響いた。
「お客さんとは実に・・・実にめずらしい・・・いらっしゃい・・・・・・どうぞごゆっくり・・・」
そのどこからか聞こえたのか分からない声の持ち主を探すため、咄嗟に周囲を見渡すが本人らしき人物どころか俺たち3人以外人っ子一人いない。
相も変わらず膨大な量の本棚と本・・・それに尋常ではないこの広い空間しか視界に入らなかった。
このままウロウロしたところでここの店主には会えないような気がした俺は試しにこの本のみが存在する空間にここに来た目的を叫んでみることにした。
「すいませ~ん!!師匠・・・イクストリアからテレポートの魔法書を購入するように言われてきたんですけどぉ~!!」
俺たちがここに来た目的を叫び終えると・・・またどこからか声が聞こえた。
「あれの知り合いか・・・なるほど、なるほど・・・じゃ顔を見せないと・・・あれに失礼というものか・・・・・・な?」
その言葉を最後にプツン・・・と話が途切れたと思った瞬間、俺の正面に黒一色のドアが現れた。
ドアノブも無いその漆黒で塗られたドアがギィィィっとゆっくり開いていく・・・開いた隙間を覗くが、そのドアの先には何もないというか、ドアのようにただ黒い・・・漆黒の空間が広がっているだけで人も物も何も見えなかった。
ドアが完全に開き切ったところでガチャっと、存在しないはずのドアノブに鍵を差して回し開錠するような音が聞こえた。
まず最初に見えたのは右脚・・・次に左手と徐々に漆黒の空間からここの本屋の店主をかたどっているパーツが姿を現していく。
そして最後に頭部が出てくると、俺たち3人をサッと一往復する感じでチラッと見た。
店主の身体が全て謎の空間から現れたところで、黒一色のドアはスッと音もなく消滅した。
謎の空間から出てきた店主である彼女の姿を見た時、なぜかレイランのことを思い浮かべてしまった。
黒一色を身にまとっている彼女はさらに漆黒の羽根にオッドアイ、右眼が青、左眼が緑という中二病をくすぐる容姿をしていた。
それと・・・当たり前のようにまた鑑定不可であった・・・。
胸元あたりまで伸びた群青色の髪を後ろで一纏めにしながら、彼女は気だるそうに自己紹介をしてくれた。
「どうも・・・ここの店主のレイヴン・・・」
「やっと会えたな、俺の名前はアスティナ、でこっちのエルフがエリンであっちのメイドがシスティっていうんだ。よろしくな!」
「なるほど、なるほど・・・どれも魔力申し分ない・・・・・・これなら中に入ることも容易・・・」
「レイヴンさん、早速で悪いんだけどテレポートの魔法書を売って欲しんだ、このあとも色々と立て込んでいてさ・・・」
「そうだった・・・ちょっと待って・・・・・・」
言葉が少したどたどしい彼女はそう言うと、自身の左手を天井に向かって伸ばし何かを口ずさみ始めた。
耳を澄まして彼女が何を言っているのか聞いてみる・・・すると「テレポート・・・テレポート・・・テレポート・・・」とただただテレポートを連呼しているだけだった。
テレポートを言い始めて10回目の時、先ほどまで静かだった空間に急にガタガタガタッ!っと何かが振動するような音が聞こえた。
間もなくその音も消え、彼女の連呼も終わり静寂が訪れる。
このあとどうなるのか少しワクワクしながら待っていると、次にビュンッ!っと何かが空を切って、飛びながらこっちに向かって来ているのか、はじめは遠くの方で聞こえていた音が徐々に近くに聞こえてくる。
そして気づいた時には彼女の左手にその音を出していた物体が着地していた。
その手にあるものを見てみると・・・そこにあったのは数ページしかない本と呼ぶにはいささか無理がある・・・A4の用紙を数枚ホッチキスで止めたかのような代物の魔法書だった。
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