第108話 俺、異世界でシャドーウルフのフルコースを食す
俺たちが帰ってくるのを待ってましたと言わんばかりにリリアーヌは「おかえり!おと~さん、みんな帰ってきたよ」と出迎えてくれた。
すぐにリリアーヌは俺たちを席に案内すると、ニコニコしながらエリンの顔を次に俺の顔を順番に見て俺にコソっと耳打ちをしてきた。
「アスティナちゃん、お父さんすっごい張り切ってご飯作ってたから、きっとエリンお姉ちゃんも喜んでくれると思うよ!!」
「そうだと・・・いいんだがな。あー、いや、ゲオリオさんの料理がどうとか言うわけじゃないんだけど・・・」
「アスティナちゃんはエリンお姉ちゃんのこと本当に大好きだもんね、全部言わなくても分かってる♪」
リリアーヌはそう言い残すと、他のお客さんのとこに注文を取りに行った。
昼にランチを食べた時は閑古鳥が鳴くほどに客がいなかったが、いまは満員御礼でリリアーヌが機転を利かして席を予約しておいてくれなければ、せっかくのシャドーウルフの肉を使った料理を食べる機会を失ってしまうところだった。
作った料理をそのままストレージに収容して、他の場所で食べてもいいんだが・・・宿屋の部屋だと4人は狭すぎるし、また師匠の家に行くのもだるい、そもそも師匠の家にはテーブルすらないしな、まぁセンチネルの部屋を使えばいいんだけどな。
あの部屋には大きなテーブルとそのテーブルを挟むようにソファーがふたつ配置されている。
そういう意味でもあの部屋は完璧なのだが、ご飯を食べるためだけに部屋を貸してとは・・・言えなくもないが、それを言うとまたセンチネルから面倒くさい依頼をやらされそうだし、やはり最後の手段だな。
エリンはリリアーヌが注文も聞かずにそのまま向こうに行ったことを俺に聞いてきたので、彼女に今日食べる料理は決めていることを伝えた。
師匠は料理よりもワインが飲みたくて仕方がないのか、ずっと俺にワインをストレージから出せと言ってくるが、俺は頑なに料理が届いてから取り出すと言って断り続けた。
それからいろんな料理が俺たちのテーブルに並べられていき、全部出揃った時には料理は10種類は優に超えていた。
煮込み、焼き、炙り、炒め、蒸し・・・他にも色々な調理方法で料理が作られていた。
あとでゲオリオさんに頼んで持ち帰り用の料理を作ってもらおうことにしよう、セルーンにも食べてもらいたいしな。
師匠は料理が出揃ったことを俺に尋ねるとワインを用意するように催促してきた。
師匠はワインでいいとして、エリンとシスティは何が飲みたいのか聞いてみたがふたりとも同じワインで構わないらしい。
リリアーヌが用意してくれた空のグラスに赤ワインを注ぐと師匠はすぐに手に取り、今か今かと乾杯の合図を待っている。
どんだけ飲みたいんだよと思いつつ、エリンとシスティの目の前にそれぞれグラスを置いた。
目の前に並べられた料理の数々を見たエリンは目を丸くして、俺にこの状況について質問をしてきた。
「ねぇアスティナ・・・なんかすごい豪華なんだけど・・・・・・今日なにかの記念日?」
「記念日といえば、記念日ではあるな・・・オークキング討伐したことを祝して、それと頑張ったエリンとシスティにかんぱ~い!!」
俺の乾杯の合図と共に師匠は一気にワインを流し込み、手酌ですぐに2回戦を開始しようとしている。
「オークキング・・・わたし途中で気を失って気づいた時にはもうベッドで寝ていたから・・・倒した実感がないのよね、あんまり・・・」
「そんなこと言ったら俺だって、何もしてないからな・・・システィがいなければ・・・っとしんみりとした話は無しだ、無し」
「そういえば、システィっていつ呼べ・・・えっと、こっちに来たの?」
「エリン・・・・・・ギリセーフにしといてやろう・・・えっと、それはだなエリンが気を失ってから数分後に助けに来てくれた」
「ふ~ん、そうなのね。あとあれからセルーンとは一度も会っていないんだけど、ギルドで依頼報告をした後にそのまま別れたの?」
俺はエリンからセルーンのことを聞かれ少し言葉に詰まりながらも「明日、ギルドに依頼の報酬をもらいに行くついでに会いに行こう」と言った。
彼女の返事を聞くために視線をエリンに向けると彼女は一切しゃべることもなく口いっぱいに詰め込み、もぐもぐしながら頷いる。
さすが・・・俺の相棒だわ、さっきまでの会話全てが無かったかのように無我夢中で肉を頬張っている。
豪快に食べるエリンと上品に食すシスティ、そしてワインを浴びるように飲んでいる師匠・・・いまはこの楽しい時間をただただ満喫することにしよう。
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