第106話 俺、異世界で師匠から絵本を買う
号泣したことによって、精神がリセットされたのかやっとシスティも落ち着きを取り戻し、いつもの彼女に戻ったのだが・・・エリンの頭ナデナデはいまだに継続中でまだ終わりそうにない様子。
なんか見たことがあるというか俺もそのエンドレスナデナデやられたことがある・・・。
泣き止めばすぐに終わると思っていたシスティもエリンの行為がなかなか終わらないことに戸惑い始めている。
こっちから言わないとこの行為が延々に続き・・・終わらないと判断したシスティは感謝と共に撫でる行為をやめてほしいとエリンに伝えた。
「エリン様、ありがとうございました・・・もう大丈夫です・・・・・・なので、そろそろ頭を撫でるのをやめて頂きたいのですが・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あの・・・エリン様・・・聞いておられますか・・・・・・あの、エリン様?」
システィの声が一切聞こえていないのか、エリンは無言のまま同じ行動をし続けている。
なかなかやめてもらえずに困っているのか、システィは何か言いたげな様子で隣に座っている俺を見てきた。
俺は彼女に何か助言が出来ないかと周囲を見渡す・・・そして最後に頭を撫で続けるエリンの様子を見た時にやめさせる方法を思いついた。
ただこれを口に出してしまうと、この距離だとエリンにも聞こえてしまう・・・それだと意味がない。
さてさて・・・どうしたものか・・・とりあえずいま思いつくのはこれぐらいだな・・・よし、名前を連呼するか。
「システィ、えっとあれだ、システィ、システィ、システィ・・・ふむ、俺のセンスの無さよ・・・」
システィは俺が自分の名前を連呼していることが助言だと気づいたようで、そこから俺の意図に気づくまでは一瞬だった。
彼女は前回と同じようにエリンに感謝の言葉を述べた。
「ありがとうございます、エリン。もう私めは大丈夫です」
「アスティナといいシスティといい・・・わたしがいないと本当にダメね♪」
今度はちゃんとシスティの声がエリンの耳に届いたようで、彼女はすぐに頭を撫でる手を止めると、なぜかまた俺の背後に移動してきた。
俺がエリンの様子に違和感を感じたのは彼女の撫で方が実に不自然だったからだ。
彼女が髪を撫でる時は常に全力もうそれにしか興味がないと言わんばかりに集中しているはずなのだが、今回の撫で方はなんというかただ前後に動いているだけ・・・感情がこもっていないような撫で方だった。
それにエリンの顔も何か少し悲しそうな、曇った顔をしていたことも気づけた要因の一つだ。
システィをなだめてくれたことをエリンに感謝すると同時にシスティに意地悪したことを指摘した。
エリンはそのことを指摘されると「だって、システィが様をつけてくるから・・・ついね」と微笑みながら答えてくれた。
師匠もシスティが落ち着きを取り戻したのを見たことにより、やっと自分自身も落ち着けたようでまた畳んだ布団に背を預けるとそこに座った。
そういえば・・・ごたごたしてて忘れていたがこの絵本を購入したいって師匠に言わないとな。
「あの師匠、この絵本なんですけど買ってもいいですか?というか買います。はい、銀貨1枚!」
「ご購入ありがとうございます!!」
「えっ・・・師匠、どうしたんですが・・・・・・なんか気持ち悪いです」
「失礼なやつだな、君は・・・僕はここの店主なんだよ。本を買ってくれた人にはこれぐらいはするさ!!」
「そう・・・ですよね。あまりにも本屋として本を売る気がなかったので、言ってるだけかと思っていました・・・」
「本当に失礼なやつだな、君は・・・」
師匠は絵本が売れたことがよほど嬉しかったのか俺が手渡した銀貨1枚を大事に右手で握りしめている。
そんなに本が売れたことが嬉しかったのなら・・・もう少し本屋の経営方針を変えればいいのにと思ってしまう、昼頃まで寝ている上に起きたとしても、ネグリジェ姿でゴロゴロしているのをやめればいいのでは・・・まぁそれ以前にこんな禍々しい外見の建物に足を踏み入れようとは思わない。
彼女は彼女なりに自分の本屋について考えているだろうし、俺がとやかく言う立場にはないかもしれないがあんなに嬉しそうにしている師匠を見るとついそんなことを考えてしまった。
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