第105話 俺、異世界で棒人間の絵を見る
今度は俺が正常に戻るまで10分ほどかかった。その間にシスティは読み終えたらしく、絵本を閉じて表紙をジッと見たまま静止している。
俺はシスティに【女の子とメイド】を読んで思ったこと感じたことを聞いてみた。
「それで・・・システィ、この絵本の物語や描かれている人物だけど、どう思う?」
「そう・・・ですね。まず描かれている女の子と従者ですが・・・驚いたことにお嬢様と私めにそっくりです」
「やっぱシスティもそう思うよな・・・」
「物語は特には何も感じませんでしたが・・・ただ・・・この城と最後の頁に描かれている部屋を見るとなぜか悲しくなります・・・私めにも理解しかねるのですが胸が締められるような何かとても大事なことを忘れているような・・・」
「最後のページ・・・システィちょっと絵本借りるな!」
俺は絵本を手に取り、システィが言っていたページを開きそこに描かれている部屋の絵を確認する。
左上からゼットを描くようにゆっくりと目を動かしながら、システィがそう感じた原因を探るように俺の記憶・・・いやアスティナの記憶を掘り起こすように細かく見ていった。
食い入るように絵を見続けていると、気になる箇所を見つけた。
それは絵画と呼ぶにはあまりにも粗悪な・・・まだ小さな子供が描いたかのようなもので輪郭や手足でなんとなく人が描かれていると判断できる程度の絵なのだが、それを見てから俺もシスティと同じように胸が締め付けられる感じがした。
真っ白なキャンパスにただ黒い線で大小の棒人間が笑顔で手をつないでいる・・ただそれだけの絵なのに・・・なぜこれほど心に突き刺さるのか。
俺は一旦その棒人間から目を離すため他の箇所を見ることにした。結果としてこの行動のおかげでこの絵本に描かれていた城・・・そしてこの部屋を思い出した。
この城・・・それにこの部屋は夢で見たあの城で間違いない。
城の構造や全体図など全く覚えていないがあの大きな扉・・・これといった特徴もない扉だけど、ただ一つだけこれというものがある。
それはなぜか右側の取っ手が壊れているのか上部の固定が外れて、だらんっとしていることだ、たったそれだけと思うからもしれないがわざわざその箇所を描く必要性などないだろうし、それに俺やシスティが感じたことがなによりの証拠となる。
あともう一つ言うならばこの扉から通路が見えるように描かれていれば、夢で見た場所かどうかもっと正確に確認することができたはず・・・。
その描写の絵がないかページをめくり次々と描かれている絵を確認していったが、残念ながらそんな風に描かれている箇所を見つけることは出来なかった。
また最後のページを開くと、俺はシスティに大きな扉を指差しながら彼女に夢で見たことがあることを伝えた。
「夢の中でこの扉を見たんだけど、システィは・・・この扉に見覚えはないか?」
「この扉ですか・・・・・・いえ、私めは見覚えがございません・・・・・・あれ・・・申し訳ありません・・・なぜか涙が・・・あれ・・・・・・」
「ほら、システィこれを使ってくれ・・・」
俺はストレージからタオルを取り出し、泣いているシスティに手渡しながらそう言った。
俺の後ろでこのやり取りを見ていたエリンは何が起こったのか分かってはいない様子だったが、昔号泣した俺をなだめてくれた時のように、よしよしと彼女の頭をナデナデしている。
それが彼女の号泣スイッチだったようでそこからずっとシスティは泣き続けた。
テカテカしていた師匠もさすがにシスティが泣いていることに驚いたのか、急に冷静になったと思ったら今度は何をしたらいいのか分からず、おどおどしながらひたすら周囲を歩き回っている。
今日はシスティのおかげで色んな師匠が見れるなと思いながらも、システィの記憶を取り戻すことを心に誓った。
システィの記憶を取り戻すことが出来たのなら、過去に起こった出来事を知ることが出来る・・・それは過去のアスティナを知る手掛かりにもなる。
それに・・・アスティナが本当のお姉ちゃんのように慕っていたシスティが泣き崩れるほどに大事な記憶、それはきっとアスティナにとっても忘れてはいけない大事な記憶のはずだ・・・。
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