時を超えた清算
「……なるほど。人事には良く言っておく必要がありそうですね」
「ちっ……違う! あたしは関係ない!」
景雪の不穏な言葉に、希美は反射的に叫んだ。
「篤史たちが勝手にやったことで、あたしは別に……!」
「は!? ふざけんなよテメェ! テメェが小鳥遊酔わせてマワせって言ったんだろうが!」
「やめてよ! 就職取り消されたらアンタのせいだからね!?」
「知るかよ! 中学んときの仕返ししてやろうぜって言ったのはお前だろ!? 今更自分だけ他人ヅラしてんじゃねーよ!」
「希美ってそーゆーとこあるよね。中学んときアイツが怪我したのに真っ先に置いて逃げようって言ったのもアンタだったし?」
「アンタらだって一言も助けようなんて言わなかったじゃん! なに人のせいにしてるわけ!? それにアイツを突き飛ばしたのは篤史なんだから、悪いのは篤史でしょ!?」
すっかり火がついて醜い言い争いをしている隙に、景雪は小羽を抱えて駐車場を離れた。景雪と小羽が見えなくなったのを確かめから、帯刀も静かにその場を離れる。と、パトカーのサイレンが会場に近付いて来るのが聞こえ、四人は思わずビクリと肩を竦ませた。思わず罪を押しつけ合って叫んでいたのも忘れてじっと押し黙る。其処で漸く小羽たちがいなくなっていることに気付くが、最早それどころではなかった。
「アイツ、逃げやがった……!」
「もういいから行こうよ! 成人式にパクられたとか洒落になんないって!」
篤史が忌々しげに舌打ちし、もう一人の女がそう叫ぶと、男の片割れが運転席に駆け込んだ。
だが既に出入り口はパトカーに封鎖されていて、逃げることは出来なかった。呼ばれた教師や、歓談していた元クラスメイトたちが何事かと外に出てきて、衆目環視に晒される。
「なんか外で喚いてるのがいると思ってたら、希美たちだったんだ」
「え……なに? 希美のヤツ、まだ小鳥遊さんに執着してたの?」
「中学んときにイジメてた相手を成人してまでイジメるとかないわ……」
「さっき酔わせてマワせって叫んでたけど、マジでヤろうとしてたってこと? 成人式に?」
「篤史って大学でもサークルで似たようなことして停学食らったらしいじゃん。反省してないってことだよね。ヤバ……下半身サルかよ」
噂が憶測を呼び、憶測が形を得る。実際のところはどうなのかを考慮する者は居らず、見た目と言動、そして警官を呼ばれる事態を引き起こしたという事実が結びついて膨らんでいく。
警官の一人と帯刀が話していたかと思うと、指示を受けた警官が複数駆け寄ってきて希美たちの車を取り囲んだ。
先ほどの言い争いを録音されていたらしく、詳しく話を聞きたいと告げる。篤史が警官に食って掛かるが、反抗すればするほど不利になると言われ、苛立ちを露わにハンドルを殴りつけた。
車から降ろされ、パトカーへと乗せられていく。その際、遠巻きに野次馬をしていた元同級生がスマートフォンを構えているのに気付き、篤史が警官の手を振り払って駆け出した。
「テメェ! なに撮ってんだよ!!」
「きゃあ!?」
スマートフォンを叩き落として襟に掴みかかったところで取り押さえられ、手錠がかけられる。二人がかりで抑えつけながら連行されていく最中、撮影していた女性を睨みながら叫んだ。
「顔覚えたからな!! テメェも覚えてろよ!!」
頭を抑えつけて車に押し込められ、左右を警官に固められた状態で去って行く。
三つ子の魂という言葉を悪い意味で体現している四人組は、当時の罪も含めて償う羽目となり、今度こそ地元から遠く離れた地で生きていくことになるのだった。




