悪夢の再来
「オレらはソイツに用があんだよ。関係ないヤツはすっこんでろ」
「同級生の久々の交流を邪魔しようってのか? あ?」
それらしいことを並べながら睨み付けるという器用な真似をする男たちを見据えたまま、帯刀は背後の小羽に語りかけた。
「……だ、そうですが。小羽様はあちらの方々とご友人でいらっしゃるのですか」
「っ、いえ……名前も知りません」
「はぁ!? ふざけんなし!」
「うちらアンタのせいで引っ越す羽目になったんじゃん!」
小羽の言葉に反応したのは、奥で待機していた女たちのほうだった。
引っ越す羽目になったという言葉で思い当たるのは、景雪と出逢うきっかけとなったあの事件。男女四人組に小突き回された挙げ句に大怪我を負い、数日入院した、あの。
あのとき、紗夜は町から追い出したと言っていたが、法の番人でも独裁者でもない人間の出来ることは限られている。恐らく子会社に勤める両親を左遷するなど、可能な範囲で町から遠ざけたのだろう。
しかし事件のことは思い出せても、やはり名前や顔までは思い出せなかった。男二人女二人の、男女四人組であること、一番体格の良い男子に突き飛ばされたこと、うち一人の女子が逃げようと言って、小羽を捨て置いて逃げたこと。思い返しても、起きた出来事は鮮明に思い出せるのに。
「散々可愛がってやったのに覚えてねーとか、マジ調子のんなよ」
「もういいからさぁ、そんなやつさっさと片付けていこーよ。早く酒飲みてーんだけどぉ」
苛立ちながら、女二人が男たちを焚きつける。男たちも、転がされた雪辱を物理で返さなければ気が済まないと口元に笑みを張り付けて小羽と帯刀を睨めつけた。
「……仕方ないですね」
帯刀が嘆息したのと同時に、男が勢いをつけて殴りかかってきた。その拳をいなすと相手の力を利用して体勢を崩させ、再び地面に転がした。
「テメェ!!」
もう一人も容易くかわし、先に倒した男の上に重ねるようにして転ばせた。
眉一つ動かさずに二人を片付けるとインカム越しに呟き、更に端末を操作して何処かへかけた。話している内容からして警察に通報しているらしく、車の中で待機している女たちが焦りの表情を浮かべる。
「時間がかかりそうですし、小羽様は社長のところへ……」
「その必要はない。帯刀。なにがあった?」
帯刀が小羽を先に向かわせようとしたとき、二人の背後から声が掛かった。振り向けば、二人の背後にいつの間にか景雪がいて、小羽の肩を抱いていた。
「彼らが力尽くで小羽様を誘拐しようとしていまして。対処を」
「そうか。……小羽さん、お怪我はありませんか?」
「はい……お待たせしてしまってすみません……」
「小羽さんが無事なら良いのです。本当に、なにもなくて良かった……」
景雪は小羽に優しく微笑みかけると、真逆の冷たい眼差しを四人組へと向けた。
呆然としていた四人だったが、そのうちの一人、友人に希美と呼ばれていた女がハッとした顔になり「あの人……!」と景雪を見つめて声を上げた。
「希美、あの人知ってんの?」
「どうしよう……あの人、あたしが就職決めた会社の社長さんだ……なんでこんなとこに……」
「は? マジで? じゃあ、あの人がアンタが狙ってたイケメン社長?」
潜めた声で言う希美に対し、もう一人の女は感情のままに声を張り上げた。希美が慌てて「声がデカいよ!」と諫めるも、この場にいる全員に聞こえてしまっている。
青い顔をしながらも、景雪に肩を抱かれている小羽を憎々しげに睨むという何とも器用な真似をしてから、希美はそろりと景雪の顔色を窺った。




