変わらないもの
中学時代の同級生とは、卒業と同時に連絡を取らなくなった。誰が何処でなにをしているのか、全く知る機会もないままに今日を迎えている。
そのせいで、いま目の前にいる男女が誰なのか、すぐに思い出せない。抑も中学時代に此処まで派手な格好をした人はいなかったはずで、約五年の年月が記憶をより霞ませていた。だが、女性の一人は式の前に小羽の斜め前で職場について話していた人の片割れで、友人からは希美と呼ばれていたことを思い出した。
「うちらこのあと二次会行くんだけど、小鳥遊さんも来ない?」
「どうせいまでもぼっちでしょ? せっかくの成人式なんだし、このまま帰るの勿体ないじゃん」
「オレらが羽目の外し方教えてやるからさ、来るよな?」
男の一人が馴れ馴れしく小羽の肩に手を置き、ぐっと力を込めた。まさか自分たちに逆らうわけないだろうな、と圧力をかけていることが、手のひらから伝わってくる。
彼らの小羽を見る目は道具としての女体を見る目だった。記憶の端にあるストーカー男と同じ。目の前の人間を、自分の欲を満たすためのものとしか認識していない目。
怖くないと言えば嘘になる。けれど小羽は、中学時代のように怯えて俯くことなく、真っ直ぐに見据えて「ごめんなさい」と断った。
「約束があるので」
一瞬なにを言われたのか理解出来ない顔で、四人ともがぽかんとした表情になった。だがすぐに気を取り直すと、小羽を睨み付ける。
「そう言えば引き下がると思って言ってるだけでしょ?」
「わざわざ誘ってやってんのに、断るわけ?」
「なあ、もういいじゃん。連れて行こうぜ。此処で帯解いてやれば抵抗する気もなくなるだろ」
「いいな、それ」
あくまで小羽に頷かせようと圧力をかける女二人組に対し、男二人は焦れたように言うと小羽に手を伸ばしてきた。
いまは第二部が始まっている時間帯。帰路についた人も、歓談のホールに向かった人も既に姿はなく、駐車場付近にいるのは小羽たちだけだ。騒がれる前に車に詰め込んでしまおうと、男の手が左右から小羽を捕らえた。
「離して!」
叫びながら身を捩るが、男の力には到底敵わない。
「うるせえよ!」
「いや、お前もあんま大声出すなって」
「ねえ、鍵開けたよー」
「よっしゃ、行こうぜ」
後部座席の扉を開けながら、女が手招く。其処へ引きずり込もうと小羽の腕を掴んでいた手が、不意に「ぎゃっ」という短い悲鳴と共に引き剥がされた。
「何―――ッ!?」
何事かともう一人が振り向きかけたその横っ面に衝撃が走り、袴なのも構わず地面に転がった。小羽の周囲には腕を押さえて蹲る男が一人と、頬を赤く腫れ上がらせて地面に倒れ伏す男が一人。
そして背後には、怜悧な美貌の男性が一人立っていた。
「小羽様、お探し致しました」
「帯刀さん」
恭しく一礼して小羽を見据えるこの男は、出逢った当初は景雪の運転手として紹介された人だ。実際は幼馴染同然に幼少期から付き添っている景雪専属執事で、一口に執事とはいうものの秘書やボディーガードも兼ねた凄い人だと聞いている。
「すみません……景雪さんは、どちらに?」
「どうぞ、ご案内致します」
小羽をエスコートしつつ立ち去りかけた二人の背に、懲りもせず「待てよ」と声がかかった。
「なにいきなり現れて勝手なことしてんだよ!」
「てか誰だよテメェ」
いきり立つ男たちの奥で、二人の女は潜めた声で「誰あのイケメン」「小羽様とか言ってたけど何なわけ?」と囁き合っている。
鼻息荒くいまにも掴みかかってきそうな気迫を滲ませている男たちに対し、帯刀は小羽を背後に庇いつつも平静を保っていた。




