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白雪姫と美女と野獣の王子様  作者: 宵宮祀花
七幕◆相愛のセレナーデ
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白雪姫の魔法使い

 結局、雪華の三点セットに加えてイヤリングまで購入し、小羽と景雪は店を出た。

 車に戻った小羽は、無意識に強ばっていた体の緊張を解き、深く息を吐いた。それを見た景雪は申し訳なさそうに眉を下げ、小羽の髪を撫でる。


「すみません。私ばかりが楽しんでしまって」

「え……そんな、とんでもないです」

「ですが小羽さんは、ずっと緊張していたでしょう」

「それは、その……ああいうお店に慣れていないので……」


 不慣れゆえに、緊張していたことは事実だ。けれど、だからといって景雪と過ごす時間に不満があるはずもない。小羽は真っ直ぐに景雪を見つめて想いを紡いだ。


「わたし、まだ社交の場や、ああいうお店で堂々と振る舞えないですけど……景雪さんがわたしのためにって考えて連れてきてくれて、凄くうれしかったです。緊張していたのは、お店の雰囲気もあるんですけど……その……好きな人とのデートなので……っ」


 其処まで言ったところで、景雪に唇を塞がれた。甘く優しい、慈しむような口づけだった。熱のこもった眼差しが注がれると、景雪の熱が伝染ったかのように体が熱くなる。


「小羽さん……後出しですみませんが、今日は私の我儘に付き合ってくださいませんか……?」


 小羽はやわらかく微笑み、こくりと頷いてから景雪の頬に手を添えた。


「わたしは景雪さんといられるなら、どんなところだって楽しいです。それに、景雪さんの世界に触れさせてもらえているようでドキドキします。今日の景雪さんは、わたしにドレスや硝子の靴を与えてくれる魔法使いさんですね」


 無邪気な笑みを間近で受け、景雪はあまりの眩しさに目眩を覚える心地だった。

 宝石に目を輝かせていたときの表情も、ドレスを選んでいたときの眼差しも、あまりにも純心で眩かった。

 いままで景雪が出逢ってきた女性は、彼の容姿や地位や財力に食らいついてくるばかりだった。雪男としているときとの落差に、その人らの本心と本性を思い知ってきた。


『―――朔晦社長って素敵よね。婚約者はいるのかしら』

『確か以前俳優もやってらしたんでしょう? 多彩で裕福で美貌もあるなんて、天は二物も三物も与えるのね』

『それに比べて、あの日月って人、社長と同い年とは思えないわ』

『それどころか、同じ人間にも見えないわよ。醜男って可哀想よね。一生惨めに日陰で生きていくことが生まれた瞬間に決まってしまっているんですもの』


 景雪を褒めそやした口で、雪男を悪し様に侮辱する。たとえ同一人物でなかったとしても、その汚い本性を知って惹かれることなどあり得ないというのに。醜い人間はなにを言われても当然だと言わんばかりの態度に、辟易していた。なのに。


『わたし、今日は雪男さんと一緒に過ごせて、とてもしあわせでした……いまでもまだ、夢を見ているんじゃないかってくらい、とてもしあわせで……』

『他の季節の花も、雪男さんと一緒に見られたらうれしいです』


 小羽は一瞬たりとも、汚いものを見る目で雪男を見たりはしなかった。

 景雪を魔法使いと言ってうれしそうにしている小羽に、景雪は触れるだけの口づけを贈った。


「……では、私も月見里さんのように最高の魔法をお届けしなければなりませんね」

「! それ……覚えていたんですね……」

「ええ。私は星湖座の、そして小羽さんのファンですから」


 景雪の衒いの無い言葉にはにかみ、小羽は頬を染めて「ありがとうございます」と囁く。


「小羽さんの許可も頂いたことですし、次へ参りましょうか」

「は、はい……次は、何処へ……?」


 怖々訊ねる小羽に、景雪はとても良い笑顔で言った。


「コートと手袋を買って、それから美容院へ行きましょう。着替えも必要ですからね」


 約束された高級店の連続に目眩を覚えながらも、小羽は好きな人の日常に触れられる喜びに胸を躍らせた。しかし小羽は次いで向かった店の外観に驚き、内装に圧倒され、そして、売られている商品の値札に並ぶ零の数に絶句することになるのだった。

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