彩られていく白
店員たちの丁寧な見送りを受け、小羽と景雪は店をあとにした。店の裏手にある駐車場に寄り、購入したものを一度トランクに預けてから、はす向かいのジュエリーショップへと向かう。
佐神屋は誰もが知る海外のハイブランドにも並ぶ高品質の宝石を扱うアクセサリーショップで、オリジナルデザインのシリーズを多く展開している。国籍を問わず専属デザイナーを抱えており、ファンの中にははデザイナー買いという剛毅な買い方をする者もいるのだとか。
「小羽さん、寒くはありませんか」
「はい、大丈夫です」
横断歩道を渡り、佐神の屋号を流麗な筆記体で表わしたロゴの刻まれた店を目指す。中に入ると先ほどの店と同様、店員が一人近付いてきて「いらっしゃいませ」とお辞儀をした。
「お探しのものはお決まりでございますか?」
「ネックレスを。先ほどLotusさんで此方の雪華シリーズを薦められてきたんです」
「それはありがとうございます。此方へどうぞ」
そう言って店員が案内したのは、店の中央に鎮座する柱の前に置かれたショーケースだった。
雪華シリーズは毎年冬になると売り出される冬季限定の品で、ダイヤモンドや真珠を使って雪をイメージしたアクセサリーの総称だ。ショーケースの背後に聳える柱にはそのポスターも貼られている。すっきりとした首元に手を添えた横顔の美女がそのアクセサリーを身につけているもので、看板商品らしきネックレスは西洋の城を飾るシャンデリアのよう。
「すごい……どれも綺麗ですね」
「ええ、本当に。小羽さんにはどれが似合うでしょうか……悩みますね」
無数のダイヤが鏤められた豪奢なネックレスや、一粒ダイヤのペンダント、アクアマリンなどの青い宝石を使って雪や雫を表現したものまで、様々ある。そんな中、小羽は六花の中心にルビーが一粒輝いているデザインのものに目を止めた。
「これ……雪の花なのに真ん中が赤い宝石なんですね」
「はい。此方はイギリスのデザイナーによる日本の雪解け、春の訪れをイメージしたネックレスでございます。雪景色の中に咲く紅梅がモチーフだとも言われておりまして、同デザインのピアスとブレスレットも此方にございます」
店員が示したほうを見れば、ネックレスと同じデザインの雪解け紅梅があった。六花モチーフの下にはティアドロップ型のアクアマリンがぶら下がっていて、動きに合わせて揺れる作りになっている。
店員曰くブレスレットやネックレスのチェーンなどはホワイトゴールドとプラチナの二種類あるらしいが、小羽の目にはどちらも眩しいということしかわからなかった。
「それが気になりますか」
「は、はい……でも、せっかくお揃いであるので、三つとも身につけられる方が買ったほうがいい気がして……」
ドレスに加えてネックレスまで買ってもらう現状、三点セットなどとてもねだる気になれない。なにより小羽は、ピアスを空けていないので無駄になってしまう。
そのことを遠慮がちに伝えると、景雪は店員にイヤリングはないのか訊ねた。
「はい。当店の製品は全てイヤリングへの加工も承っております。ただ、一日ほどお時間を頂いてしまうのですが……」
「それだと今夜の食事には間に合いませんね。……しかし、身につけるものは本人の好きなものが一番です。揃いでつけるのは次の機会の楽しみにして、今日はネックレスだけでもどうですか」
「え、い……いいんですか? その……こんなにたくさん……」
小羽は以前に紗夜と訪れたショッピングモール内にある雑貨屋のアクセサリー知識しかないが、子供の小遣いで買える玩具の指輪とは零の数が圧倒的に違うことくらいわかる。添えられた値札の桁はどれも目眩がするような数で、軽々しくほしいとは口に出来ない。
遠慮ですっかり萎縮している小羽の肩を抱き寄せ、旋毛にキスをすると、景雪は店員に「此方の三点をお願いします」と告げた。
「それから、最初からイヤリングになっているものがあれば、其方も見せて頂けますか」
「畏まりました」
えっ、と小羽が驚いて顔を上げるが、景雪は楽しげな表情で店員の案内に従っている。しっかり肩を抱かれている小羽もそれについていくしかなく、雪華シリーズのケースとは別の、イヤリングコーナーに辿り着いてしまった。
そして小羽が遠慮をする暇もなく候補が絞られ、最終的にピンクサファイアのイヤリングを選択した。




