人はそれを一目惚れという
「星湖座は、良い劇団ですね」
「ありがとうございます」
うれしそうに頬を染める小羽の小さな肩を抱き、項にふわりとキスをする。それだけで白い頬がパッと色づくのを見て、景雪は眩しそうに目を細めて小羽を見つめた。
「小羽さんは、たくさんの方に愛されているのですね。先ほどまで、皆さんから小羽さんの自慢を色々と聞いていましたよ」
「えっ、そんな……」
色づいた頬に睫毛の影を落として恥じらう小羽に、景雪は「以前、家族と言っていた意味がよくわかりました」と続ける。
「皆さんとても温かくて、劇団を大切に思っていることが伝わってきます」
自分への褒め言葉はどうにも照れくさいが、劇団を褒められるのは素直にうれしいらしく、淡く染まった頬に喜色を映して、小羽は満面の笑みでありがとうございますと答えた。
それから小羽は、遠くを見ながら、静かに語り始めた。
「……貧乏劇団というのは、本当なんです。それも、私を育てることになってから、余計に規模を縮小してしまって……解散してもやり直せば良いと言っていましたけど、難しかったみたいです」
小羽は眉を下げて目を伏せ、手すりを握る手に力を込める。
「でも、団員の皆さんは誰もわたしを施設に預けるようにとは、言わなかったそうなんです。単に言いづらかっただけかも知れませんけれど……それでも……わたしを家族に加えてくれました」
背後を振り返り、賑やかに談笑する団員たちを見つめてから、景雪を見上げる。小羽は寂しげな表情を消して微笑むと、頬に伸ばされた景雪の大きな手にすり寄った。
「だからわたし、お父さんの劇団でまたお芝居が出来るのが、本当にうれしいんです。景雪さんが守ってくれたお陰です」
「私はきっかけを与えたに過ぎませんよ。小羽さんが手を取ってくださらなければ、あの日雪男は塩を撒かれながら一人で帰るしかありませんでしたからね」
「……それなんですけど……わたし、雪男さんのこと、その……不細工だとか、怖いとか、少しも思わなかったんです」
小羽の言葉に、景雪は僅かに瞠目した。
見た目ではなく性格を見てくれているだけだと思っていたし、外見自体は好ましくないと感じているものだとばかり思っていたのに。
「初めて劇場でお会いしたときから、温かくて優しい方だと思っていましたし……」
「それは、いったいどこで……?」
しかも、そう感じたのは公園で守ったときかと思いきや、初めてのときだと言う。そのときは、梨々香の言を借りるなら「金で女を買いに来た醜男」そのものだったはずだ。
「わたしが転びそうになったとき、手を出しかけていましたから」
「……!」
無意識だったが、確かにあのときは一瞬ひやりとしたのを覚えている。あの小さな体が舞台から落ちれば、当たり所によっては大怪我を負ってしまう。咄嗟に手を出しかけたのは事実だ。結局、蹌踉めいただけだったので安堵したことも、はっきりと覚えている。
「なので、こんなに素敵な方をわたしが独り占めしてしまっていいのかなって、あのときは思っていましたし、外見で苦労なさっているというお話も、どうしてだろうって不思議で……」
「……それは、うれしいですね。随分と褒め殺されてしまいました」
見上げると、景雪は口元を手で覆いながら目を逸らし、耳まで赤く染めていた。




