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白雪姫と美女と野獣の王子様  作者: 宵宮祀花
六幕◆舞台上のキャロル
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お城のパーティ

 颯汰の退院に合わせて打ち上げを行うことになり、窮地を救ってくれた景雪も誘おうと小羽から連絡を入れると、会場が決まっていないなら良い場所があると返信があった。


「お父さん、景雪さんが……」

「へえ、それはありがたいな」

「じゃあ、お願いしてもいい?」

「ああ。お礼のためにお呼びするのに、またお世話になるのは申し訳ないんだが……今年は劇場が使えないから困っていたんだ」


 そういえば、と小羽は例年の打ち上げは劇場で行っていたことを思い出した。皆で家から料理や酒を持ち寄って、内輪らしいささやかなパーティを行うのが通例だった。だが今回は劇場が改装の準備で使えないため、大人数で貸し切れるところを探していたのだ。

 小羽が返信すると、景雪は駅前を待ち合わせ場所に指定してきた。酒や食事は持ってこなくても良いとまで言われて雅臣は恐縮していたが、景雪が用意してくれると言っているのに持っていくというのも失礼になるからと、落ち着かない気持ちを抑えて承諾した。


 そして、当日。

 無事退院した颯汰を含めた団員たちがマイクロバスで運ばれてきたのは、景雪の会社が経営するホテルのイベントホールだった。

 テーブルには大量の料理と飲み物が並び、打ち上げのために用意したらしい大きなケーキや花が会場を彩っている。


「あらやだ。私、普段着で来ちゃったわよ」

「私も。こんな素敵なところだって知ってたら、もうちょっとオシャレしてきたのに」

「月見里さんは普段着が上品だから羨ましいわ」


 色めき立つ女性陣に対し、男性陣はぽかんと口を開けて天井のシャンデリアを見上げている。


「本当にいいんですか? こんなに良い場所を借り切ってしまって……」

「ええ。ホールは大きなイベントがない限り使われないスペースですし。これは皆さんへのお礼も兼ねていますから」

「お礼、ですか……?」


 お礼を言うのは寧ろ此方のほうだと思っていた雅臣は、不思議そうに聞き返した。その傍らでは小羽も同じような表情をして、景雪を見つめている。

 こうして見ていると血の繋がりがないとは思えないくらい、よく似ている。


「私を受け入れてくださった、劇団の皆さんに……そして、そのきっかけを作ってくださった小羽さんに」


 景雪の言葉がまさか自分へ向くとは思っていなかった小羽は、目を丸くしている。そんな小羽にやわらかく微笑みかけ、景雪は静かに続ける。


「ですからどうか、遠慮なさらず。私にはこれくらいしか出来ませんから」

「……わかりました。せっかくですので、お言葉に甘えます」


 景雪にそう答えると、雅臣は一つ手を叩いて皆の注意を向けた。


「皆、せっかくの朔晦さんのご厚意だ。乾杯と行こう」


 それぞれ近くのテーブルに向かい、シャンパンを注ぐ。未成年の小羽と颯汰にはノンアルコールドリンクが渡され、全員にグラスが行き渡ったところで再び雅臣に視線が集まった。


「それでは。無事千秋楽を迎えられたこと。颯汰の退院祝いと、それから、劇場の改装を祈って」

「乾杯!!」


 音頭と共に皆でグラスを掲げ、打ち上げが始まった。

 基本は立食形式だが、まだ松葉杖をついている颯汰のためにも長椅子が置かれており、横並びで談笑しながら食事を楽しむことも出来る。

 小羽が空になったグラスを置きに隅の食器台へ向かうと、颯汰が近付いてきた。


「話したいことがあるんだ。……ちょっとだけ、付き合ってくれないかな」


 真剣なその眼差しに、小羽はチラリと景雪を見てから頷いた。景雪は団長と話しており、いまは手が空きそうにない。だから颯汰も来たのだろう。

 松葉杖の颯汰を気遣いながら、小羽は彼について行った。


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