大団円の種明かし
保育園の子供たちや来客を見送りに出ていた団長が舞台裏に戻ると、なにやら既に打ち上げでも始まっているかのような空気になっており、思わず面食らった。
「あっ、団長! おめでとうございます!」
「な……なにがあったんだ?……というか小羽、どうした、泣いたりして」
なにが何だかわからないといった様子の団長に、団員たちが揃って祝福の言葉を投げかける。
益々訳がわからない状態になったところで、紗夜が進み出て事情を話した。まず、代役を務めた人が朔晦財閥の御曹司であり、また、本人も複数の会社を所有する優秀なCEOであること。更にその人が、数日前から付き合っている小羽の恋人であること。実は過去に少しだけ俳優をしていたことがあり、代役としては十分過ぎる人材だったこと。
彼の演技は団長も舞台袖から見ていたので知っているが、まさかそれほどの人物とは思いもしていなかったため、絶句してしまった。
「……そうですか、あなたが小羽の……」
「ええ。ご挨拶が遅れて申し訳ないです。劇団が落ち着かれましたら、改めてご挨拶に伺います」
それから此方は団員向けにだが、紗夜は全てを知った上で『雪男』と小羽を引き合わせたことを白状した。
「此処からは私が説明致します」
まだ若干混乱している団長に、景雪が引き継いで話し始めた。
「劇場の取り潰しについてですが、私が此方の劇場を買い取らせて頂きました。先方は随分無茶を通して此方を潰そうとなさっていたようで、取り引きに関しては難しくはありませんでした」
皇勲は権力に取り憑かれた男で、この劇場を潰してホテルを建てると言い出したのも、社交界に名を刻みたいがための行いだった。此処にホテルが必要だから建てるわけではなく、更に言うなら近所からの苦情というのも、彼の手先が無理矢理誘導尋問で引っ張り出したものに過ぎなかった。
取り潰し計画に加えて皇家の跡目争いに関する証拠をかき集めた結果、先代の処方箋に細工して持病を悪化させていたことが判明。いまは地方に追放され、あらゆる権利が剥奪されている。
が、其処は景雪も語らずに置いて、今後は彼に脅かされる心配はないとだけ伝えた。
「皇家も、今後は安定することでしょう。劇場のことも含め、皆さんはどうかご心配なく」
景雪は団員を見回して、マイクいらずの良く通るやわらかな声で続ける。
「皆さんにも不安な思いをさせてしまい、申し訳ないことを致しました」
「いえ……ていうか、私たちも九条のこと言えないような態度取っちゃってましたから……」
団員たちは、初めて日月が劇場を訪れたとき、自分たちが不審者を見る目で見てしまったことを覚えている。梨々香ほどあからさまに嫌悪感を剥き出しにして攻撃したりはしなかったが、内心でどう思っていたかは自分が一番よくわかっている。
小羽に話を聞くまで、或いは聞いてからも、彼女が騙されているとさえ思っていたほどだ。もし相手が初めから景雪だとわかっていたら、そんなことは思いもしなかっただろう。
気まずそうな団員に対して、景雪はさらりと「慣れていますから」と言った。
「少なくとも皆さんは、良識ある判断をされたと思いますよ。小羽さんが特殊なだけで」
「えっ、わたしですか……?」
突然話を振られて驚いている小羽だが、周りは顔に「ああ、確かに」と書かれていそうな表情で小羽を見ている。一人わけがわかっていない小羽が紗夜を見ると、紗夜は愛おしげな笑みで頷き、景雪に同意した。
「わたし、なにかおかしなことをしてしまいましたか……?」
「いいえ、なにも。そうですよね、月見里さん」
「ええ。小羽がとってもいい子だって話だもの」
依然疑問符に塗れている小羽を見つめる、二人の眼差しはとても優しい。




