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白雪姫と美女と野獣の王子様  作者: 宵宮祀花
五幕◆舞台裏のバラッド
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光の外で

 梨々香は、東京へ向かう電車に揺られながらひたすらスマートフォンで文字を打ち込んでいた。長く伸ばしネイルアートで飾った爪をものともせずに、慣れた手つきでひたすら心のままに怨嗟を書き殴り続ける。

 小羽を隠し撮りした画像には『ヒロイン気取りの勘違いブス』と添え、練習風景を陰で撮影した一分ほどの動画には『大根女の無駄な努力』『この程度の演技力でヒロインとか、さすが弱小貧乏劇団』と添える。小羽への中傷に紛れて『あたしは一七夜月座の女優だから、あんな底辺ブスとは違う』と、まだ所属どころかオーディションも受けていない一七夜月座の名を出していた。

 いままでは人目を気にして、三人の仲間たちと裏アカで言い合っていられれば良かった。だが、彼女たちがいないなら、それを目にする人もいないということ。誰も見ていないところで零しても誰の傷にもならない。だから、表のアカウントで吐き出した。

 一頻り言いたいことを言い終え、目的地に着くと、梨々香はストレスをぶつけるかのように遊びほうけた。家に帰らず、漫画喫茶で夜を明かし、また遊ぶ。

 人待ち顔でナンパスポットである駅前の街路樹を取り囲む花壇に座っていれば、体目当ての男はいくらでも寄ってくる。


「なぁに? おじさん、その顔で三万とかひどくなぁい? そんな暇があるなら鏡買いに行ったらどうですかぁ?」


 そういった男に唾を吐い追い返してやるのが楽しかった。少しは胸がすく思いがしたところで、数日ぶりにスマートフォンを開くと、メールが届いていた。差出人は一七夜月座だ。

 開いてみれば、堅苦しい文章で長々と前置いてから、勧誘を取り消す旨が記されていた。


「え……? なんで……」


 全体的に小難しい書き方をしているが、要するに担当者がSNSを確認したところ、劇団に所属する上で必要な管理能力に欠けているということだった。一七夜月座に所属していない人間がさも団員であるかのように振る舞い、悪辣な言動を繰り返すことは劇団の名誉を傷つけることになる。発言を撤回し、以降の言動を改めない場合は法的手段も辞さないと添えられていた。

 何故見つかったのかとの自問には、SNSのダイレクトメールに答えがあった。


「は……? なんでっ!? 意味わかんない!!」


 往来であることも忘れ、思わず大声が出た。

 一七夜月座のファンを名乗る、捨てアカウントらしき初期状態のアカウントから、一七夜月座に本当に所属しているのか確認を取ったということと、中傷や晒し行為のスクリーンショットを確保しているという内容が、数日前に送られてきていたのだ。

 更にそのアカウントは注意喚起と称して一七夜月座の団員を名乗る偽アカウントが、劇団の名に傷をつける行為を繰り返しているといった内容の記事を拡散しており、梨々香のアカウントが所謂炎上状態になっていた。

 過去の投稿や画像も何千何百と拡散され、其処に『勘違いブス』『自己紹介乙w』『晒されてる子、例の天才少女じゃね?』『嫉妬かよオバハン』と、梨々香への中傷に加えて、よりにもよって小羽を褒めるコメントが添えられていた。

 怒りで頭が真っ白になりかけたところへ、見覚えのある場所の画像が添付された投稿を見つけ、目を見開いた。その画像は自分を斜め後ろから撮影したもので、しかも周りの様子からほんの数分前に此処で撮られたものだった。


「っ!?」


 慌てて周りを見るが、それらしい人影は見当たらない。画像には『隠し撮り晒されるってどんな気持ち? ねえねえどんな気持ち?w』と煽るような一文があり、明らかに梨々香の行いを本人にやり返して嗤っていた。


「ひどい……! 梨々香が羨ましいからって、こんなひどいことするなんて……」


 小羽のせいだ。なにもかもを奪ったあの女。煮えたぎる憎悪を本人にぶつけてやらなければと、梨々香は電話帳から初めて小羽の番号を呼び出してかけた。が、数回のコールののち、ぶっつりと切られてしまい、慌ててかけ直すも着信拒否されていた。劇団の番号も通じず、他の団員はとうに梨々香の番号を削除していたらしく、端から通じない。

 あっという間に全てを失った梨々香は、暫く呆然とその場に座り込むことしか出来なかった。

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