嵐のあとのお片付け
嵐が去って、団員たちは疲れた表情で溜息を吐いた。
「すまないね。もっと早く決断していれば、皆にこんな想いをさせずに済んだんだが……」
「いえ、アイツもその辺はわかってたんで、チマチマした嫌がらせばっかでしたから」
「でも、これで建て直すときはアイツに気を取られなくて済みますね。俺たちはこれからも団長についていきますよ」
どこかさっぱりした様子の団員たちに、団長は、申し訳ないやら情けないやらうれしいやらの、複雑な表情で感謝の意を伝えた。
「一番つらかったのは小羽ちゃんだよね……最年少だからって目の敵にされてたし」
「本格的に暴力振るわれる前に、アイツから出て行くって言ってくれて良かった」
気遣わしげな団員たちに対し、小羽は恐縮しながら「わたしはへいきです」と笑って見せた。
「それより、鏑木は大丈夫か? 急な代役になったが」
「大丈夫です。当日ドタキャンされてもいいように、全部覚えてますので」
「うわ、アイツならやりそう……」
その心配はなくなったが、前日でのキャスト変更という、似たようなことにはなってしまった。鏑木と呼ばれた女性団員は、若干緊張している様子ではあるが、それを悟られまいと努めて笑顔を作り、重ねてお任せくださいと言った。
それから、ふとなにかを思い出したように「あっ」と声をあげた。
「そういえば、私のアカウントに小羽ちゃんの取材を申し込むDMが来たことがあるんです」
「わたしの、ですか……? 鏑木先輩ではなく……?」
鏑木は頷き、実はね、と前置いてから話し始めた。
「さっき、一七夜月座の名前が出たから思い出したんですけど……」
何でも、自分が所属している劇団に、奇跡のような天才少女がいると呟いたことが発端らしい。最初はSNS上によくある誇張表現だと誰も相手にしていなかったのだが、仲の良い団員同士でも繋がっていて、その友人たちと今日の演技も良かった、此処に所属して正解だったと話すうちに、じわじわと投稿が注目され始めたのだという。
取材といっても大手メディアではなく、ネット上の記事を取り扱うウェブメディアで、アニメや漫画、声優などのオタク向け記事を中心に、演劇や2.5次元俳優などを取り扱うサイトらしい。気になっていくつか記事を読んでみたが、所謂炎上商法でアクセス数を稼ぐタイプのメディアではなく、丁寧な取材を元に記事を書くところだった。
そのときに見た一七夜月座についての記事も、これまで演劇に縁がなかった人にも興味を持ってもらえそうな良記事だったので、もしまた縁があればお願いしたいと思えたという。
「私はそんな権限ないので断ったんですけど……劇団の名前は、団長が前に所属先くらいは載せていいって仰ってたんで、bioに載せてるんです。だからもしかしたら、そのうち他の人にも取材許可を取りに来るかも知れません」
或いは其処まで粘らず、他を探すかも知れないと付け加え、鏑木は申し訳なさそうに俯いた。
「まあ、何にせよいまはそういったものに答える時期じゃないからね。当分は忙しくなるし」
「ですよね……劇団が落ち着いた頃に、またご縁があるといいんですけど」
話しながら、梨々香が蹴散らした小道具を纏めて片付ける。小道具も皆、いざ使うとなったとき探す羽目にならないよう、出番に合わせて置き場所が決められている。
一度蹴散らしただけでは飽き足らず、通り道にあるもの全てをばらまいていったらしく、正しい位置にあるものは、殴った手や蹴った足が怪我をしそうな書割と大道具だけという有様だった。




