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白雪姫と美女と野獣の王子様  作者: 宵宮祀花
幕間◆追想のベルスーズ
33/75

いつか出逢うために

「……そういえば、そのときから小羽は白雪姫が一番大好きになったのよね」


 昔語りを終えた小羽に、紗夜はそう付け足した。


「うん。本物の白雪姫みたいに、綺麗になれたらいいなって……わたしの目標でもあるの」


 そう言うと、小羽は眩しそうな表情で紗夜を見つめた。


「わたしにとっての白雪姫はね、紗夜ちゃんだよ」

「私……?」


 目を丸くする紗夜に、小羽は迷いなく頷く。


「初めて絵本で白雪姫の姿を見たとき、紗夜ちゃんだって思ったの。綺麗な黒髪と、滑らかな肌、それから綺麗な紅い唇でしょう? わたし、昔の人が紗夜ちゃんのことを見てお話を書いたのかと思ったんだよ」


 子供ならではの時間軸を無視した幻想に、小羽は笑いながら、そんなはずないのにね、と言う。けれど本当にそう思ってしまうくらい、小羽の目にはそっくりに映っていた。

 紗夜は艶やかな長い黒髪と、長い睫毛に覆われた黒い瞳、色白の傷もシミもない綺麗な肌、淡く色づいた形の良い唇を持った、絵に描いたような美少女だ。更にお稽古事でバレエや社交ダンス、ヴァイオリンやピアノやお花なども習っており、所作も洗練されている。ただ見目が良いだけではない内側から輝くような魂を持つ紗夜は、小羽にとって誰より綺麗なお姫様なのだ。


「独りぼっちで寂しかったわたしに、初めて普通に声をかけてくれたのが紗夜ちゃんだったの」

「それなら、私だって同じことだわ」


 あのとき、小羽は紗夜を純粋に心配してくれた。他の子供たちのように、何故一人だけ車なの、何故特別扱いされてるのと、好奇や羨望、嫉妬で囃し立てたりしなかった。小羽が純白なのは外見だけじゃないと知った。

 千の色に染まる、純白の心。数多の悪意に触れて尚、潔癖であり続ける無二の白。演者としても一人の少女としても、小羽以上の存在はいないと紗夜は確信している。


「……だから私にとってのお姫様も、小羽なのよ」


 愛おしさを口づけで表わせば、小羽は擽ったそうに微笑む。本物の姉妹以上に近い距離にも何の違和感を抱くこともなく、純粋な愛情表現として受け入れている。


「再来月のお芝居は、白雪姫だったんだよね」


 紗夜に寄り添いながら、小羽はぽつりと呟いた。言っても詮無いことだが、あのときの王子様に見つけてもらえるかも知れないと淡い期待を抱いていただけに、落胆も一入だ。


「そうね……でも、区切りをつけてしまわなくて良かったのかも知れないわ」

「? どういうこと?」

「だって、小羽はこれからもお芝居をするのでしょう? 最後にと思って演じてしまうと、あとがつらくなるかも知れないじゃない」

「そっか……場所が変わっても、演劇は続けられるんだもんね」


 紗夜は優しく頷いて見せ、小羽の頭を宥めるように撫でた。


「それに、シンデレラはお姫様の姿で出逢った王子様と、素顔で再会するお話なのよ? こっちも小羽にぴったりの役柄だと思うわ。小羽は素顔のほうが素敵だもの。きっと恩人の王子様だって、ちゃんと小羽を見つけて一番に愛してくれるわ」

「う、うん……そうだといいな……」


 話しながらこれでもかと撫で回され、小羽はとうとうとろけ始めた。照れ笑いを浮かべる顔が、徐々に眠気に押され始める。丸い頬の輪郭を横から見ていた紗夜もそれに気付き、小羽をベッドに横たえた。


「紗夜ちゃんも……」


 ベッドの近くに敷かれた来客用の布団を一瞥し、紗夜は淡く微笑む。


「ええ、一緒に寝ましょう」


 出番のなかった布団が寂しげに横たわるのを少しだけ申し訳なく思いつつ、紗夜は灯りを消して小羽の隣に潜り込んだ。

 未だ子供体温の小さな体を抱きしめ、深く息を吐く。

 昔語りをしたからか、その日の夢は幼い頃のしあわせな記憶だった。

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